第7話 好きなモノ
日が落ちてきて、ショッピングモールの人も昼間よりだいぶ少なくなってきた。見渡す限りがオレンジ色に染まっているくらい絵に描いたような夕方で、あとはカラスでも鳴いてくれれば完璧って感じだ。
あたりを見渡せば疲れて眠ってしまった子供を背負う父親と母親がいたり、仲睦まじく手をつなぐカップルや友人たちと騒ぎながら帰宅する同い年くらいの男子たちなど、駅を向かう人たちが前を通り過ぎていく。
みんな楽しそうな表情をしていて、其々がどんな1日を過ごしていたのか気になってしまうくらいだ。
あの後俺たちはもう少しゲームセンターで遊び、今となっては懐かしい駄菓子屋で買い物をしたり、本屋でお互いの好きそうな本を探したり、レジャー施設で体も動かしたりした。
そんなこんなで疲れ切っており、現在は女2人組に絡まれた噴水広場(3話参照)のベンチに座って、こんな感じに人々を眺めている。
因みに言うと、今は俺1人だけで最後の少しだけ晶とは別行動だった。何でも忘れ物があったらしく、先ほど店の方に電話をして確認し、取りに行っているのだ。俺もついて行こうとしたのだが、断られてしまった。
「あいつ忘れ物するほど物持ってきてたか?」
覚えている限りでは黒い小さめのリュックを背負っていたハズだが、何か物を取り出すのはほとんど見ていない。なので、もしかすると腕時計とかハンカチとかの身につけていた類のものなのかもしれない。
でもあの晶が忘れ物をするなんて珍しいと思う。学校では優等生で知られていて、もしかすると俺以外の親しい友人にも今日みたいな砕けた感じで接しているかもしれないが、アイツを知る殆どの生徒や教師側は忘れ物をしたり、待ち合わせに遅刻するような人物とは思っていないだろう。
それだけ俺の前では素でいるんだな、なんて一瞬嬉しく思ったのだが、その分だけ俺が面倒な目に合ったり、イジられたりしてるから結局プラマイゼロだ。
「まぁ今日のアイツ楽しそうだったし、別にいいか」
どんな人も二面性を持っているものだけど、俺といるときのアイツはそれとは少し違う気がする。普段抑えつけてるものを俺にぶちまけているというか、言うなればたがが外れているような感じ。すっげぇお喋りになるし。まぁ、あくまでも俺の感じ方に過ぎないが。
夕焼けのせいだからか少しだけそんなふうセンチメンタル(使い方合ってる?)な気分になり、晶のことを考えてしまった。黄昏時とはよく言ったものだ。
それから5分ほど待っていると、何やら先程までは持っていなかった少し大きめのショッパーを携えた宮代がアーケードの方に見えてきた。
本人はとても満足そうな表情をしながら俺の横に座ると俺に話しかけてくる。
「待たせてごめんよ」
「いやそこまで待ってないけど、忘れ物って買い忘れってことだったのか」
「ん〜…まぁそんなところかな」
どうやら微妙に違うらしい。確かにそう考えると別れる前に店側に連絡していたのも変な話だ。在庫の確認でもしてたってことか?
俺がどういうことか、少し言葉に詰まっていると、「優希」と改まったような真面目な声で呼ばれた。
「ん?どした?」
「今日は本当にありがとう。とても楽しかったよ」
「なんだよ急に、そんな改まって」
何々?これから告白でもするの?それとも引っ越しで転校する話?
「いや、こうして優希と休日に会うことは初めてだったから予想以上に楽しくて。ついつい感動してしまってね」
「おい」
つまらないの前提で遊びに誘うのやめてもらえませんかね?
こちとらこのアホが相手とは言え、容姿レベルで言えばトップクラスで学校でも人気な女子の相手を一日務めるってことでそれなりに緊張していたというのに。
「ふふ、冗談だって。でも楽しかったのは本当だよ」
「あっそ」
「もう、そんなに怒らないで。優希は…楽しかったかい?」
「え?」
と言うと、今度は少し不安そうな表情で俺の顔を覗き込む晶。俺の答えを伺うような仕草に少しだけ可愛いな、と思いつつ偏差値の高い顔面を押し返す。
「近えから少し離れろ。まぁ色々トラブルはあったし、振り回されるしでクタクタだけど……スッゲェ楽しかった」
「そ、それは良かった!はぁ…安心したよ 」
「ははっ、そこまでか?」
俺が笑いながら、答えると緊張が解れて安堵しきった顔になる。
「君がきっとそう思ってくれていたように、私だって君を楽しませたいと思っていたんだ。元々誘ったのは私だしね」
どうやらコイツには考えていたことがバレていたらしい。
もっとも、俺みたいな禄に女子とら2人きりで出掛けたことがないような男と一緒にいて楽しんでくれる変わり者なんてお前くらいじゃない?
