第5話 迷子

投稿が遅れて申し訳ありません。


現在就職活動が終わり、資格試験へ向けての勉強や卒論、就職先への先行アルバイトとしての入社など色々忙しく余裕がなくなっております。今後頻度が少し落ちるかもしれません。


しかし日々妄想は行なっておりますので、優希と晶の少しだけ甘い日常を今後も描いていきたいと思います。



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「どうしたの?お母さんとはぐれちゃった?」


 男の子に目線を合わせ、震えてる小さい両手を握る。男の子はただ俯いてるだけだが、それだけで十分迷子になったということは分かる。

 チラリと時計を見るが今14時5分を過ぎたくらいだ。この子を迷子センターなりに送ってから戻っても果たして映画に間に合うかどうか。


「宮代」


「大丈夫、映画はいつでも見れるさ。私もこの子の方を優先するよ」


「悪い。ありがとう宮代」


 気にするな、という感じで迷いなく答えてくれた宮代には申し訳ないが、こんなに困ってる小さい子を放っておくのはなかなか難しいからな。


 さて、それじゃあどうするか。警備員さんとかモール関係者に預けてアナウンスしてもらうのが一番なんだけど。近くには店舗の従業員さんとかばかりで、なかなかその人たちに任せるのも気が引けるしな。


「お名前教えてくれるかな?」


「……は、はるき」


「ありがと。お兄ちゃんの名前はゆうき、こっちはあきらお姉ちゃん。よろしく。じゃあはるきくん、お母さんとどこではぐれたか覚えてる?」


「」ブンブン


 だよなぁそれじゃあ、


「はるきくん、今日どんなお店行ったかな?」


「……おもちゃのおみせ……」


 なるほど、おもちゃとなると場所は限られてるな。子供向けのおもちゃなんて扱ってるのはあそこしかない。

 振り向くとどうやら宮代も同じ考えらしく頷いた。


「トイバラス、しかないだろうね」

「だな」


 トイバラスはホビー系やゲーム、自転車など娯楽モノを多く扱っている商業スーパーで俺も小さい頃親と一緒によく遊びに行った。このショッピングモールにもあり、子供が親と行くおもちゃ屋といえばそこ以外はない。


 何時頃はぐれたかが分からないならそこへ戻るしかないだろう。案内版で調べてみると、どうやらこのフロアではなく2つ上のフロアらしい。


「じゃあはるきくん、今からそこに戻ってみよっか」


「うんっ……お兄ちゃん、ありがと」




 エレベーターから降り、はるきくんと手をつなぎながらトイバラスへ向かう。どうやらはるきくんは宮代のことが少し苦手らしく俺にくっついていて、宮代の方もそれを察してか俺たちの少し後ろを歩いている。なんか少し申し訳ない。


 時刻はすでに14時15分を回っている。もう少しでトイバラスに着くが、お母さんが見つかるという保証はない。映画はまた次回にしてもらおう。


 すると可愛らしい「きゅるるぅ」という音が右から聞こえてくる。はるきくんのお腹の音だ。当の本人も恥ずかしそうにお腹を抑えてる。


「お腹すいちゃったか……はるきくんちょっと待っててね。宮代少しだけお願い」


「もちろん。任せて」


 


 俺は近くにあったたい焼き屋さんへ行き、3人分のたい焼きを注文してきた。


 先程からいい匂いがすると思ってたのだが、どうやらはるきくんも気になっていたようで、チラチラ見ていたのに気付いていた。


 戻ってくるとふたりはどこかぎこちなさそうに設置されている休憩用のソファに座り話していた。というか宮代の方が何とか場を繋ごうと必死に話しかけているだけなのだが。

 その様子が何とも異様な光景で、思わず笑ってしまいそうになるのを堪え2人のもとへ向かう。



「はい、はるきくんどうぞ。ほらお前も」


「え?でも……知らない人から貰っちゃいけないってママが…」


 なるほど、まぁ親からそういう風に教えられてても別に変じゃないよな。お菓子とかあげて警戒心を解こうとする手口だってありえるし。


「大丈夫。はるきくん、俺の名前は?」


「? ゆうきお兄ちゃん」


「そ。もう俺たち友だちなんだから知らない人じゃないだろ。これは俺の数少ない友だちになってくれたお礼」


「クスッ」

「おいお前は笑うな」


 さりげなく入れた自虐にご丁寧に反応するな。本当のことなんだから仕方ないだろ。


 まぁ何とも屁理屈極まりないが、子供を納得させるには十分だろう。きっと空腹感が不安を煽ってる部分もあるだろうし、お母さんには後で俺から謝っておけばいい。


「うん…!ありがと、ゆうきお兄ちゃん」


「どういたしまして。少しだけ休んでまたお母さん探そうな」


 美味しそうにたい焼きを頬張りながらうんうん、と頷く姿は純真無垢な子供の姿そのものでとても可愛らしい。思わず頭を撫でてしまった。これ犯罪じゃないよね?




