第12話 そして一行はファミレスへ





「お〜!薪村ってあの黒川と知り合いなんだなぁ?」



「あ、あぁまぁ……」



 店内に谷原のバカみたいにでかい声が響き渡る。さっきからずっとこんな感じで、幸い俺から見て斜めの席に座ってくれているから被害は少ないものの、前に座っている樋口は頬をひくつかせている。いつぶち切れるか、見ていて楽しみだ。


 席は窓から 樋口 晶 俺 その向かいに 谷原 叶 赤坂 になっている。


 隣に明がいてくれるのはとても助かるんだけど、赤坂が目の前にいるのだけはどうしても慣れない。さっきからずっと俺のこと睨んできてるし。



「マッキーって〜、結構先生に頼み事されてるよね〜」



「……………え。あ、マッキーって俺のこと?」



「そうにきまってんじゃ〜ん」



 初めて言われましたが?


 日頃、遠目に見ていたほわほわな笑顔がすぐ近くにある。間延びした声はゆるふわな見た目と完全にマッチしていて、まるで人形みたいだとも思った。



「まぁ、俺の方も断らないから。頼めばやってくれる奴って思われてるんだと思う」



「んなもん、さっさと終わらせて来りゃ良いじゃねえかよ」



 全くもってその通りなのだが、俺はそもそも最初から行く気がなかった、なんて言えばどうなることか。怒っているというか、不貞腐れている赤坂に困っていると。



「まぁまぁ〜、赤ちゃんもそんなに怒らないの〜」



「赤ちゃんっていうんじゃねぇ」



 横から頬を突かれながらツンっとそっぽを向く赤坂。叶はそれを気にも留めず、赤坂の頬から手を離そうとしない。赤坂の方も小さく「やめろ」と言うが、本気で止める気はなくされるがまま。


 お前ら付き合ってるの?と言いたくなるほどイチャイチャしてる気がするんですが……



「ごめん、結構本の量が多くて。黒川にも手伝ってもらってたんだ」



「あの黒川さんがね……まぁいいか。とりあえず飲み物取ってきましょ」



 樋口は手をパンと叩くと、何を飲みたいかみんなから聞いた。





♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎


 



「ねぇ、薪村くんって何でいつもマスクしてんの?」


 

 持ってきたメロンソーダを飲もうとすると、突然晶越しに樋口が俺にそう問いかけてきた。



「特に理由はないけど……なんで?」



「だって薪村くん顔立ち整ってるから、学校でもマスク取ればモテそうなのに、って思って」



 なんかやけにガツガツくるな。褒めるなら何でも言っていいってもんじゃないぞ。


 ちなみに今はマスクは外してる。流石にいちいち外しながら飲み食いするって言うのも手間だし、何より行儀が悪い。



「いいじゃないか、優希の素顔なんて滅多に見れないんだ。本来は私しか楽しめないんだから、目に焼き付けておくといい」



 隣でまるで自分のコレクションを自慢するかのように満足げな表情の晶。話してる俺と樋口の間でドヤ顔かましてるからかなりシュール。


 助け舟を出してくれたのはありがたいが、この顔は単純にムカつく。後で抓っておこう。



「確かにな!俺も薪村の顔しっかり見たの初めてだ」



「あたしもぜんぜん知らなかった〜」



 俺は髪も短いわけじゃないから、マスクをしていれば顔の殆どが隠れているわけで、普段とはやはり印象が違うのかもしれない。


 

「私の一押しはこの泣き黒子だね。優希の可愛らしい顔立ちと合っていて、大人っぽさが「お前少し黙れッ」ングむむっ…」



 少し興奮気味になりつつあった晶の口を押さえつける。どうした?お前そんなキャラじゃないやん。てか黒子は普段からみえてるだろ。


 案の定、俺たち以外の4人はポカンとしており、谷原に関しては気付いていないのか中身のないコップをストローでズーズー啜っている始末。行儀悪いからやめなさい。




「お前らって………付き合ってたのか?」




 最初に口を開いたのは赤坂だった。続いて目の前でズーズー煩い谷原の手を樋口がこら、と叩き、叶は赤坂の投げかけた疑問に同調するように「お〜」とうんうん頷いている。


 もちろん答えはNoだ。駅前でもそうだったけど、やっぱり俺と晶の距離感ってあんまり良くないのかな。コイツの性格的に、あんまり同世代の女子と感じが違うから、ついつい男友達みたいな強引な絡みになっちゃうんだよな。



「い、いや別に付き合ってるってことでは……」



「嘘じゃねぇな?」



「嘘じゃないってば……なんでそんな疑うんだよ」



「もし付き合ってたなら、お前らを誘ったのもあんまり良くねぇことだからな」



 ……? どういうことだ?



