双子天使と過去

『界魔カフェにて───』


「もう、そろそろ・・・・・・か。」


カレンダーを眺めていたら、無意識のうちに声が出ていた。


「ん?魎さん、なんか予定でもあんの?」


「いや、違う違う。涙華さまの生まれ変わりが、もうすぐ“この世界”に来るっていう連絡が本部からあったんだ。」


「あぁ・・・・・・。涙華さまってここの元オーナーだった人ですよね?確か、“この世界”の禁忌を侵したとかで人間界に追放されたっていう・・・・・・。」


「ああ、そうだ。この情報って、鬽闇に教えてたっけ?」


「それなら、僕の『ベルフr・・・・・・」


「いや、いい。どうせお前の事だ。俺の過去でも覗いたんだろう。」


その時、魎さんのスマホが鳴り響いた。


「悪ぃ、本部からだ。お前ら、ランチの準備の続きをしといてくれ。」


と言い残し、魎さんは外に出ていった。


その背中に


「はーい!!!!」

「はーい!!!!」


と、魑明と鬽闇は元気な返事をした。


「なぁ、鬽闇。涙華さまって結局どんな人なの?」


「うーん・・・・・・。魎さんの過去を覗いたぐらいでしか見た事がないから分からないんだけど、すごい人っていうのは確かだよ。」


「ふーん・・・・・・。そっか。まぁ、俺らが見るのはまだ随分と先だろうから、想像だけで楽しむしか無さそうだな。」


「そうだね。」


そんな話をしながら、手際良く魑明はお皿にサラダを盛り付け、鬽闇はスクランブルエッグを焼いている。


魎さんが出ていった扉の向こうからは、驚いた声と静かに怒った声が聞こえてくる。


「何、話してんだろうな・・・・・・?」


「さぁ?でも、魎さんの怒っているのって珍しいよね・・・・・・。何か事件でも起きたのかな?」


「その可能性はありそうだな・・・・・・。」


魎さんが電話を切って、大きな溜息をつきながら中に戻ってきた。


「おかえり魎さん!!!」

「おかえり魎さん!!!」


またしても2人の声が揃った。


「おう、ただいま!・・・・・・って言うか、お前ら、なんでそんなに毎回毎回声が揃うんだ?性格には差がありすぎるのに。」


2人は不思議そうに顔を見合わせて、同時に口を動かした。


「なんでって、それは、もちろん『双子』だからだよ?」

「なんでって、それは、もちろん『双子』だからだぜ?」


「そこも揃うのかよ・・・・・・!?まぁ、いいや。」


「でさ、魎さん。さっき、盛大すぎるため息をついてたけど何か問題でも起きたの?」


「 あぁ。どうやら、本部の人間が“あの世界”で涙華さまを追いかけてる途中に見失ってしまったらしい。だから、前もって俺が行くって言っといたのに・・・・・・!」


「それは、魎さんがキレる案件だね・・・・・・。」


鬽闇がボソッと呟いた。


「で、アイツらは何て言ったと思う?『俺らのとこ忙しいから、涙華さまを捜す人数を割くのが難しい。お前らのところは、今日は休みにしてでも涙華さまを何とかして見つけて来い。』だぜ?」


