第7話
関所を離れて奴らの前に陣取る。
黒槍を突き立て威風堂々と立ちふさがる。
「そなたら、この地に何用で参った。
この道はベルクを越えてカフマンへと至る道。
そのような弁えぬ様相で居座られると行商の妨げとなる」
「おいおい、マジでこの嬢ちゃん連れてったらあんだけの金くれんのかよ」
「ちっ、そうだ。簡単だろう」
「あぁ! 太っ腹なこった」
男たちの笑いが木霊する。
案の定と言うべきか、やはり狙いは私のようだ。
「去れ。大人しく引くならば追うことはせん」
「威勢のいいお嬢ちゃんだ。こっちとらあんたが死んでもいいって言われてんだ。
だがまぁ大人しくしろよ。道中俺たちと楽しくヤろうぜ」
私は少し安心した。
国のためではなく、自分のために人を殺すのはさすがに気が引ける。
だが相手が下種なら戸惑わない。迷いなくヴァルハラへ送ってやる。
「そうか、忠告はした。応じぬのであれば多少手荒な歓迎も許せ」
先程まで言葉を交わしていた先頭の男へと駆けだす。
男の装備は片手で扱える両刃の剣、防具は丈夫な金属の胸当て。
急所を守りつつも身軽さを重視した装備。
男の剣は届かぬ間合い。
私は踏みとどまり、前へ前へと急く力を全身を捻り右腕へと帰結させる。
無駄なく集結したエネルギーの爆発。
狙うならば一撃の頭部か? 武器を持つ腕か? 動きを止める足か?
否、心の臓だ。
私の突きに男は反応しきれていない。想像を超えた速さに全てが静止してるようだ。
無防備となった胸へと槍の切っ先が導かれる。
金属の胸当てを物ともせず、皮膚を食い破り、肋骨を粉砕し、心臓へと至る。
しかし、勢いは衰えず背を突き破り穂先を覗かせる。
「あ、あが、うそ……だろ」
他人事のように虚ろな目で、槍の突き刺さった胸と私を見る。
瞬間、白目を見せると男の体から力が抜け、だらりと腕が垂れ下がり
剣が地面へと放り出された。
男の体重が槍へとのしかかり、覗いた穂先が少し下がる。
私はそれを右手一本で支える。
自身の持つ膂力を超えた力で男が刺さったままの槍を振り回し、死体を投げ飛ばす。
空中で槍が外れ、ぽっかりと開いた穴から青く輝く空を垣間見た。
瞬間、赤が湧きあがり空を覆う。噴き出した血が雨を降らせ、地面に赤い軌跡を残す。
死体は元仲間たちの前に転がり、開いた穴から垂れた血で水たまりを作った。
静寂。目の前の出来事が理解出来ないのであろう。
照らし合わせたかのように血の吹き出る男を見つめ、私を見つめる。
そして、静寂が破られる。
一人は絶叫し、一人は仲間に駆け寄り、一人は顔を恐怖で塗りつぶされていた。
無理はない。
先程まで犯す対象としか見てなかった金を生む女が、金属製の防具を物ともせず貫き、大の男を投げ飛ばしたのだ
「ば、化物!」
あぁそうだ。化物だとも。
この光景を前に蜘蛛の子を散らすように何人かが逃げ出した。
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