孟秋 蟻共の備蓄は尽きぬ頃

【孟秋:秋の初め頃のこと。】


太陽が沈み始めた頃には作業が終了した。朝早くから夕方まで働いた為、かなりの稼ぎになったと思う。ギルドへ向かうと、遠目にリュウジとリュウタのパーティを発見した。

魔強酸粘液の騒ぎの中でも稼ぎが良かったのか、二人は満足げな様子で食事を楽しんでいた。

高校生だった時はファッションヤンキーなどと揶揄されていたが、当時から二人で行動していただけあって、連携が上手いのだろう。

遠目に眺めていると、リュウジと目が合った。


「お、トモヤじゃねぇか。」


リュウジと声を描けてくる。俺は軽く手を挙げて、そちらに向かうことにした。

最近の動向について報告し合う俺達。リュウジ達もゲヘナの扉を探しつつ、討伐依頼や復興依頼などを行っているらしい。


「この感じだと暫くは復興依頼を受けるのが優先だろうな。」

「長けりゃ半年は復興依頼っすかね。」


リュウジは溜息を漏らす。口調に棘はあるが、他者を気遣っているのが何となく分かる。リュウジの言葉に反応したのはリュウタだった。


「長ければ半年って……そんな具体的な期間なのか……」

「ギルド職員から聞いた話だがな。こういう面倒事には相当慣れてるらしい。」


俺がそう尋ねると、リュウジが答えた。この街のギルド職員なら驚くことではない。寧ろ、そういった把握能力も必要なのだろう。

それから俺はリュウジ達と暫く雑談を終えると、ギルドに今日の復興依頼を報告した。そして報酬を受け取り、アベルさんの家に帰宅したのだった。

家に着くと、アリシアとリザンテが出迎えてくれた。


「おかえり!!」

「きゅい!!」


鳴き声と共にリザンテが足元にすり寄ってくる。リザンテは小型化したとはいえ、鑑定で確認した限りはゴブリンやハウンドよりも強い個体らしい。


「明日はリザンテと討伐依頼にでも行こうかな。」

「……きゅいきゅい!!」


何気ない一言だが、リザンテは嬉しそうに俺の足に頭をすり寄せるのであった。


――――――――――――――――――――――――――

「ギルド総合記録、冒険者登録の抹消及び該当者の処理について。」


冒険者登録は名前、性別、年齢の三項目の登録が必要。簡易的ではあるが、公的な身分証明書として扱われる。

冒険者登録が抹消される場合とは何か。冒険者の登録を抹消する際には、主に以下の理由が挙げられる。

一つ目は重大な犯罪行為、又はそれに準じる悪事を起こした場合。

二つ目は大きな怪我や病気などで、これ以降活動が出来ないと判断される場合。

三つ目は死亡または長期間行方不明となった場合。

。それ故に一度登録が抹消された場合、余程の事情が無ければ再登録はである。


「今回の記録は一つ目に該当します。」


そう告げたのはウサリアだった。現在行われているのは新人ギルド職員への研修である。そもそもギルド職員は年中求められている。魔物や自然災害、果ては戦争など様々な理由から冒険者ギルドに需要がある。魔強酸粘液騒ぎで職を失った者達がギルド職員を志望するのは珍しいことではないだろう。

新人職員はギルドの仕組みや仕事の手順、書類の書き方などを学ぶ。彼等の研修期間は長く、早くても三ヶ月はかかる。その過程で辞める者もいるが、ギルドはそういった者をギルド周辺の商会や清掃団などに回す。アフターサービスも万全だ。


「冒険者六名、犯罪行為としては強盗、殺人未遂、また街中での広範囲に影響を及ぼす武器並びに魔法の使用。」


ウサリアは淡々と事件の詳細を語り続ける。それを聞いた新人達は顔色を青ざめさせ、中には怯える者もいた。


「この事例は数年前に実際に起こった事例です。ギルド職員数名と冒険者複数名が協力して解決しましたが、被害は甚大でした。」


この事例では一人の冒険者が低度の爆発魔法を使用した為、周囲の建物へも被害が及んだのである。低度とは言われているが、それでも生命を脅かすには十分であった。


「今回の事例において罪を重くしている要因は二つ存在します。一つは街中で爆発魔法を使用した点。もう一つが分かる方は?」


新人の男性が恐る恐る手を挙げる。ウサリアは彼に視線を向けると、回答を促す。

彼は深呼吸をして、小さな声で回答を述べる。


「中級冒険者が使役していたハウンドを盗んだ点です。」

「正解です。この冒険者達は他者が使役している魔物を盗んだ事で更に罪が重くなりました。盗まれたハウンドも捜索されましたが、発見時は既に死亡していました。以上の点から同情の余地は無いと判断し、二時間ほど拘束したのちに死刑に処することになりました。」


ウサリアはそこまで言い終えると息を大きく吸い、ゆっくりと吐き出す。気分の良い話題ではないため、感情をリセットしているのだろう。

すると新人の女性が挙手する。ウサリアは発言を許可する。彼女は生唾を飲み込み、恐る恐る口を開く。


「この冒険者達はどうして……犯罪行為をしたのでしょうか?」

「……まず彼等は冒険者として不真面目の一言に尽きます。依頼は碌にこなさず、町中での喧嘩は日常茶飯事。そんな彼等に金銭的余裕が生まれる筈がありません。」


ウサリアの口調が徐々に鋭さを帯びていく。


「追い詰められた冒険者は他者から奪う事で生計を立てようと考えます。彼等も例に漏れず、自分達が生きる為に他者を糧とする道を選んだのでしょう。」


新人の女性は口を閉ざしてしまう。


「この様な事例を解決、また後処理するのがギルド職員の役割です。」


ウサリアは新人達へ目を向け、 真剣な眼差しを向けながら淡々と言葉を続けていく。


「どう向き合っていくのか、それは貴方達次第です。」


ウサリアは新人達から視線を外し、今回の事例について書かれた詳細な書類へと目を通す。

”こんな筈じゃなかった”、”俺は選ばれた人間だぞ”、”ガッコウに帰りたいよ”(地名だと思われる)。

書類に書かれた最期の言葉に対してウサリアは哀れみの表情を浮かべると、もう一度息を吐いたのだった。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル17

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル4)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『酸耐性(レベル5)』触れた酸を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。

『塩基耐性(レベル3)』触れた塩基を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。

『恐怖体制(レベル1)』迸る恐怖を和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。

『魔強酸粘液の加護』魔強酸粘液から異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。リザンテに呑まれ、そのまま取り込まれた。

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