第8話

 腕が軋む、派手な演出のために少し無理をしたようだ。

 痛みと言ってもこの程度なら気になるものでもない。


「実力の差がわかったであろう。もう一度言おう、去れ」

「ふ、ふざけんな! お前ら、一気にかかるぞ。槍なんて懐に入っちまえばこっちのもんだ」

「おう!」


 自らと周りを鼓舞して奮い立つ男達。それは蛮勇でしかないことを示してやるしかないようだ。

 残りは九人。先日来ていた男達は動かない。他の奴らを餌に使って様子見と言ったところか。

 右腕は……問題ないすでに完治しているようだ。痛みの残滓もない。


「よかろう、仲良く『ヴァルハラ』へ送ってやろう」


 襲い来るのは七人。装備は先程の男とたいして変わらない。

 正面から二人、奥から一人、右から二人、左から二人。

 即席だろうが戦いの経験なのか慣れた動きに感じる。


 まずは正面。剣を握る手を狙い軽く穂先で撫でる。四つの指と共に剣が落ちる。

 次は左へと大きく払い、首を切り裂く。正面は片付いた。

 だが、左へ大きく払ったせいで右の脇腹ががら空きだ。


 喜々として飛び込んでくる男の顎を石突で砕く。

 構え直し、奥に潜んでいたもう一人の首を穿つ。


「はああああ!」


 全身に力を込め、男一人をぶら下げながら槍を左へ大きく振る。

 途中首が千切れ空を舞う。途端に軽くなった黒槍は勢いを増し、その柄で剣を振り下ろす男の脇腹を殴打。勢いを殺さずにその場で回転し左二人目の胸を突く。


「うぉぉぉぉ! お前ら敵は討ってやるぞ!」


 ここまでは順調だったが、正面奥にいた一人が迫る。

 この状況に臆すると考えていたが見くびっていたようだ。

 両刃の剣は両手で握られ、すでに勢いよく振り下ろされている。


 槍を離し、右腕を差し出す。

 皮膚が切れ、肉が断たれ骨に到達する。

 その瞬間、右腕をずらす。

 突然の横から力が加わって刃は勢いを殺され、骨の一部を断つに止(とど)まった。


 唖然としている男をよそに懐から短剣を抜き、首を裂いた。

 ぱっくりと開いた首から血が噴き出し私を赤に染める。

 男はその場で膝から崩れ落ちた。


 骨に食い込んだ剣を外す。

 右腕からはおびただしいほどの血が流れ、地へと降り注ぐ。

 黒槍を死体から左腕で引き抜き。生き残りを一瞥する。

 指を失った男と顎を砕かれた男はもうその目から気力が失われている。


「後はお前ら二人のようだがどうする」


 恐らく他の奴らとは別格であろう二人組。

 大人しく帰るはずもないだろう。

 それに、用心で連れてきた奴らはしっかり仕事をした。

 腕一本とは言えどう見ても重傷。使い物にならない。


「あんたは強い。俺は傭兵としていくつも戦場を越えてきたがこんな化物は初めてだ。だが雇った奴らもよく働いてくれた。あんたの右腕は使い物にならない」

「手負いの獣ほど恐ろしいものはないぞ」

「ハッタリはお見通しだ。大人しく付いて来てくれればこれ以上は何もしない。まぁあんたを欲しがってるやつらが何をするかまでは保証できないがな」

「そうか……なら、ハッタリだと思うならかかって来たらどうだ」


 私は男に向けて笑って見せた。

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