読切版 0.1-隕石ライクア?

 隕石が降ったらしい。止まったけど。


 俺は今入学式で、校長の長ったるい話を右から左に流している最中だ。普通の高校、普通の進路。普通。良い響きだ。


 周りを見る。皆がこれから始まる新生活に心を躍らせている顔をしている。

 対して俺は全くもって躍れない。


 いつからだろうな、この世界が灰色がかって見えちまうようになったのは。皆普通が嫌いで、でもそうするしかなくて、結局なぁなぁで暮らしてる。俺には全く理解できないけどな。


 だが、理解できないのはそれだけじゃない。俺がげんなりしてるのもそれだけじゃない。


 忘れるはずもない一カ月前、それは降ってきた。


 標的にされたのは人口五万人の普通の町、ながれ市。


 そのとき俺は本屋からの帰り道、自転車に乗って走っていると、突然爆光が視界を捉えた。見とれた結果自転車から転げ落ち、膝をすりむき、あぁこん畜生が、ノストラダムスは時間を見誤ったのか。もうちょっと正確にしとけよそうすれば回避できたかもしれないだろこの野郎とか愚痴りながら人生最期の瞬間を地面と見つめ合って過ごすかと思いきや、


 それは落下しなかった。いや、止まった。


 何を言っているんだろうな。

 俺だって知りたいくらいだ。


 つまり、住宅街その数キロメートル上空で、それは停止したんだ。

 怪我人多数。住宅数十棟倒壊。しかし死者数ゼロ。

 奇跡か何かか、それとも罰か。


 それからはとってもシンプルだ。まずはネット、新聞、テレビその他メディア全てがその報道一色。直径数百メートル級が止まったらしいんだからそうだろうよ。住民はひとまずの避難生活が続いたが、いつになれば安全と胸張って言えるのか分からん状況に市も消防も国でさえ困り果て、挙句の果てに各々の家とかそうであった場所に強制送還。


 結局住民は気味悪がって自分たちから避難し今じゃほぼ封鎖状態。最終的に大学の専門チームが調査しますの一声で試合終了。そうして新生活の波は一層早く訪れて結局超常と日常が混在したまま一カ月、今俺は平和に入学式真っ最中。


 しかし、だ。


 俺が理解できないのは、それじゃない。


 確かに降ってきたことには驚いたし、共感しかできない。

 だがな、報道は違うだろう。


 俺が帰ってきたときに心配顔で母親が言ったセリフが忘れられない。


「隕石大丈夫だった?」と。


 ネットも新聞もテレビだって、皆が皆あれを「隕石落下」「隕石停止」「隕石寸止め」


 お前ら何を言っている?

 俺はそんなもん見ていない。

 だって最初に言っただろ?


 隕石が降ったって。


 俺があの時転げた体を起こしながら見たのは、

 俺が登校時四月のくせに激暑の中生徒を殺そうとしてるんじゃないかと疑いたくなる程長ったるい坂を上りながら見たのは、


 最初から、白い物体だったんだ。


 金属の光沢に、赤い差し色。おまけに悪人顔までセットになっている。今はしゃがんでいるが、立ったら二十メートルは優に越えそうなそんなもの。


 思い出して俺は溜息をつく。だってさ、


 どう見たって、人型兵器だろ。

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