「随分手慣れているね」


「一応妹がいるからな。それに子ども好きだし」


 右から俺、はるきくん、宮代で並んで食べているので、もしかしたら親子みたいに思われてるかもしれない。

 

 ん?てことは、俺と宮代がお父さんとお母さんで……夫婦……


「」チラッ

「ん?」サワヤカスマイル


「んッんッ…!!」


 変なこと考えるな俺ェ‼︎ ちょっと良いなとか思ってんじゃねえよ⁉︎

 

 

 


 「…お兄ちゃんどうかしたの……?」


 「な、何でもないよ!!!」


 赤くなっているのを誤魔化すようにはるきくんよろしくたい焼きを頬張って食べた。








 

 俺たちは少し休憩をした後、目的のトイバラスへと到着した。今俺たちは店の前のベンチに座っている。


 店内へ入って探すこともできるのだが、入れ違いになることもありえるので出入口付近で待機することにしたのだ。

 もしここでお母さんが見つからなければ、警備員の方を探すなりするしかないだろう。手掛かりもないのにこのショッピングモールを俺たちだけで探し回るのは骨が折れる。


「はるきくんはここでお母さんとはぐれたと思うんだけどどう?」


「…うん……」


 どうやら、ここで間違ってはいないらしい。あとはお母さんが近くにいるかどうかだ。


「…けど…ママに怒られちゃう」


「大丈夫。こんなに大きいショッピングモールなんだからはぐれても仕方ないって」


 これまでずっとママのことばかり気にしていたのに、いざ会えると思うと怒られるのが怖くなってしまうあたり、まだ子供なんだな、と感じる。


「…違うの……ボクが我儘言ったから…ママ怒ってる」


 迷子になる前にお母さんと何があったのか、詳しくは分からないが、どうやら迷子の原因は小さい子に良くありがちなものだったのかもしれない。


「そっか……じゃあそれも含めてお母さんにいっぱい謝らないとな。我儘言ったごめんなさいと、迷子になっちゃったごめんなさい、できる?」


 子どもなら少しの我儘なら仕方ないと思うが、親も人間だ。ちょっとした喧嘩もあるだろう。はるきくんはしっかりと反省してるみたいだし、お母さんも許してくれるだろう。


 はるき君は、一瞬だけ迷うようなそぶりを見せるもすぐに真っ直ぐ俺の目を見つめ直した。


「うん…!」


「よっし、いい子だ」


 頭をくしゃくしゃと撫でると目を細めてくすぐったそうにはるきくんが笑う。それがあまりに可愛いくて更に撫でようとした時だった。

 店内から此方へ急いで走ってくる女性が一人。あまりに急いでるため、他のお客にぶつかりそうになっている。


「優希、あの人」


「ああ、多分な」


 予想通り、女性は一目散にはるきくんのもとへ駆け寄ってきた。



「はる!」


「ママ!」


 すぐさま膝立ちになりはるきくんを抱きしめるお母さん。

 よほど探していたのだろう、額には汗が滲んでおり表情は安堵しきっている。


「我儘言ってごめんなさい、それから勝手にどっかに行ってごめんなさい…!」


「お母さんも、少し強く言い過ぎたわ。ごめんなさい」


「はるきくんのお母さんでよろしいですか?」


「はい、もしかしてお二人が一緒に居てくださったんですか。ありがとうございます…!」


「気にしないで下さい。むしろお子さんを連れ回してしまってすみません」


 お母さんが見つかったからよかったものの、小さい子どもを連れ回すのはあまり褒められた行動じゃないからな。


「いえ!ほら、はるもお兄ちゃんとお姉ちゃんにお礼しなさい」


「ありがとうお兄ちゃん。お姉ちゃんも」


「おう」「もうはぐれちゃダメだよ」


 最後に足元に駆け寄ってきたはるきくんを撫でてやるとまたあのくすぐったそうな笑顔を見せてくれる。

 やっぱり子どもは笑ってるのが一番だ。宮代も最後ばかりははるきくんの近くに寄り、俺の後に同じように頭を撫でてあげていた。



 お母さんははるきくんは手を繋ぐと、もう一度俺たちに向かってお辞儀をしてくる。


「この度は娘が本当にお世話になりました。ありがとうございました」


「いえいえ、この後も気をつけて……え?」

「娘?」


 俺と宮代が顔を合わせる。

 

 え?今「娘」って言った?


「は、はい。どうかしましたか?」


「い、いえ!もう迷子にならないように手を離さないであげて下さい!!」


「はい勿論です。それでは失礼します」


「お兄ちゃんバイバイ」


 そのまま親子は休日で人が溢れ返るモールの奥へと消えていった。


 残された俺と宮代は呆然としている。どうやらコイツも俺と同じくはるきくん…はるきちゃんの性別を間違えていたらしい。


「あの子、女の子だったんだな」


「みたいだね。格好が男の子らしかったから気づかなかったよ」


 そう考えると、確かに自分のことを「ボク」って言ってるだけで、まだ幼いから声が低いわけでもないし女の子と言われても納得できる。

 

 今までのことを振り返ると、自分がとんでもないミスを犯していないかと不安になるが、隣を見ると宮代の方は何を一人で納得してるのか「…そうか……だから優希の方に……」とぶつぶつ呟いている。怖い怖い。


 

 そのまま俺の方を見据えると澄んだ目で真面目な表情で見つめてくる。




「優希あの子、見る目があるよ」


「何が?」















































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