「うわっ!自分たちの責任を押し付けてくる、えげつない大人だ・・・・・・。」


「あぁ、そうだ。それは、わかっていたんだが少々厄介でな・・・・・・。」


「何が厄介なの?」


「『今日中に見つけなければ、お前らが担当の仕事を増やす』という脅しを使ってきたんだ。ただでさえ、ほぼタダ働き状態なのに・・・・・・。」


「さすが、見本にしたくないタイプの1位の大人たちの風格・・・・・・。」


「まぁ、ここで永遠と怒っていて捜しに行かないという訳にはいけないから、行くしかない訳だけど・・・・・・。」


「んじゃ、僕はお店の前に『本日休業』の張り紙を貼っつけて来るから、鬽闇はお皿とか冷蔵庫に仕舞っといて。」


「りょーかい!」


2人は慣れた手つきで休業の準備に取りかかった。


魎さんは、本部から伝書鳩を使って送られて来た地図に何やら書き込んでいる。


「魎さん、何書いてんの?」


休業の準備が終わった2人は魎さんの手元を覗き込んだ。


「何って、涙華さまのおおよその行動範囲だ。これを元に涙華さまを捜せとの本部からのお達しだ。」


地図には赤丸で線を囲ってあったり、付箋を貼ったりしてある。


「地上に降りたら、ふた手に別れて涙華さまを捜す。俺は涙華さまが眠っているはずの病院とその周辺を、魑明と鬽闇はそれ以外の範囲を捜してくれ。」


「おっけー!!!!」


「わかった。」


「準備は出来たか?いつも通りあいつらに、俺らの翼が見つからないようにしろよ?あいつらは、何か珍しいものさえあれば排除しようとするだからな!」


「はいはい、魎さん。それ、“この世界”を出る度に毎回言ってるよね?なぁ鬽闇、今の入れて何回め?」


「僕らが聞いた限りだと、4827回目だよ。」


「・・・・・・まじか、俺はそんなに言ってたのか?って言うか、お前らはヘマをしそうで怖いんだよ!完璧そうに見えていても、どこか抜けてるところがあるからな!」


「心配しなくても、大丈夫だって!」


「全く、どの口が言ってるだか。お前ら、過去のことを忘れたとは言わせないぞ?10歳の時に神社で泣いていた女の子に羽を見せびらかしていたじゃないか。あれだけ『“あの世界”の人間に翼だけは見せるな!』って口うるさく言っといたのに・・・・・・。しかも、俺が助けに行かなかったら、お前ら死んでいたんだぞ!?」


「また、その話か・・・・・・。」

「また、その話・・・・・・?」


2人はボソッと呟き、あからさまに視線をずらした。


そう、それは今から20年前の夏───

当時10歳の魑明と鬽闇は、魎さんのお使いで“あの世界”を訪れていた。

その時に、体中に傷だらけの小さな女の子が神社の階段で蹲り泣いていたのを見つけたのだ。

2人は『どうすれば、この女の子は泣き止むのだろうか?』と考え変顔して笑かそうとしたり、一発芸をしたりしたが何をしてもこの女の子が泣き止むことは無かった。

しばらく考え込み、2人は顔を見合わせて頷いた。

そして、彼らは翼の透明化を解いて、自分たちの真っ白な羽を1枚ずつむしって彼女に渡した。

彼女はその2枚の羽を見て首を傾げたが、目の前にいる2人の人の背中から生える立派な翼が見えると、キラキラと目を輝かせこう言った。

───すごい!今まで見た物の中で一番キラキラしていてきれいだね・・・・・・!!!!


2人はその時の女の子の笑顔を『また見たい!』という一心で、魎さんのお使いで“あの世界”を訪れた時には神社に行って女の子に会うという習慣ができた。


其れだけならば良かった。

女の子に会いに行くようになって半年がすぎたある日、たまたま通りかかっただけの“あの世界”の人間に翼が見られてしまった。

彼らは普通でないものを排除しようと躍起になって魑明と鬽闇たちを探した。

2人は100人越えの人数を相手に逃げ切ることが出来ずに見つかってしまった。

2人は捕らえられて、見世物にされた。

魎さんは『身をもって、毎回言っていることを理解してもらおう』と思ったのか始めは助けてくれなかった。

天使の命である全ての羽をバリカンで刈られそうになった時には、さすがに助けてくれたが・・・・・・。


その経験を通して『魎さんの言っていることを守らなければ、自分たちが痛い目にあう』ということを理解した。


「魎さん、俺らは何回も同じことをするぐらい馬鹿じゃないって。」


「そうそう。あと、早めに探しに行かないと!僕らが見つけなければ仕事量が増えちゃうんだよ・・・・・・?」


「あぁ、それもそうか・・・・・・。話をずらされた気もするが。まぁいいっか。それじゃ、“あの世界”に向けて行こう。」

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