読切版 0.3-今、覚悟の時
そうやってあくる日、俺はまた長い坂を歩いていた。あんまり歩は進まないが、そうして校門に着く。
左に運動場を捉えながら、反対の下駄箱へと歩いていた。
ようするに、普通の日々を過ごしたかったんだ。
だが、現実はそれを許さないらしい。
突然、影が下りた。
そうして、地響きが鳴った。
それは一瞬のことで、俺は足を踏み外し、転んでアスファルトに膝を打撲しながら運動場を見る。
そこにいたのは、
青い人型兵器だった。
姿形は人というより怪獣に近い。しかし二十メートルはありそうなその怪獣は運動場をめり込ませ尻尾を振り振り喉を鳴らす。
校内では騒ぎが起こっている。学校にいた群衆が生徒、先生関係なく校舎の裏へと逃げ出していた。全員に悲壮な顔が浮かんでいる。しかしそんなことよりも重要なのは、
俺が見ていたものとは違うってことだ。
何故だ?一体じゃないのか。
そうして辿り着く。この疑問を解決できるのは一人だけだ、と思った瞬間、
あいつは俺の前を通り過ぎた。
間一髪で腕を掴む。
「何してんだ!」
しかしそいつは相も変わらず笑顔で、
「皆には見えないから、時間稼ぎぐらいはできると思って」
何を言っている?
「お前正気か?」
「勿論。それに、君は早く逃げるんだ」
そんなことできるか。
「何で?君は知らないことを選んだのに」
そうだ、俺はそっちを選んだ。しかし今目の前の状況でそんなことを言えるやつがいるか?
いや、違うのか。
俺の足はすくんでいて、動けなかった。
手だけがガッチリ掴んでいた。
まぬけだな、俺。
だから、気付けなかった。
「でも、それでもお前が―」
そう言った矢先だ。
人型兵器は、一瞬で、一歩で近づいて、
大きな牙のある口を開いて、
俺は押された。
姿を隠されながら押したやつは口を開く。
「お前じゃないよ。僕は」
昨日見せた満面の笑顔で、
「
そうしてそのまま、
完全に見えなくなった。
体をアスファルトに打ち付ける。
動悸がする。吐き気もだ。
何をしたんだ、俺。
理解が追い付かない。
だが人型兵器は待ってはくれない。大きな雄たけびをあげ、
それが俺を廊下まで吹っ飛ばした。
壁に強く背中を当てる。眼鏡は壊れ、痛みが走り、
そうして何も見えなくなった。
思考だけが、逡巡する。
何をしてるんだ、俺は。
何で俺を守ったんだ、黒鉄は。
そうだ、最初から疑問だったんだ。
黒鉄纏は、何故部活を作ろうとした?
あいつは何でも知っていた。だから俺が隕石を人型兵器と見ていることを知っていた。だから昨日、黒鉄は俺よりも先にいた。
だったら、黒鉄は知っていたんじゃないのか。今日、こうなることも。いつからか、偶然か、必然かは知らないが、周りには見えない何かが、自分の入学する学校を襲ってくる。そうやって全員死ぬ運命だったんじゃないのか。
だから変えようとしたんじゃないのか?この未来を。
でも一人でどうこうできる相手じゃなかった。
だったら、そうか。簡単なことだったのか。こんなことを隠してたのか。なんて面倒な奴なんだ。最初から分かり切っていたじゃないか。あいつは部活を立ち上げようとしていた。そうやって俺を選んだ。
その理由なんて一つしかない。
あいつは、助けが欲しかったんだ。
ただ、何とかしたい一心で、行動をしていたんだ。
わざわざ隠しやがって。最初から言えよ。なんだ、全部腑に落ちた。
でも、まだ納得できていない。
だったら俺はどうなんだ。
黒鉄はさっき一人で行動した。その理由は、俺しか見える人間がいなかったからじゃないのか。皆も新聞もテレビだって隕石の話題で持ち切りのこの世界で、そんなことを言って信じてもらえるわけがないから。でもあいつは行動した。こんな結末を変えようとした。
対して俺はどうだ?
初めて見た瞬間から知らないことにして、見るのを止め、聞くのを怖がり、知ればよいものを黒鉄の誘いを断って。その挙句がこれだ。俺は最初から何もできなかったんだ。何もしなかったんだ。どんなときでも笑顔なあいつですら、唯一知っているはずのあいつですら俺は助けに行かなかったんだ。
何をしてるんだよ、俺。
なんで、こんなとこで、倒れてるんだよ。
もっとやるべきことがあっただろうが。
人型兵器は止まらない。右腕で校舎を壊し、その中から出る光が俺を照らす。
俺は、知ってたんだ。ただ、逃げてただけだったんだ。知らないふりをして、そうやって過ごそうとしてただけだったんだ。
だから、立たなきゃ。
うつむいたままで良い。
だから、言わせてくれよ。
俺はさ、落ちてきた、あの光を見てから、痛いくらい分かってたんだよ。
「今までの世界が灰色なんじゃない。こんな世界が、綺麗に見えてただけなんだ。俺はこの一カ月、ずっと見ようとしなかったんだ。だって人型兵器だぞ?こんなにもワクワクして、興奮して、楽しそうなのに、ただ俺以外の人間がそこにいないだけで、逃げちまったんだよ。でも、気付いたんだ。分かったんだ。俺は独りじゃないんだよな。皆がいなくていい。新聞もテレビも専門家だって、何言ったって構いやしない。俺は、この世界でお前ともっと過ごしてみたかった。だから、今更思う。俺がやらなくちゃ駄目なんだって。お前の思いを継がなくちゃって。俺が壊してしまったから。だから」
目いっぱい息を吸い込む。そうして顔を上げて、全部を吐き出す。
「俺は、こいつを!倒したい!」
瞬間、眩しい光が起こった。
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