第9話 俺は出会いが欲しい……らしい




 ペラ………ペラ……パタン


(はぁ、本も読み終えたし。やることないなぁ)



 今日も今日とて、俺は変わらずクラスの端っこで本の虫。昨日買った単行本も読み終えてしまい、今はただの虫になってしまった。



「ん〜?」チラ





『なぁ今日の放課後さ、他校の奴らと一緒にカラオケ行くんだけど樋口たちもどうだ?』


『俺らも女子連れて来ないといけないらしくてさぁ』



『えぇ?そんなこと勝手に決めないでよ』


『イケメン来る〜?』


『ちょっと間野っち』



『もちもち! 頼むよ、もうセッティングしちゃってんだって』



『私は遠慮しておこうかな、そういう集まりには興味ないんだ』


『確かに宮っち行ったら、他の女の子みんな宮っちに行っちゃうかもしれないね』


『それある〜』



『いやいや、宮代は男子人気もあるんだから是非来て欲しいんだって。な?頼む!!』



『困ったね……』


『あ、それなら薪村連れて行けば?』



『は?何で?」



『あんた知らないの?宮っちが興味あるのはだいたい薪村絡みだから。この前の土曜日も2人きりで出かけてるのを見たって目撃情報があるの』


『おや、誰から聞いたんだい?』


『ふっふーん、内緒』



『薪村ねェ』 チラ







 ええい!こっちを見るな! ていうか、土曜日のバレてた⁈


 せっかく変装(?)して出かけたというのになんという失態だろうか……



 トントントン、という足音と共にピアスを付けた茶髪のクラスメイト、赤坂が近づいてきた。




「オイ」



「な、なんでしょうか?」



「お前放課後ヒマか?」



 悩む。ここで暇と答えてしまっていいものだろうか。恐らくコイツは俺を餌にして晶を遊びに連れて行く算段なんだろう。

 俺がコイツらの遊びに行ったところで俺は蚊帳の外なのは間違いない。そしてそれを憐んだ晶はきっと参加するだろう。俺を1人にしないように。


 

 でも逆に俺が断ってしまえば、晶は行く理由を失うわけで、これで全て解決する………かと言われればそうではない。


 楽しみにしている合コンもどきが潰れれば赤坂は俺を恨むだろうなぁ。それだけならばまだいいが、晶の方に風当たりが強くなることだけは絶対に避けたい。



「まぁ、空いてるけど」



「じゃあ放課後、○○駅のカラオケな」



「え、あ、はい」



 それだけ言うと赤坂はすぐに他の人たちの輪へ戻っていった。相手に意見をさせる余裕を与えないと言うか、話し方とか声に威圧感があって、YESと答えるつもりだったとか関係なく頷いてしまっていた。


 行くことは決まってしまったがどうしようか。はっきり言ってクラスの連中とはほとんど話したことがないし、他校の生徒なんてもっての外。


 小中高と人見知り&コミュ障を遺憾なく発揮してきた俺に友だちなんて殆どいないし、すでに出来上がっている輪に溶け込むなんて無理ゲーすぎる。なんとか飲み食べしながらスマホいじって時間潰すしかない。


 


『薪村行くってよ、宮代ー』


『本当?彼もこういう集まりには興味がないとおもっていたんだけど』


『なんか…ちょうど出会いがほしかったらしいぞ』




 おーい!誰がそんなこと言った⁈勝手なこと言ってんな!


 思わず席を立ち上がりそうになったがすんでのところで止まった。俺が声を上げたところで変な空気になるのがオチだ。行くこと自体は同意してるから理由はこの際目を瞑ろう。


 彼女が欲しいと思ったことがないわけではないが、今は特別欲しいとも思わない。好きな人がいるわけでもないし。


 しかし、俺の答えを訝しんでこちらを見てきた晶と目があった。



 ーーこ・い・び・と・ほ・し・い・の?ーー



 すると晶は口パクで声を発することなくこちらへそう問いかけてきた。恐らく俺への気遣い故のものだろうが、その姿が少しおかしくて笑いそうになる。


 俺もそれに答えるべく、普段は学校で外すことは少ないマスクを外して応じた。



 ーーほ・し・く・な・いーー



 俺の返事が予想通りだったのか、一瞬だけ笑うとそのまま一団との会話に戻っていった。口パクでの会話は初めてだが、なんとか伝わったみたいだ。


 ていうか、樋口がいってたけど土曜日に出かけたのが普通にバレてたのは驚いた。マスク外したくらいじゃあやっぱり意味なかったか。情報元が分からないからなんとも言えないけど、広まってたら少し心配だ。晶のファンには少し怖い人もいるからな。



 とにかく放課後に仲良くないクラスメイトたちと一緒に、知らない他校の生徒と遊ぶハメになったけど、上手くやれるだろうか。出来るだけ波風立てずにやり過ごすしかないな。







♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎♢ ♢♦︎♢






「てなわけで新しく入った本の棚入れよろしくな、薪村」



「どういうわけなんでしょう?」



 放課後、クラスの連中は先にカラオケに行ったらしく、それについて行こうとしたら廊下で先生に捕まり、図書室の隣の図書倉庫に連行された。


 担任ではなく隣のクラスの先生で、奥村先生という。メガネをかけた無精髭が特徴で、いつも疲れてそうな顔をしている。

 週に何度かはこんな感じで何かを頼まれることがある。



「新しく入った本が貯まってるから手伝ってほしいんだ。まぁいいじゃないか、また今度ジュース奢ってあげっから」



「買収ですよ、それ。別にそういうことなら、理由さえ言ってくれればお手伝いしますよ」



 俺としてもできることなら極力手伝ってきたから、完全にそういう「頼めば手伝ってくれる生徒」って見られ方なんだろうなぁ。

 ちなみにそのせいか、今では色々な先生からこんな感じで頼まれることがある。絶対に広めたのは奥村先生だ。



「本当いつもありがとうな。これから補修の担当があって手が離せないんだ。図書委員もいるから、一緒にやってもらってくれ」



 そういうと、奥村先生は小走りで倉庫から出て行ってしまった。


 

 長机に積まれた3つの段ボールには本が所狭しと詰め込まれている。タイトルを見ると、推理ものやファンタジーなどさまざまなジャンルの小説が目についた。



「結構な数だなぁ、これだと少し時間かかりそう」



 この量を見た時点で、俺の中の放課後のカラオケ参加というイベントは中止になった。


 俺はほとんど晶を連れて行くためのおまけみたいなものだろうし、もう参加してしまえば俺がわざわざ後から行く必要もない。途中で帰るほど晶も空気が読めないわけでもないだろう。それに行ったところで特に何もないだろうし、変に気を使わせてしまうかもしれない。



 あとでお詫びの連絡だけ入れておこう、と決めて取り敢えず段ボールを図書室の方へ運ぶことにした。


 図書委員の奴とは久しぶりな気がする。






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お久しぶりです。富士松でございます。

かなり空いての投稿になりました。


理由は完全なる「飽き」です。一つのことをやり続けているとどうしても訪れてくるんです。

なので最近は、もう一つ小説の下書きを書きながら色々なヒロインと主人公を描くことで気分転換しつつ続けていく、というスタンスを築きつつあります。

とはいえ、投稿頻度はかなり落ちると思います、気長にお待ちください。


書き出したのが日が空いてからなので、前の話と食い違う部分があるかもしれません。小さいものなら無視してもらって、気になるところがあれば誤字等も含めコメントなどでお伝えください。



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