菌糸は侵入するよどこまでも

【菌糸:多くの茸やカビなどの菌類を構成する糸状の物。】


俺はリザンテを連れて、昨日復興作業を行った現場へと向かった。ある程度予想はしていたが、現場付近の魔物はほとんど討伐されていた。地面には血痕が所々残っている。

それから俺達は近くの森林へと向かった。

森の中を探索してから数分後、何かに気付いたリザンテが俺の前に出て警戒し始めた。小型化しているとはいえ、威圧感が凄い。

すると前方から何かが近付いてくる音が聞こえてきた。


「来るぞ!!」


俺はリザンテに注意を促す。リザンテは頷く様に頭を縦に振った後、舌舐めずりをした。

現れたのは蟻の群れだった。体長は2m程、顎も非常に強靭であることが分かる。優れた体節にも目が行くが、やはり一番目立つのは身体の色であろう。宝石の様な緑色の体色は、正に翡翠色と言うに相応しい色だ。角度によっては本当に輝いて見える。

俺は蟻に対して鑑定を使用する。


《アントノフ:蟻型の魔物。春から夏にかけて巣に資源を集めて巣を拡大する。雨季に入ると巣から全く出てこなくなる。そもそも巣で待機している時間が生涯のほとんどであり、地上での狩りは得意ではない。また宝石の様な外骨格は愛好家からは人気が高い。》


大体の情報は分かった。本来は雨季に入る前に食糧を集めて巣に貯める。だが最近は雨が多くて食糧を集めきれなかったのだろう。


「リザンテ、頼んだ。」


俺が指示を出すと、リザンテは蟻へと近付く。リザンテに気付いた蟻は威嚇する様に顎をガチガチと鳴らした。

リザンテは平然としながら近付いていくと、俊敏な動きで一体のアントノフの首に巻き付く。蟻は振り払おうと必死に暴れるが、数秒後にはグギッガギィッと鈍い音と共に泡を吹いて息絶えた。

対して俺は、他のアントノフがリザンテに夢中になっている隙に背後に回り込み、アントノフの頭部を槍で切り落とした。


「うわ……」


昆虫類には、神経節の塊が存在し脳と同等の役割を持つ。その為、頭部が斬られても暫くは動く個体が存在するらしい。

アントノフもそれに該当し、頭部を斬り落とされた後も必死に暴れていた。頭部が無い昆虫が蠢く様子に、俺も流石に引いていた。

俺達が脅威だと認識したのか、アントノフ達は大木や巨石を軽々と持ち上げて、俺達に投げ付けてきた。

俺はリザンテを近くに引き寄せ、槍を地面に突き刺す。


「狂風!!」


青がかった緑の魔法陣が展開され、広範囲を風がアントノフ達を襲う。風は大木や巨石を吹き飛ばし、アントノフ達も後方に吹き飛ばされる。更に周囲に砂煙が舞い上がり、蟻達の視界を奪う。

視界が悪い状態とはいえ、アントノフも馬鹿ではない。複眼により俺達の居場所は的確とは言えないが、捉えられている。


「掴まれたら洒落にならんよな……」


蟻は身体の何倍もの獲物を持ち上げて投げる程の怪力。アントノフもそれに近い怪力だろうと予測できる。仮に俺が掴まれでもしたら一瞬で引きちぎられて、身体の様々な箇所を食い荒らされるのだろう。

何故そんなことを考えたかと聞かれれば、偶然通りかかったハウンドが哀れにも一体のアントノフに掴まったと思ったら、身体がブチブチと引きちぎられながら解体されているからである。


「おいおい、戦闘中だろう?」


俺は思わず苦笑する。寧ろ優先順位がしっかりしているのだろう。


「リザンテ、一気に決めるぞ!!」


俺の合図と共にリザンテはアントノフの群れに突撃していく。それからは更に一方的な展開だった。

今回の目的だったリザンテの戦闘力を試すことは出来た。リザンテの強さは想像以上だった。初見の魔物相手に怯みもせず、次々とアントノフの首に巻き付き、へし折ってゆく。こうして、あっという間にアントノフの群れは壊滅したのだった。


――――――――――――――――――――――――――

「えぇ……何ですか?その微塵もやる気の出ない任務ぅ。」


その声色から発言通り、全くやる気が無いことが伺える。声の主の頭部に生えたウサ耳もしなしなと萎れている。


「ご主人様ってば、兎人族ハビコネホ扱いが荒いよねぇ……まあ、そこもちゅきポイントなんだけどね。」


兎人族とは長いウサ耳と丸みを帯びた小さな尻尾を持つ種族である。この兎人族の目の前には一通の手紙が置かれていた。

手紙に書かれた文字は現在進行形で書き換えらており、魔法道具であることが分かる。手紙の主は当然”ご主人様”のことである。


「隣の大陸で活動する銀の槍を持った冒険者を殺害或いは捕縛せよ……ねぇ。そもそも銀の槍持った冒険者が何人居るとでも?というか目的の冒険者が武器変えてる可能性もあるよね?」


兎人族、エーリィが不満そうに呟くと、手紙の文字列は凄まじい速度と密度で書き換えられていく。”簡潔かつ要点だけ伝える。本任務の本質は嫌がらせであり、全力で任務を就任せし銀の槍を持つ冒険者を殺害せよ。”

誰に対する嫌がらせかはさっぱりだが、手紙の文面からして確実に銀の槍を持つ冒険者が対象であることは間違いない。


「はいはい。ご主人様の無茶振りは今に始まったことじゃないし、仕方ないなぁ。」


エーリィは手紙を手に取ると、火魔法でそれを燃やすのであった。


「……最悪の場合は他の死体と面白そうな魔物でも土産にして許してもらおう。ボクってば天才。」


そう呟くとエーリィはスキップをしながら、港に向かったのであった。


「待って!!船長×船員のカプに加えて、船員×船員のカプが見放題とか最高なんだけど!!」


港に着くなり、エーリィは目を輝かせながら興奮気味にそう言った。


「……早く乗れ。」


エーリィの妄想の毒牙にかかった船長は明らかに顔色を悪くしながら言った。


「妄想は自由じゃん!!」

「妄想自体を否定するつもりは無い。ただ口に出すな兎人族のガキ。」


エーリィは頰を膨らませながら反論するが、船長に一喝されて、渋々船へと乗り込むのであった。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル17

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル4)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『酸耐性(レベル5)』触れた酸を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。

『塩基耐性(レベル3)』触れた塩基を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。

『恐怖体制(レベル1)』迸る恐怖を和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。

『魔強酸粘液の加護』魔強酸粘液から異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。リザンテに呑まれ、そのまま取り込まれた。

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