“涙華さま”の過去と天使

「それじゃ、俺は涙華さまが眠っているはずの病院に行ってくる。」


「僕らは、最後に訪れていた場所から探すね!」


「おう、そうしてくれ。」


病院に向かって歩き出した魎さんを、魑明が呼び止めた。


「あ、魎さん!連絡ってどうすればいい?いつも通り俺らの意識を繋げてといたらいい?やっぱ、スマホ使う?」


「そうだな・・・・・・。」


魎さんは上を仰ぎ、少し考え言った。


「じゃ、意識の方で。さすがに病院でスマホ使うのは俺の立場的に上からボコらr・・・・・・ゴホ、今のは聞かなかったことにしてくれ。」


魑明と鬽闇は顔を見合わせて、意味深にニコッと笑って言った。


「りょーかい!」

「りょーかい!」


「その意味深の笑顔、何なの・・・・・・?」


魎さんは言った。ボソッと『怖ぇよ・・・・・・』という声も聞こえてきた気がするが、2人は聞こえてないフリをした。


3人は翼以外の体中の透明化を解き、魎さんは病院の方向に歩き出した。


「魑明、僕たちも行こっか?」


「あぁ、そうだな!」


魑明と鬽闇は、涙華さまが亡くなった場所に向かって歩き出しながら、会話を続けた。


「って言うかさ、涙華さまの人時代の名前ってなんなの?」


「さぁ?本部の人間も把握してないっぽいし・・・・・・」


「ったく、そんな状態でどうやって見つけろって言うんだよ!」


「そうだね・・・・・・。とりあえず、僕らはヒトを探して地道にあたっていくしか無さそうだね。」


魑明は本部の人間に対して怒っていたが、行く手に美女を見つけ、コロッと表情を変えて言った。


「お、あそこに佇んでる美女発見〜!ちょ、声かけて来んわ!」


「あ、おい!待てっ・・・・・・!!!!」


鬽闇が追いかけながら顔を上げると、美女に声をかける魑明の姿が目に入った。


「ねぇねぇ、おねぇさんっ!!!!今、暇してない?」


美女は辺りを見回し、自分しか居ないとわかったのか自らを指さし言った。


「・・・・・・え、それって私?」


「うん!!正解。」


「ま、待って。泣きそう・・・・・・。私の姿を見える人間に会えるなんて・・・・・・。」


やっと追いついた鬽闇が息を整え、静かに怒りながら言った。


「魑明、仕事してるのを忘れた訳じゃないよな?」


「げ、鬽闇・・・・・・。こ、これは違うって・・・・・・!!!!このヒトが涙華さまかもしれないじゃん!」


「・・・・・・それは、魑明が声をかけに行った理由を正当化してるようにしか聞こえないのだけど?」


と鬽闇は言いながら、胸の前で手を合わせ言った。


『ベルフラワーの舞!!!!このヒトの過去を調べよ!』


鬽闇のベルフラワーの舞は、顔を見た人の個別データを検索して保存しておくことが可能になる。


「・・・・・・魑明、そのヒトは涙華さまじゃない。そもそもの話、誕生日が2月29日じゃないから、そのヒトが涙華さまっていう可能性は0だ。」


「ちぇっ!じゃ、本部の人間に来てもらうしかないのか・・・・・・。」


そんな2人のテンポの早い会話を聞いていた美女が言った。


「・・・・・・で、君たち。仕事は大丈夫なの?」


「あ、ヤバい!魑明、行くぞ!」


「りょーかい!・・・・・・っと、その前に、このヒトを迎えに来てもらおうよ!!!」


「・・・・・・しょうがないなぁ。僕は結界を張るから、とっとと終わらせてね。」


そこまで聞いて、魑明は翼の透明化を解いた。


「え、綺麗・・・・・・。っていうか、君たちって人じゃなかったの!?」


美女は、目の前に現れた翼を不思議そうに眺めて言った。


「そうだよ。お姉さんだけに、特別に教えてあげる。俺らの仕事は、この“現世”と俺らの生きる“天上界”を繋いでいる天使なんだ。」


「へぇ・・・・・・。って言うことは、私も天使になれるの?小さな頃から翼で飛び回るのが、夢だったんだ!」


「ごめん、それは出来ない。僕らみたいな天使になる条件として、誕生日が2月29日であることが必須なんだ。」


「そっか・・・・・・、残念。」


美女は、あからさまに落ち込んだ。


「ま、でも。これからお姉さんが行く天上界は輪廻転生の場所だから、来世の誕生日が2月29日の可能性もあるわけだし。」


「それもそうだね!来世が2月29日だといいなぁ・・・・・・。」


「俺も、お姉さんが天使になれるの祈っとくよ!」


そう言って、魑明は自分の翼をひと撫でし呟いた。


『へレニウムの舞!!!!このヒトに聖なる導きを!』


すると、突如として結界内に風が吹いて、2人の美形男子が現れた。


美女は目をキラキラと輝かせ、呟いた。


「3人目と4人目のイケメン登場・・・・・・!!!!!!!」


「僕をお呼びですか?双子のお兄さまの方。」


現れた美形少年たちは、左手を腹部に当て礼をした。


「しかも、この2人は執事さまっぽい!この目で執事さまを拝めるなんて・・・・・・!!!!すごい、萌える・・・・・・。生きててよかっ、あれ?この場合、私は死んでいるから何になるのかしら・・・・・・?」


