古事記異伝(悲恋の章)
西尾 諒
第1話 鐙冠の巻
あなたさまが・・・?
もう少し・・・こちらへ寄って、灯の近くでお顔を見せてくださいませ。
ああ・・・。お顔立ちがお父上とほんとうによく似ていらっしゃる。お母上そっくりの香しい匂いもお懐かしいこと。
それにしても・・・。まさか生きているうちにあなたにお会いできるとは思っておりませんでした。
ええ。ごもっともでございます。
確かにあなたさまの出生はどこにも記録として残っておりません。なれど、私は確かにあなたさまの叔母でございます。一度もお会いしたことはございませんが、紛うことなく。
それにしてもこれほどまでに心が震えるとは思いもよりませんでした。
そうですね。世間の噂・・・。あなたのお父様とお母様の話は色々伝えられておりますし、中にはひどく誤って伝えられているのがあるのも確かでございます。でも真実は一つ。それは私が確かに知っております。
それにしても、良くまあ、健やかにお育ちになられたこと。お幸せで暮らしておられましたか?
ああ、そうでございますね。やはり氏も育ちも明らかにできないという事は幸せとは言えないかもしれません。でも、このようにお会いできるということが何よりものこと。ええ、生きているということが大切なのでございます。私のように歳を経ると、心からそう思うのでございますよ。もちろん、あなたのこれからの暮らしのことは私が責任を持ってしてさしあげましょう。・・・そうですか。宮での暮らしは御望みにならないのですね。ごもっともなこと。それでは何かほかに生計のもとを考えましょう。ご一緒に、それも楽しゅうございます。
なんでございますか?
はい。
もちろんでございますよ。私の知っているすべてをあなたにお話ししましょう。時は余るほどございますゆえ。
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