第4話 デート?
「少し疲れたかい?」
「当たり前だ。俺は着せ替え人形じゃないんだぞ全く」
店員から買った服を受け取りながら、答えると「ごめんごめん」と全く反省してなさそうな声が返ってくる。
結局待ち合わせの後、このアホに説教をしたところ電車に乗っていたところ痴漢がいたらしくそいつを捕まえていて遅れ、俺への連絡をしたつもりだったのだが、スマホのデータ通信をOFFにしていたから俺に届いていなかったというオチらしい。
今はそのあと、適当に気になった服屋に入り買い物をし終えたところだ。
「それじゃあ休憩も兼ねてお昼にしようか。その後映画館に向かえばちょうどいい時間じゃないかな」
「だな」
腕時計をチラリと見ると時間は13:00を回ろうとしていた。映画は14:15からなので確かにちょうどいいくらいだろう。
それと同時にまだ13時なのか、とため息をつく。
「予想以上に疲れてるみたいだね」
「そりゃ10着以上も着たり脱いだり繰り返してれば疲れるっての。普段服なんて買いに来ないから尚更な」
買った服は結局お金のこともあるので、上下1着ずつだけ。宮代に至っては何も購入していない。と言うのも店に入るなり「君に合う服を探そう」とか言い出して、俺を試着室に押し込んでは勝手に何着も持ってくる暴挙に出たのだ。おかげで今はくたくた。
店を出てからしばらく歩くと目的のフードエリアについた。
普通のフードコートと違って、店舗そのものが何店も集合しているエリアなんだが、特徴的なのが、中が丸見えで混み具合とか店の雰囲気がわかるようになってることだ。恐らくこういう作りって敷地が広いからこそできるんだろうな。
てか沢山店ありすぎてどの店にするか迷うな。
「何か食いたいのあるか?」
「そうだね……映画の後も寄りたいお店があるから軽くパスタとかがいいかな」
「ん。了解」
「優希の私服は初めて見たけど、制服じゃないからいつもと雰囲気が違って面白いね」
俺が注文したボンゴレをチュルチュル啜っていると宮代がなんの笑顔かわからないが、笑いながらそう言った。 え?パスタを啜るな? あれ麺の最後の部分だけ絶対に巻けなくない?
「別になんも面白くないだろ。あ、お前バカにしてる?」
「そうじゃなくて、君のことだからもしかしてジャージとかでくるかもとか思っていたからね」
「やっぱバカにしてるじゃねぇか…! 俺だって流石にそれはないぞ」
今俺が着ているのは白いパーカーと黒のスキニー?パンツとかいうやつらしい。数少ない俺のまともな外着だ。
普段はほとんど制服だし、必要になるのは休日にバイトへ向かうときくらいだからそもそも必要にならなかった。お金もかかるし。
「ふふ、ごめんよ。でもとても似合ってる。今日みたいに学校でもそれで過ごせばいいのに」
「…………」
それ、と言うのは俺の顔下半分のことだろう。俺は普段の学校では基本的にマスクをして過ごしている。 理由はまあ、強いて言うならあまり顔を見られたくないからだ。
俺が黙りこくってしまったので、宮代は地雷を踏んだと思ったのか、「忘れて」と自分の注文したアラビアータをまた上品に食べ始めた。
別に地雷ってほどではないんだけどな。少し昔のことを思い出していただけで本当に些細なことだ。
今日外しているのは普段がマスク姿だから外せば、もしクラスメイトとかに見られても逆に分からないかもと思ったからだ。
「別にいいから、気にすんな。それより俺はお前の格好の方が気になるけどな」
互いにはじめての私服披露だから興味関心を抱くのは当然のことで、俺は俺の方で宮代の服が気になっていた。
「何か変かな?」
「いや、変ではないけど。なんかやけにキマってんな〜って」
宮代が着てるのは、下が黒のデニムに、上はグレーの薄いシャツブラウスを着ていて、パッと見では高校生とは思えない雰囲気を醸し出している。 恐らくそこらの女子高生がこの格好をしてもこうはならないと思う。
やはり顔か?顔なのか!?
「家の人に手伝ってもらったらこれになってね。大事な友人とのデートだって言ったら張り切ってたよ」
「んぐっ⁉︎……ング、ぷはぁ何がデートだ!普通に映画見て買い物するだけだろうが」
「おや、それを世間一般ではデートというんじゃないかな?」
「…黙らないとこのパスタ口に突っ込むぞ……」
ぐるぐる巻きにした特大のフォークを突きつける。
「……………あ〜n「何やってんだお前」…ん?違うのかい?」
おもむろに口を広げて迫ってくるから反射的に引っ込めてしまった
こういうこと普通にできるからすごいよなこいつ。
「いや、別に食いたいなら俺の「あむッ」…っておいッ」
「ん。こっちもなかなかいけるね」
もたもたしているうちに俺のフォークに絡まっていたパスタは宮代のお口の中へ消えていった。
てかこれ、周りから見たら恋人同士がやる例の「はい、あ〜ん」ってやつやんな?恥ッず!!
「……行儀悪いから、食いたいならそう言え」
「おや、優希顔が赤いけど」
「うっせ!」
「じゃあお返しに」
はい、と満面の笑みを浮かべながら今度はこちらにパスタを巻いてフォークを出してきた。アラビアータのトマトとスパイシーないい香りが届いてくる。
俺にもやれというのか、「はい、あ〜ん」を…
「おい」
「ん」
「…あーん……美味い」
もうめんどくさいのですぐに折れてしまいました。周りにもカップルくらいいるだろうし目立ってはいないだろうから多分大丈夫だと思う。
でもやっぱり恥ずかしい…!顔がさらに熱くなってくる。
「ふふ、可愛いね優希は」
「お前もうマジで黙れ……!」
おれは誤魔化すように急いでパクつき、宮代はそれをとても楽しそうに見て、笑ってやがりましたとさ。
「そろそろ時間だね。行こうか」
「おう」
時刻は14:00をちょうど過ぎたところ。映画は14:15 からなのでちょうどいい時間だろう。
食事の後はたわいない世間話やら、学校の話、買った服の話など、いつも2人きりでする話と特に変わらないことを話していた。内容こそいつもと変わらないが、取り巻く環境や互いの雰囲気が違うだけでいつもより新鮮でとても楽しい時間だった気がする。
少し名残惜しいが、会計を割り勘で済ませ映画館へ向かう。ショッピングモール内は規模が大きく、映画館へも少し距離があるが、十分間に合うだろう。
「お、見えてきたな」
しばらく歩き、そろそろ映画館への案内版が見えてきた。時刻は14:05を過ぎて、ちょうど館内ではこれから俺たちが見る映画の案内がアナウンスされ始めたところだ。
………あ、そういえばポップコーンとかどうしよ。俺はいつも塩味でバターかけるけど、宮代はバターかけるな?あれ、まさかキャラメル派か? もしかしたら映画に集中するために何も食べない可能性もある。
「失敗したなぁ〜……ん?」
もう少し早く来てその辺について色々討論すべきだったか、と少し後悔していると、俺の服が何かに引っ張られたような気がして、ふと後ろを向いた。
「……ママ………」
「えぇ….っと」
小さな男の子だった。まだ幼稚園生くらいの背丈で、今にも泣き出しそうなくらい目が潤んでいる。
俺は隣にいる宮代に咄嗟に視線を向けるが、宮代の方も驚いているようで、普段あまり見ない表情をしている。
俺はなんとなく状況を察した。迷子だよね、これ確実に。はてさてどうしたものか。
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