第10話

「てめぇ! よくも弟の手を!」

「身内を傷つけた代償が私の命か……」


 ブルーノは勢いよく剣を引き抜く。

 流れ出る場所を見つけ狂喜するように赤が飛び出る。

 深紅に染まりゆく大地に、倒れ伏した。

 意識が遠のく。


「おいバルトルト大丈夫か!」

「いってぇよぉ、ブルーノ兄貴」

「情けない声を出すな! 気をしっかりもて!」


 幾年、幾百年と研鑽は積んできたつもりだった。

 誰にも頼る事も無いように……私一人でも国を守れるようにと。

 誰の犠牲も出さないように皆の笑顔を守れるようにと。

 私が傷付いて泣くものがないようにと……

 しかし、どれだけ鍛錬を積もうとも、いかな研鑽を重ねようとも、私は十七歳の小娘に変わりなかった。


 あぁ、これは呪い。

 結局はこの呪いにしがみ付くしかないのだ。

 私が望み続ける願いのためには呪いに頼らざるを得ないのだ。


「解放しろ、力を貸せ……ヴァルハラ」


 黒槍の名を呼ぶ。忌々しい呪いを呼び起こす。

 扉が……開く音がした。


 黒槍ヴァルハラから影を伸び、私の傷にまとわりつく。

 それは切り離された腕へも伸び、引き寄せる。


「お、おい! なんだよ、何が起こってんだよ」


 可視の呪いを、異形を見てブルーノの反応は正しい。


 影が離れヴァルハラに戻ると腕は繋がり、傷の跡も消え去る。

 胸の傷も最初からそうだったように元通りだ。破れた衣服だけがそこに開いていた風穴の名残だ。


「聞いてねぇぞ! こんな化物なんて聞いてねぇぞ!」


 化物……先の男達にも言われたその言葉だが、今は意味合いが違う。

 比喩ではなくそのままの意味なのだから。

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