「人の恋人を合コンに誘った、ってことになるから赤坂くんはそれを気にしているんだよ。この場合は二人とも誘われてるから少し特殊だけどね」



 あ〜、なるほど。確かに恋人が合コンに誘われて何も気にしない、なんて人は少ないか。それも本人の前で誘ってたんだから普通に考えて相当ヤバいよな。



「赤坂くんは、不良に見られがちだけど本当は凄く真面目な人なんだ」



「うっせぇぞ宮代。由那も頭撫でてんじゃねえ」



 由那は叶の下の名前だったと思う。女子が叶のことをそう呼んでいた気がする。


 鬱陶しそうに叶の手を払い除ける赤坂と「赤ちゃんいい子〜」と構わず撫で続ける叶。この2人普段はそこまで絡みがあるとは思ってなかったけど、めちゃくちゃ仲が良い気がする。俺らよりもあんたらの方が付き合ってますよね?



 奥の方では樋口と谷原は2人でメニュー見ながらボケとツッコミの応酬してるし、このグループって恋人として出来上がってるやつら……の………あれ?



「あのさ…男子ってもう1人いなかったか?」



 恐る恐る晶に聞いてみた。今気づいたが、本来俺は予定にないメンバーだから、男子は俺を除いて3人いるはずだ。だけどここに居るのは赤坂と谷原だけ。1人足りない。



「瑞樹くんのこと?」



「だっけ?あの少し小柄な男子の人」



「あいつならもう帰ったぞ。家が少し厳しくてな……ッたく、せっかくあいつのために仕込んでやったのによ」



 苛立たしげにコーラを飲みながら何やらぶつぶつ呟いてる。

 ほら、そんな風にしてると……



「そんなに落ち込まないで〜赤ちゃん」



 ほら、叶の撫で撫でがまたやってきたぞ。



「別に落ち込んでねぇ」

 


「尋は少し奥手だから、真人が強引に今日の合コンをセッティングしたんだよな。尋の恋人作りのために」



「へぇ…」



 じゃあ、その瑞樹くんがこの回の主役だったってことか。直接話したことはないけど、見かけるのはいつも赤坂と一緒の時だった気がする。守ってあげたくなるような可愛い感じの男子で、この男子2人と仲が良いのが少しだけ信じられない。



「まったく、付き合わされるこっちの身にもなってほしいわよ」



 だよなぁ。赤坂の言うことがそうなら、ここに居る一部はそれにつきあわされてるわけだから。谷原と叶は楽しみにしてたみたいだけど。



「何言ってんだ。来週も来てもらうぞ」



「はぁ⁈またあんの?」



「当たり前ぇだろ。今日のやつはノーカウントだ」



 身を乗り出してくる樋口を知らぬ存ぜぬの態度でいなす赤坂。


 樋口は元々あまり乗り気ではなかったんだろう。俺のせいで中止になったわけだからなんだか申し訳ない気持ちになる。



「それよか今回急に男子が増えたってんで、あっちから女子の増員しろって言われてんだ」



「じ、冗談でしょ……」



 すまん樋口よ。許してくれ。


 ここで俺に対して何も言わないのは樋口が優しいからだろう。学校ではダウナーな雰囲気を漂わせている樋口だが、晶と叶というタイプの異なる変人を相手にしてるだけあって、懐はだいぶ広いみたいだ。女の人には懐が広いって使わないか?


 樋口は絶望したように席につくと、死んだ目をして項垂れてしまった。アホみたいに空気を読まず谷原が慰めているが効果は薄そうだ。



「別にお前らには頼まねぇよ。今日のが流れたのはそこのヤツのせいだからな」



 全員の視線が一斉に俺に向く。



「えっ?」



「当たり前だろ。お前が遅れたのが原因なんだからな。誰か女子1人、頼んだぞ」


 

 は?俺が誘ってくるってこと?



「い、いやいや!俺にそんな「お待たせしました〜!こちらハンバーグプレートになります」…っ」



 タイミングよく(悪く)店員さんが、熱々のプレートに乗ったハンバーグを持ってきた。谷原が子どものようにはしゃいでいる。


 え〜?そんな罰ゲームあります?






 その後も話す間がないくらい次々と料理が運ばれてくるものだから、蒸し返すのも申し訳なくなりそのまま自分のミラノ風ドリアを食べるしかできなかった。確かに俺のせいといえばその通りだから。




 ツンツン



 熱いうちに食べようとすると隣から太腿を突かれた。横を見ると、申し訳なさそうにこちらを見る晶。



「ごめんね……」



 もしかしてコイツ……俺がこんな事態に陥ってしまったことに対して責任を感じている?


 まぁ確かに、俺が参加したのは晶の評判を落とさないようにするためだし、端的にいえば晶のためだ。


 晶もそれを薄々感じていたのかもしれない。



「別に気にすんなよ」



 俺がそう言うと、晶は嬉しそうにスプーンを……ん?スプーン?



「ありかどう……食べてみたかったんだ、ミラノ風ドリア」



「…………は?」



「あまりこう言うお店に来たことがなくてね。話には聞いていたけど、これが………あれ、どうかしたのかい優希?」



 ハイ、お前のことなら分かってますよ感出した俺が馬鹿でした。



「フンッ、勝手に食えば……」



「ゆ、優希?どうしたんだい?」




 はぁ、女子誘うったって、俺にそんな知り合いいねぇよ………




 


 

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