読切版 0.4-太陽より高く

 目を開けると、二体の巨人が立っていた。


 片方は牙を俺に向け、片方がそれを静止させている。

 その姿は忽然と、それでもって悠然と現れた。


 白い物体だ。金属の光沢に、赤い差し色。

 ずっと見ようとしなかったその姿が、今、目の前にある。


 俺は瞬間、理解する。


「俺を、救ってくれたのか」


 誰にも見つけられなかったその存在は、俺のために動いてくれた。

 悲観していたのは俺だけだったようだ。なんたる馬鹿さ加減だろうな。


 その白銀の人型兵器は、青の人型兵器ええい分かりにくい、青を両手で押し返し、よろめいた青は運動場に倒れた。


 周りの校舎をぶっ壊しながら登場した白銀は俺に向き直ってしゃがみ、胸からレールのようなものを上下に開き、中から物体を出した。


 人一人が座れそうな場所だ。やっぱり俺は理解する。


「乗れってことか。上等だ」


 俺は即座に駆け上がった。

 コックピットを閉じると、瞬間、目の前が真っ暗になった。


「…ん」


 目を開けると、そこは運動場だった、

 しかし、何か違う。変な感じだ。


 周りを見回す。

 目の前には、起き上がった青がいる。身長は俺より少し低い。

 …え?


 俺は下を向く。

 白銀のボディーに、節々にある赤色の金属。

 その間のフレームには緑色の血液みたいなのが流れている。


 つまり、これはさっきの人型兵器ということになる。


 おいおい、乗りこんじまっただけでなく、俺自身がそうなっちまったってのか。


 と、目の前にディスプレイが表示される。

 俺はその謎文字を読む。何故読めるのかは知らないが、きっとこいつの電脳的なものと俺の脳が一致しているのだろう。意識下で理解する。


「セブンスライン」


 武骨な名前よりかは幾分かましだな。それにようやく理解した。なんで俺だけ見えたのか。


 つまり身体的特徴が同じだったんじゃないのか。


 肩が大きめ、腰は多めのプレートで覆い尽くされており、腕やら脚やらはすらっと長め。手に至ってはかなり尖っているし、顔は悪人顔。おまけに背中に二つ翼?スラスター?みたいなものもついているが、良い感じのバランスなのかもしれない。


 現に俺は今普通に立っている。


 だからつまり、見えたのは、運命とかじゃない。きっとこれだってどこかの宇宙人が偶然落としちまったんだろう。情報はこいつにあるかもしれないが、今はどうでもいい。


 全ては単なる偶然だ。


「たちが悪すぎるが」


 言いながら目の前を見据える。

 青はもう俺に走ってきている。獲物を追う目だ。


 俺は咄嗟にその牙を掴んだ。


 俺は必死に両手で抑える。金属の擦れる音が続く。


「があああああああっ!」


 気合と共に押し返そうとしたが、青は即座に力を抜いた。

 おかげで俺はバランスを崩し、つんのめり、そのまま青は回転して尻尾が背中にジャストミート。


 俺はそうして運動場をさらに壊す。


「くっそおお!」


 と、思うのも束の間、青は俺の両腕を掴み、動けなくした。

 後ろを見ると、口が大きく開かれ、そして、


 赤白い光が溜まっていた。

 つまり、これは、


「ビーム兵器ぃっ!?」

 絶望に叫んだ瞬間、俺は悟った。

 また死ぬのかもな、俺。


 それは杞憂らしい。

 今俺は空高く飛んでいる。


 何故?

 視界の左端に何かが表示されたことしか分からない。


 俺は校舎の屋上に着地した。

 しかし、静かに降り立った。


 駐車場には、ボーリング調査宜しく大穴が真っ直ぐ開いている。


 そして青は俺に振り向き、再度ビームを放つ。意味を理解する暇もなく俺はまた飛ぶことになる。


 坂を駆け下り、屋上を、建物を、家を、ビルを、ビームをすり抜け、走り幅跳びみたいに飛び跳ねる。


 しかし、どこにも被害は出ていない。

 だんだん分かってきた。


 俺は俺の脚を見る。ふくらはぎの当たりの装甲が分割され、金属のプレートが三枚飛び出ている。


 そこから甲高い音と、謎の粒子が出ている。つまり、反重力装置的な、そんなとこだろう。ディスプレイはその説明表示か。


 アニメ見てて良かった。ありがとう文化。


 そんでもって俺は全てを飛び越えて一周。口が追い付いてない青の背後に飛び込んで、


「どぉりゃあああああああああ!」


 盛大なドロップキックを放った。


 勿論、反重力装置は切ってな。



 天気は晴天で、青々とした青空が俺たちを包んでいる。

 吹っ飛んだ青は通学路の坂を転げ落ち、住宅街の前で止まった。


 かなりのダメージを食らったはずだ、青の周りに放電が走っている。俺の脚も痛い。

 しかし、奴はまだ止まらない。口からの光を溜める。それは徐々に膨らんで、今までで一番の大きさとなる。


 どう対処しようかと考えていると、視界の真正面に大きくディスプレイが表示された。


「えーと、なるほどな」


 俺は承認の合図を送る。


 すると、先ほど開けたコクピットのレールが上下に開閉、俺の両腕とともに真正面に展開。緑色の血液みたいなものが黄金に光ったかと思うと、背中の翼のバインダーが開き、これまた金色のプレートが三枚扇状に展開、高音と粒子を発する。


 レールの間には電撃が走り、それが溜まる音がする。


 俺は目の前の人型兵器を見つめる。


 随分と、遠回りをしてしまった。

 でも、もう終わりだ。いや違うな、これから始まるんだよ。

 お前の思いを、無駄にはしない。


 最高潮まで溜まったことを感覚で理解する。

 目の前の青の光も最高状態の様だ。


 俺は、最大限の力と、声と、全てを振り絞って、

 そうして、

 両腕を開いた。


「はあああああああああああああああああああああああああ!」


 目の前を一条の光が通りすぎ、二つの光が一緒になって、



 全てが光で包まれた。

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