第6話 罰ゲーム
「映画、この時間だと今から行っても間に合わないな。悪い」
「別に気にしないで。今回は仕方ないさ」
俺が申し訳なく思いながら謝ると、宮代は腕時計を見ながら、可笑しそうに笑った。映画が見れなかった上、先程まではるきちゃんに構いっぱなしだったから少し怒ってるかと思ったが、そこまで気にしていないようで少しだけホッとしてしまった。
現在は15時を回ろうとしているところ。今から映画に向かってもほとんど話の内容が分からないだろう。1000円無駄にするようなものだ。
「本当にすまん。警備員さんとかに引き渡すこともできたのに、結局こんな時間になっちゃって。もともとこの映画をmんむぐょ………にゃにしゅんだ」
話している途中だと言うのに口を、と言うか頬っぺたをギュッと握られる。おかげで今の俺の顔は見るも無残なタコぐちになっている。
結構恥ずかしいぞコレ。
「少しだけうるさい口を閉じてあげたんだよ。言ってるだろう、私は気にしてないから、君も気にしないでくれ。それにもしあの時はるきちゃんを邪険に扱っていたらそれこそ失望していたさ」
少しだけ最後の部分にドキリとしたが、また同時に自分の行為を肯定的に捉えていてくれたことに嬉しさも感じた。
それでもやはり申し訳なく感じてしまうあたり俺は少し女々しいのだろう。
タコぐちから解放されてもまだ俺の表情が暗いことを気にしたのか、宮代は俺の手を取るといつも見るような涼しそうな笑みを浮かべていた。
「じゃあ少しだけ、付き合ってもらおうかな」
「付き合うって……コレのことかよ…」
「お気に召さないかな?」
宮代は不敵な笑みを浮かべながら、手に持った銃を前の巨大スクリーンに向けて構える。もちろんレプリカだから銃口はないし、玉なんて入っていない。引き金はあるが、引いてもカチカチ音が鳴るだけ。
俺たちが今いるのはゲームセンターのシューティングゲームの前。周りは様々な筐体で溢れかえっており、それに群がる人と爆発的なゲーム音で耳が痛いくらいだ。
これからプレイするのは「world of the dead4」という所謂ゾンビ系のシューティングゲームで、それなりに有名なシリーズ物の4作目だ。俺も前に一度だけプレイしたことがある。
俺も宮代に倣ってレプリカ銃を持つが、コレがなかなかズッシリしていてリアルさを感じさせる。本物触ったことないけど。
「いいのかよ、コレに付き合うだけで」
「いや、それだけじゃつまらないからね。罰ゲームを設けようと思う」
「罰ゲーム?」
何かイヤな予感がするのは気のせいだろうか。
「スコア勝負さ。コレに負けた方が勝った方の言うことを聞く、っていうのはどうかな」
「まぁ、お前がそれでいいなら別に良いけど」
「言っておくけど、わざと負けたりなんかしないでおくれよ。それじゃやる意味がないからね」
これは相当自信があるということなのか。勿論手を抜く気なんて無かったが、そう言われると俄然やる気が出てくるというものだ。
それにもし勝ったとしてもこちらにも考えがある。
「おっけ。じゃあ全力で勝ちに行かせてもらうからな。覚悟しておけよー」
「そうこなくちゃね」
俺たちが筐体にそれぞれ1クレジット入れると、画面が急に暗くなり導入が始まった。なんだか少しワクワクする。
隣を見ると、とても楽しそうに画面を見つめる宮代の顔があり、罰ゲームなんて忘れて俺も純粋にゲームを楽しもうと思った。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!! クレジット追加で強化武器使えるなんて聞いてねぇぞぉおお!!」
「残念、私の勝ちだね。なんで負けたか明日までに考えておいて下さい」
「ムカつくぅゥゥゥ!!!!」
結果は俺の大敗。なんで負けたかなんて明白だ。俺がゲームシステムを把握し切れていなかった。
序盤は俺と宮代は互いにスコアの差は殆どなく進んでいたのだが、エリアボスと呼ばれる強めの敵が現れた辺りで差がつき始めた。宮代の敵を倒すスピードが異様に速いのだ。俺が体力の半分を削ったあたりで既に撃破していた。ボスは早く倒せばその分だけタイムボーナスが入るためそれが痛かった。以降俺との差は開くばかり。
疑問に思った思った俺は後半のムービーシーンの間に注意深く宮代側のスクリーンを見ると、なんとこいつグレネードランチャーやら大量の手榴弾を敵にぶち撒けていた。
そう。このゲームには課金のような要素があり、クレジットを追加することで強い武器が手に入るのだ。クレジット投入口付近の貼紙にもきちんと書いてある。最高で4枚追加することができ、その最後がグレネードランチャーである。つまりこの女、俺に勝つために400円も追加したのだ。
勿論それに気づいた時にはもう遅く、そのまま差をつけられ、俺よりかなり早くゲームをクリアしていた。
「そんな目で見てもダメだよ。私はただゲームの仕様に乗っただけでなにも不正はしていないんだから。クレジットを追加してはいけない、なんてルールも設けていないだろう?」
「〜〜〜〜!!」
でも教えてくれたってよくない⁈そんなに勝ちたいのか……勝ちたいよね、言うこと聞かせられるんだもん……。逆の立場なら俺だって教えない。
「ふふ、それでは約束通り言うことを聞いてもらうとするかな」
「くっ…殺せ……」
「殺さないよ。あ、でもその前に」
ん?何をニヤニヤしている。
「もし優希が勝ったら私に何を命令しようとしたのか教えてもらおうかな」
「は?」
「因みにこれも勝利者権限だから、答えてもらうよ」
「はぁ?命令は一つ……あっ」
重大なことを見落としていた。コイツは『負けた方が勝った方の言うことを聞く』とは言った。しかし、その回数が一回だけとは一言も言ってない。
「ふふ、気付いたみたいだね」
「お前ェ……」
「とは言っても、さすがに何回もは卑怯だからね。この質問ともう一つだけ聞いてくれればそれでいいよ。ほら教えて」
最後の「教えて」だけ、やけに優しい声で言うもんだから軽くドキッとしたが、平静を装う。ポーカーフェイスは得意だ。
確かに何を命令するかは決めていたが……言うのコレ?
