03.
仕事自体は簡単に終わった。
警察から上がってきた供述書と足取り。彼女が探しているのは、歓楽街のホストだと分かった。すぐに見つけて、彼女のことについて話した。まんざらでもなさそうで、彼女の身元を引き受けに行って告白すると言っている。
「おれ。彼女とまともに付き合おうと思って。ホストやめたんすよ」
「そすか。ホストも充分まともな仕事だと思いますけど」
少なくとも。自分よりは。
私はずっと、人の足取りを追って。自分の逢いたいひとを、探し続ける人生。見つからない。ずっと。
「ホストってほら。女性と関係持つのが仕事なんで。そうなると、彼女悲しむかなって」
「じゃあ、ちゃんと連絡して、彼女を離さないようにするんだね」
「おっす」
「彼女が粘着してきたら、うちに来ればうまく取り合ってあげるよ」
「ありがたいっす。本当にどうしようもなくなったとき、頼らせてもらいます」
名刺をありがたそうに受けとるホスト。
「ひとついい?」
「はい」
その頬に、一瞬だけ、触れる。
「違うか」
「へ?」
「探してるのよ。理想のほっぺたを」
「はあ。おれにはあんまり触らないでもらえると助かります。彼女のために」
「ごめんなさい。今回の費用は無料だから。それで手を打って」
「ありがたいっす。なんでもかんでも」
「いいえ」
ホスト。うれしそうに、走り去っていく。
依頼者とホストの今後が明るいことを願いながら、昼の歓楽街を出た。
私の逢いたいひと。
きっと、もう。
ここにはいない。
夢の中でしか、逢えない。さわれない。そういうものなのだろう。
依頼者とホストのように、現実で出逢って、恋に落ちることは。ない。
それでも、どうしても探してしまう。
触れたい、感じたいと、思ってしまう。
「わたしは、浅ましいな」
陽射しだけが、やわらかく私を照らしていた。
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