第9話

 私と言葉を交わす男の得物は先程の男達と変わらない両刃の剣。

 そして、私の倍はあろう大男は斧を持っている。

 常人ならば大木一本を切り倒すにも持て余しそうな程巨大ではあるが、大男の手には馴染んでいる。


「バルトルト、油断すんなよ」

「ブルーノ兄貴、わかってるぜ!」


 この右腕の状態では膂力勝負となると分が悪い。

 アノ力を使えばこの場を切り抜けることは簡単だろう。

 だが、まだあちらに逃走と言う手段が残っている現状では使いたくない。


「いつものアレで行くぞ」

「でも兄貴、それでいいのか? お楽しみがなくなっちまうよ」

「馬鹿か! そんな悠長なこと言ってる場合じゃねぇ。わかったらやるぞ」


 動き出した兄弟。兄が私めがけて疾走する。

 無策か? だが速い、それに左右に揺れながら迫る。単調な突きでは躱されるのがオチだろう。

 ならば、力任せの払いで弾き飛ばす。


 態勢を取り、右から左に払う準備をする。

 間合いに入る瞬間を見極め、力を込める。


 ブルーノが黒槍の間合いに入る。

 今だ! 私は体に回転を加えて薙ぎ払う。

 だがブルーノは飛び上がり、剣を盾にして槍を受け止める。

 そのまま槍の勢いに任せて飛んでいく。薙ぎ払いの力を殺さずにその体捌きで防いだのだ。

 だが奴は次の攻撃には移れない。つまりこれは攻撃を誘うだけの行動。


「あぶね! 今だバルトルト!」


 兄から目を離し前に向き直すとそこにはバルトルトが迫っていた。先程右腕をやられた連携だ。だが状況は大きく異なる。

 囮役の兄は生存しているし、弟の巨体から放たれる斧の一撃は防げるものではない。


 バルトルトは右手で大斧を振りかぶり歯を食いしばっている。

 来るであろう攻撃に体がざわつく。


 死……


 懐かしさすらある感覚に笑みが溢れそうになる。

 死の欲望に支配されそうだ。


 私はそれらを振り切り身体を左にずらす。

 だがそれで避けきれるものではない。


「持っていけ、それくらいくれてやる!」


 振り下ろされた斧は右肩にかかり、易々と体から切り離した。

 瞬間、燃えるような痛みが襲い来る。

 十分な覚悟で迎えたはずだが、その激しい痛みに思考全てが麻痺しそうだ。


「代償は高くつくぞ!」


 私の右肩から先を喰い、満足げに地面へと突き刺さった大斧。それを操るバルトルトの右手を黒槍で薙ぐ。

 腕と手では割りに合わない。その首、貰いうける。

 返す刃で大男の首を狙う。


 ズン!


 瞬間、背中から衝撃が走る。

 胸から両刃の剣先が覗いた。


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