宮代は俺をじっと見つめている。諦める気はさらさらないようだ。
「だから…その、映画見れなかったから、また今度遊ぼ、っていう……」
何これ恥っず‼︎恥ずかしすぎて口が骸骨みたいにガタガタするんですけど⁉︎
ポーカーフェイスあえなく崩れ去りました。
「………」
「…なんか言えよ……」
何かあっちも顔押さえながら肩プルプルしてるよォ‼︎絶対笑ってるやん‼︎‼︎
宮代は手をどけると俺と同じく赤い顔で、いつもは見ないような緩み切った表情をしながら言った。
「優希……可愛すぎるよ」
ッ〜〜〜〜‼︎‼︎
「うっせぇえええ‼︎‼︎お前が言えって言ったんだろうがああああ‼︎‼︎」
激情に任せて襟を掴んでやってグワングワン揺さぶるが、揺れる視界の中でもコイツは何か温かいものを見るような目でコチラを見てくる。
…あぁ、もう殺して
少し落ち着いてから、もう少し静かな場所へ移動して罰ゲームの続きを聞いた。
「で、もう一つの要求は?」
「ん〜そうだね、本当はコッチが本命だったけどさっきのインパクトが強すぎて少し拍子抜けになってしまうかもしれないね」
「もうぶり返すな…頼むから……ホラ言えよ」
「名前で呼んでくれないかな」
「え?」
変な声が出てしまった。余りにも普通というかもっと変なことを言ってくるものだと思ってたから。
「そんなんでいいのかよ」
「うん。是非呼んで欲しいかな」
「お、おう……あ…晶」
「うん。何かな優希」
こ、これはこれで恥ずかしい……。なんかさっきと違ってむず痒いというか、ジワジワくる感じ。
そのとき、ふと気になった。
「あのさ、この命令って、今日だけなのか?」
「うん?」
「明日からは何て呼べば……」
そこまでいうと意図を察したのか、「あぁ」と納得して、少し考えるとまた意地の悪い笑みを浮かべてくる。
「それは優希が決めることじゃないかな」
それも、そうか。別に無理に戻す必要もないし、違和感も…少しあるが、すぐ慣れるだろう。
こういう機会でもなければ呼び方なんて変わらないだろうし。
「じゃあ、このままで」
まぁ別に、学校だと人前で話すことも少ないし、2人きりのとき意外は宮代呼びで対応しよう。ここまで来て往生際が悪いかもしれないが、嫉妬の目が凄そうだからそれは勘弁してもらいたい。
「そう。嬉しいよ」
俺の答えに、宮代……晶はさっきまでとは違う優しい笑みを浮かべてくる。
てかその顔やめて…また顔が熱くなりそうだ……
「じゃあデートの続きといこうか優希」
「デートじゃ……はぁ、もうそれでいいや。急ごうぜ」
残る時間は少ないが、せっかくこんなデカいショッピングモールに来たんだ。いろいろ回らないと勿体ない。気になる店もいくつかあるし。
何故か先程よりもこのデートを楽しく感じながら晶の隣を歩いて行った。
「じゃあ早速デートらしく『優くん』『アキちゃん』呼びをしようか」
「調子に乗んなアホ」
===========================
読んでいただきありがとうございます。
今回は少しイチャイチャさせすぎたと反省半分達成感半分です。
現在絶賛迷走中です。見切り発車で初めてしまったため今後の展開が何も決まっておらず、今後も尺稼ぎの如く2人を無駄にイチャつかせることがあると思います。温かい目で見守って頂けたら幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます