泡沫の夢の中 異界は退屈を否定するのか
【役割:その地位に対応する概念、役目や務めのこと。自らに課せる場合や他者から課せられる場合がある。】
陽射しが仄かに頬を照らしている。窓辺から差し込む光が心地良く、数日ぶりに熟睡出来た気がする。
腕を伸ばし、ベッドから起き上がる。軽く身支度を整え、ギルドへと向かうことにした。道中では商人達が朝から忙しなく商売をしている様子が伺えた。
ギルド自体も朝から盛況で、多くの冒険者が依頼を吟味していた。当然の事ながら、依頼の大半は復興作業に関するものだった。
「依頼によっては破格だな。」
依頼額が常時よりも多く、参加条件も緩和されている。悩む冒険者が後を絶たないのも無理は無いだろう。
そんな中、俺が選んだのは瓦礫を撤去する力仕事だ。正確には街道近くの倒壊した小屋を片付けて欲しいという内容だった。
報酬額は銀貨5枚。正直、破格の金額だと思う。復興作業が活発になっている今、こういった作業は需要が高いだろうし、何よりも俺がやりたかった。
依頼を受けた俺は早速現場へと向かった。
「そりゃあ!!」
「おらぁ!!」
街道付近は魔物の討伐依頼を受注した冒険者達が多く、男達の掛け声が響く中、俺は黙々と作業を続けていた。
魔強酸粘液が出現した影響で一部の魔物は生態を変えており、作業中に目の色が変化したハウンドが時折襲いかかってきたものの、難無く撃退した。
こういう時は『解体技術』が役に立つ。特に時間を掛けることなく解体出来る為、即座に作業に戻れる。余裕があれば解体した素材を他の冒険者に渡しても良いだろう。
「……ふぅ。」
それから数時間が経過し、昼頃に一旦休憩を取ることにした。街道にあるベンチに腰かけ、干し肉や野菜を挟んだパンを食べる。パンの形は楕円形で、どことなく赤い色をしていた。優しい酸味とほのかな甘味に舌鼓を打ちながらも、俺は今後のことを考えていた。
ここ暫くは復興作業系の依頼を受ける予定だが、それが一段落したらゲヘナの扉の捜索を再開させなければ。まだまだこの大陸は俺自身が見ていない場所が多い。
「……あ。」
勿論、ガリア平原やエイハブ山脈など行ったことがある場所もちゃんと探索しなければならないだろう。完全に探索を終えたと言える程には踏破していないからな。それにこの大陸にいるリゼ達がこの期間に何をしているかも気になるところだ。
そんな事を考えながら、昼食を終えた俺は再び作業に戻るのであった。
――――――――――――――――――――――――――
「……分身を保つのが本格的に厳しくなって……きたね……」
「お父さん。大丈夫ですか?」
リムゥニアが苦しそうに胸を押さえている。その身体は透明になったり、また戻ったりを繰り返しており、まるで消えかけの炎の様だった。
イザベルは心配そうに駆け寄る。当然、リムゥニアの発言の中に存在した分身という言葉を、聞き逃してはいなかった。
「それに分身とはどういう意味ですか?」
イザベルの質問に、リムゥニアは苦笑いをする。
「言葉の通りだよ。今までこの世界に存在した私という存在は本体ではない……それどころかこの世界もまた本当の宇宙ではないのさ。」
リムゥニアはそう言うと、宙に鏡を出現させた。鏡に映っていたのは、漆黒の空間に眠るリムゥニアの姿だった。
「私が無と呼ぶ宇宙に辿り着いた後、眠りについたんだ。その際に夢……無意識空間に分身を派遣し、そしてこの世界を生み出した。」
つまり、この宇宙はリムゥニアが見る夢の中に過ぎない。だが、宇宙の中に宇宙がある様に、この世界は確かに現実世界として成り立っているのだ。
その事実にイザベルは驚愕した。それは、自分が極年の時を過ごした中で経験したことの無い……ある筈が無い衝撃だった。
「まあ同胞達がこの世界にやってくるとはね……彼等の科学力ならそれも不可能じゃないってことか。」
そう言って笑うリムゥニア。彼等とは劇場に数度現れた異形の者達のことを指している。
リムゥニアはイザベルに向き直ると、真剣な眼差しで語りかける。
「結局の所、私が創造主として活動するには、ある神話の創造主と同じ役割を担うことが必要不可欠だった。だから私は眠りにつきながら、この世界を創造していったんだ。」
「お父さん……貴方の目的とは?一体何の為に?」
イザベルの問いに、リムゥニアは微笑みながら答える。
「私は期待しているんだ。この夢の中から抜け出して、私を起こす存在が現れることをね。そして私が眠る無すら越えて、同胞達すら未だ辿り着けていない宇宙の果てに往く者の出現を。」
リムゥニアは両手を広げながら語る。リムゥニアの赤い瞳の中に翡翠色の線が走り、その輝きを増していく。
イザベルはその様子を見ながら、リムゥニアが本当に消えるということを理解した。同時に共感してしまった、リムゥニアが求めているのは自らの退屈を紛らわす娯楽、そして数多の宇宙に革新をもたらす嵐であると。イザベルは何故その事実をもっと早く教えてくれなかったのかとリムゥニアに対する強烈な嫉妬心を覚えていた。
そんなイザベルの気持ちを知ってか知らずか、リムゥニアは続ける。
「秘書官イザベル・ウルザード。君にシステム接続の権限を委譲する。どうかあらゆる生物の進化を促し、そして……私を起こしに来なさい。」
そしてリムゥニアはこの世界から完全に姿を消した。いや完全に睡眠状態に入ったと言った方が正しいのかもしれない。
──勿論。寝ている間も創造主としての活動は続けるよ。かの魔皇を悪く言うつもりは無いが、破壊だけで恩恵を与えない創造主なんて嫌だろう?
リムゥニア=ルゴトースはこの世界を維持し続けるだろう。やがて現れるであろう自らの存在を覚醒させる者を待ち続けながら……
イザベル自身は最初にして最後の舌打ちをした。それは父に対して向けた祝福かそれともただの侮蔑なのか。どちらにせよ、イザベルにとっては父であり、創造主でもあるリムゥニアから託された任務を果たす為に動き出す。
「貴方よりも多くの未知を観測しましょう。だから清々、暗闇の中で眠っていて下さい。良い夢を。」
イザベルはそう呟くと、劇場から立ち去った。この時に劇場に起こった振動が原因で、ある壺が劇場から落下することになるのだが、イザベルが知る由は無かった。
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現在のステータス
生命力:B
魔 力:C
体 力:C
攻撃力:B
防御力:C
魔力攻:D
魔力防:D
走 力:B
現在使用可能なスキル
●身体、精神、霊魂に影響するスキル
『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。
『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。
『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。
『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。
『解読』文や言語を理解するスキル。
『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。
『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。
『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。
『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある
●技術
『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。
『加工技術』加工の技術を高めるスキル。
『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。
『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。
●耐性
『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。
『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。
『毒耐性(レベル4)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。
『酸耐性(レベル5)』触れた酸を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。
『塩基耐性(レベル3)』触れた塩基を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。
『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。
『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。
『恐怖体制(レベル1)』迸る恐怖を和らげて、活動しやすくする。
●魔法
『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。
『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。
『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。
『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。
『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。
『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。
●加護
『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。
『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。
『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。
『魔強酸粘液の加護』魔強酸粘液から異種族に与えられる加護。
現在の持ち物
銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。
冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。
毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。
黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。
デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。
グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。リザンテに呑まれ、そのまま取り込まれた。
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