美女は一息でまくし上げた。


「双子のお兄さまの方じゃねえって。俺には、ちゃんと魑明っていう名前があるんだから。」


「おやぁ、それは失礼しました。」


「お前ら、絶対わざとやってんだろ!顔のニヤニヤが隠しきれてないし!」


「失礼ですが、魑明さま。僕らにも、ちゃんと名前があるのですよ?」


「ちぇ、しょーがないなぁ。桌・侑、このヒトを天上界まで案内しろ。」


「はーい!わかりました、ご主人様。」


そう言って、佇んでいた美女の腕をとった。


「ヤバい・・・・・・。2人の執事さまにサンドされてるなんて・・・・・・!」


美女は、顔を茹でダコのように赤くし呟いた。


「それじゃ、魑明さま。失礼します!」


と残し、2人のイケメンと美女は消えた。


「おい、魑明。僕は、とっとと終わらせろって言ったよな?なんでいつもより長い時間がかかってんの?」


「ごめんって、鬽闇。今度、お前が好きなものを奢ってやるから、機嫌を直せよ。」


「ふーん・・・・・・。じゃ、あそこにある980円のパフェね。絶対、僕に奢るの忘れないでね!」


「おう、わかった。」


と、歩き出したが

《涙華さまの情報が分かったぞ。》という魎さんの声が聞こえたので、立ち止まった。


2人は近くにあったベンチに座り、続けた。


《魎さん、何がわかったの?》


《まずは、名前。涙華さまの人時代の名前は、佐藤結だ。年齢は26歳だ。あと、小さい頃に親から虐待をされていたらしい。》


魑明と鬽闇は、その情報を聞き動揺した。


《どうした、お前ら?お前らが動揺するなんて珍しい。》


《いや、魎さん。それって、あの時に神社に居た子の特徴に似てるんだけど。》


《そうそう。あれは、今から20年ぐらい前だから、年齢的にも・・・・・・。まさか・・・・・・?》


《・・・・・・あぁ、信じ難いが。その、まさかだ。》


《じゃ、僕たちも涙華さまの顔がわかるから探せるね。》


《そうだな。俺らは、小さい頃の涙華さまと会った、あの神社に向かえばいい?》


《そうしてくれ。俺はもう少し病院の周辺を探すわ。あと、本部に連絡もするから。》


《りょーかい!》


2人は魎さんとの意識の通話を切り、ベンチから立ち上がって歩き出した。


「涙華さまが、あの時の女の子だったなんてな・・・・・・。」


「僕も、驚いた・・・・・・。」


「鬽闇、あの時に結ちゃんの過去を見なかったのかよ?」


「見るには見たけど・・・・・・。あの時は力が安定してなくて、前世までの記憶とか見れていないんだよ。」


「まぁ、あん時は何もわかっていないようなガキだったからな・・・・・・。」


「そう言うけど、僕らって今もガキのままなんじゃない?」


「そうだけど・・・・・・。そういやさ、あの時の神社の場所って覚えてるの?」


「僕をなめないでくれる?そんなの覚えてるに決まってんじゃん!」


「それって、今歩いてる道の先であってんの?」


「・・・・・・・・・・・・・・・。」


鬽闇は立ち止まり、行く先に目を凝らした。


「え、何・・・・・・?まさか、わかってなかったの!?」


「う、うるさい!!」


「なんだ、わかっていないんだったら素直にそういえばいいのに。」


そう言って、魑明は体全体に透明化をかけながら言った。


「ほら、鬽闇も早く。上から探した方が早いって。」


「・・・・・・それもそうか。」


鬽闇も体全体透明化をかけ、空中に浮かび上がった。


「あの時、お使いに行っていた方角は・・・・・・と。」


「確か近くに学校があったよね?」


「そうそう。でも、20年も前の話だから、今はない可能性だってある。」


「そうだね。あ、あの森って・・・・・・!」


「あ?どれ・・・・・・。あぁ、あそこって、学校の裏山だった森じゃないか!」


「良かったぁ。じゃ、早速、行ってみる?」


「そうだな。“善は急げ”って言うからな!」

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