お互いに同じことを思っていたのが、少しおかしくて顔を見合わせると自然と笑ってしまった。いつもと場所は違えど、2人きりのこの時間と空間がとても居心地がよく、心が暖かくなる。
すると晶は先ほど新しく携えてきていた袋を取り出して俺の前に出してきた。
「何だこれ?」
「一応、今日付き合ってくれたお礼と普段の感謝を込めてのささやかなプレゼントさ」
「プレゼント…」
イマイチ状況が飲み込めず晶の言葉をうわ言のように反芻する。突き出されたショッパーを受け取ると、大きさに反してやや軽めの重量が腕に伝わるのが分かる。
ショッパーの中には綺麗に包装された袋が入っており、それを取り出す。一度晶の方を見て確認する。
「開けてみて」
「お、おう」
ドキドキしながら紺色の包み紙を開けていくと何やら白いフワフワしたものが見えてきた。重さから機械系ではないことは察しがついていたが、色、見た目共に予想外のものが出てきた。
ん?何だこれ……?服とか靴下なら…ッ⁉︎
俺はその全貌が見えた途端、咄嗟に包み紙の包装を元に戻した。ソレが周りに見えないように。
多分今の俺の動きすっごく気持ち悪だったと思うよ?でも仕方ないじゃん見られたくないんだからさ‼︎
「お前…ッ‼︎コレっなんで……!」
「喜んでもらえたかい?」
帰ってくるのは満面の笑みと嬉しそうな声。やはりこの顔も学校ではあまり見ない表情で、まるで子どもが親に褒めてほしそうにする様な幼い表情。
まあプレゼント自体は嬉しい!すっごく嬉しいよ!!でも何でこれ⁉︎
「う……ぐぅッ、嬉しい…は嬉しい」
「もしかして、それじゃなかったかな?」
「いやコレ!欲しかった、けど……何で分かったんだよ。俺特にそんな素振り見せなかったぞ?」
「ふふ、優希が思ってる以上に、私は優希のことをよく見ているってことさ」
何を得意げに言ってるんだ。
俺はもう一度包み紙を解き、中に隠されていたプレゼントを取り出した。今度こそ中から出てきたのは、見るからに柔らかそうな『白いクマのぬいぐるみ』だ。
お恥ずかしいことに私、薪村優希はこのぬいぐるみのようなモコモコしたものやふわふわしたものが大好きなのだ。家にもいくらか置いている。
「変なのは分かってるんだけど、好きなんだよなぁ、こういうの。男なのに気持ち悪いよな」
「そんなことない」
嬉しさや恥ずかしさ、自己嫌悪など色々なものが押し寄せてきて少し自虐してみたのだが、俺を諫めるようにピシャリと言い切った。
「好きなものに良いも悪いもないさ。好きなら好きなだけ夢中になれば良いんだよ。私も優希のためにそれを選んだんだから、素直に喜んでおくれよ」
「……おう、さんきゅ」
こいつ、言うことまでカッコいいなチクショウ。でも確かに、俺のために選んでくれたのなら恥ずかしがるのも失礼かもしれない。
「悪いな、俺何も用意してなくて」
「言ったはずだよ、私に付き合ってくれたお礼だって」
「なら、次回は俺に付き合ってもらうかんな」
「え……ふふ、それは楽しみだね。」
チラッ<腕時計
「ごめんよ。家の人に言われてて、門限があるからそろそろ駅に向かおうか」
「ん。了解」
席を立つと気付いたが、話しているうちに周りの人も相当少なくなり、日も先程よりだいぶ傾いていたようだ。
今日は本当に楽しかった。あまり普段は家から出ない方だが偶にはこういうのもいいかもしれない。少なくともコイツと一緒にいれば退屈はしないだろうな。
次回はどこに行こう。インドアだからあまり遊ぶ場所は知らないが、ある程度目星はつけておいた方がいいだろう。
そんな風に早くも次のデート(もう諦めた)に想いを馳せながら、最後にぬいぐるみ抱き締めるとちょうどいいくらいの大きさで胸にすっぽり収まった。
「ふふ、可愛いね」
「返してって言っても無理だからな〜」
「そっちのことじゃないけど…まぁいいかな」
「ん?」
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ここまで読んでいただきありがとうございます
優希が少しオトメンになっているかもしれませんが、作者の趣味ですのでお気になさらず。
文章だけで面白さを出すのって難しいですね。クスッとしていただける要素も増やしていきたい今日この頃です。
これまでずっと登場人物が2人だけだったので、学校での話や家族、バイトなどの話に伴ってもう少しキャラクターを増やしていこうと思います。
回によっては他のキャラと優希が(少しだけ)イチャつくようなこともありますが、あくまでメインは晶であります。
次回は晶視点でデートをダイジェスト的に振り返る回にしようと思います。
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