主亡き天空漂う塔 デイゴアモスの塔

舞台は整い役者は揃った

【役者は揃った:優秀な者達が全員ある場所に集まること。】


紅葉した針葉樹林を見ながら、久しぶりにアガレス領に帰ってきた。今回の騒ぎで特に致命的だった有害物質が大量に含まれた雨の影響は未だに残っている。枯れ果てた植物に、酢酸臭漂う魔物の死骸、汚染された農地、瓦礫とかした家屋などなど……

道中では復興作業に勤しむ冒険者や、神官の姿が見られた。今回の災害で多くの名前の無い小さな村が壊滅したという情報もあった。俺も一通り、被害状況の確認をし、復興を手伝いたいと思う。


「そもそも大陸に対する被害は一時災害的なものでしかない。それよりも、問題は二次災害の方だ。」


ルシエドさん曰く、直接的な災害ではなく、間接的な影響が大きいらしい。

ある地域では疫病の発生や、不作による食糧不足など。


「魔物とはいえ、迷惑だけかけて何の償いもせずに去っていくとはねぇ……」


ルシエドさんは吐き捨てる様に言った。実際、この被害を起こしていたのはハーケンリテックスという魔物だったが、その魔物を強化した要因は間違いなくデイゴアモスだった。


「会話が成立したところで魔物は魔物か。いつも通りだねぇ。」


俺はそのことについて、これ以上考えるのは止めようと思った。デイゴアモスは祝殺で消えたのだ。

再会は……現実的ではないが、次に会う時は誰も傷付けること無く話すことが出来れば良いと願った。

帰還して、アガレス領の門を潜ると懐かしい人の波に流された。意外にも暗い表情をする者は少なく、むしろ笑顔の人が多かった。活気溢れる街の様子に、俺は思わず笑みを浮かべてしまった。


「キュイ!!」

「え?」


突如、肩に何かが乗っかってきた。視るとそこにはリザンテに似た蛇が乗っていた。最後に見たリザンテは1mを超える大きさに成長していた為、もしかしたらリザンテの子供……いやタイタンに単為生殖機能なんて無い筈だし……


「もう!!リザンテ勝手に何処かに行かないでよね!?ってトモヤ帰って来てたの!?」


そう言いながら、慌てて駆け寄ってくるのは勿論アリシアだった。再開に喜ぶ俺達だが、ふと気になることがあった。

リザンテのサイズが何故か小さくなっているのだ。リザンテ自身は俺の首に頭を擦り付けて甘える様な仕草を見せている。


「えっとね。トモヤが大規模クエストで出掛けてる間にね。リザンテがトモヤの持ってた石を食べちゃったの。」

「……その石って黄色の水晶だったりする?」


恐る恐る尋ねると、アリシアは首を横に振った。


「ううん。宝石じゃなくて苔が生えたみたいな石だったと思う。」


俺は一先ず安堵した。だが、それでも疑問が残る。何故、リザンテはグランベードの遺した石を食べたのか。

するとアリシアがその時のことを話してくれた。


「そしたらね。リザンテの身体が光って繭になっちゃったの。数日経ったら繭から出てきて、それからずっとこの大きさのままなの。」


所謂、進化と言うものだろうか。よく見るとリザンテの身体に小さな黒い羽が生えていた。羽には苔が生えている。

鑑定でリザンテのスキルなどを確認すると、『小型化』というスキルが新たに加わっていた。


「リザンテ……もしかしてこれ以上成長したら困ると分かって、石を取り込んだのか?」

「きゅい!!」


そう聞くと、リザンテは肯定するかの様に鳴いた。いや賢いとは今までの経験から思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。

リザンテの賢さに驚きながら、俺達はアベルさんの家に向かうのだった。


「トモヤさんお帰りなさい。」


家の扉を開けると、アベルさんが待っていた。部屋は相変わらず綺麗に整頓されていた。

椅子に座り、一息ついたところで今回の騒ぎの結末について話し始めた。最悪の事態になる可能性もあったが、大陸は確かに首の皮一枚繋がったのだ。


「この街は領主様の手腕もあって、大雨の中、概ねいつも通りの生活を維持したままでしたよ。」


ジャミノフさんの領主としての才能に驚きつつ、塔周辺の出来事や、リザンテの成長などについて話している内に日は傾き始めていた。秋風が頬を撫で、冷たい空気が肌を刺すのだった。


――――――――――――――――――――――――――

「そろそろかな。」


リムゥニアが劇場の椅子から立ち上がり、舞台裏へと消えていく。そして数分後に戻ってきた時には、その手に五枚の羊皮紙の様な紙が握られていた。


「お父さん。そこに書かれた名前の方々が同僚となる神々ですか?」


かつては幼き少女だったイザベルは今やリムゥニアを超える程の身長に成長していた。


「ああ。ミーア・ドラゴン達も五月蝿くなって来たし、私とイザベルだけじゃ、もう面倒見切れないからね。」


その言葉にリムゥニアは苦笑しながら、五人の名前が書かれた紙を眺める。

ミーア・ドラゴン。それはリムゥニアが世界を再創造する過程で発生した余剰エネルギーから誕生した八体の龍種。ある意味ではイザベルとミーア・ドラゴンは姉と妹の様な関係だったが……


「……既に黄のミーア・ドラゴンは始末しました。初めて純粋な殺意という感情が湧きましたよ。」


そんなイザベルの様子をリムゥニアは何とも言えない表情で見ていた。


「うーん……誰に似たんだろうか?」

「ふふふ。私がお父さん以外に対話したことがある生命体なんて在りませんよ。」


微笑むイザベル。ちなみに嘘である。イザベルは八体のミーア・ドラゴンと会話をしたことは勿論ある。単純にマイナス感情しかないので、対話とみなしたくないだけだ。

そんなことをしている内に、リムゥニアは五人の名前が書かれている紙を燃やした。そして、名前を告げた。


「記録官ヒストリアイ。種族は付喪神ツクモガミ。」

「養成官バラン・ハザード。種族は龍神リュウノカミ。」

「査察官トゥルカウダック。種族は渡鳥神ワタリドリノカミ。」

「統治官クババ。種族は獅思神シシガミ。」

「林産官イシュタム。種族は腐死神フシガミ。」

「最初から種族が神だなんて、中々の神材じんざいですね。」

「この世界は更に豊かになるが、同時に多くの困難も生まれる。君自身も不死蝶神フシチョウノカミに成長しているとはいえ、不安要素が無いとは言えない。だからこれ程の面子を揃えるんだ。」


燃え滾る炎の中で踊る文字列を見ながら、二人の間に暫し沈黙が流れる。


「……私はもう長くない。生命いのちが尽きるという意味では無く、この世界で活動出来る時間が……という意味でだ。」


その言葉に、イザベルは何も答えなかった。ただ静かにリムゥニアの言葉に耳を傾けていた。


「初めから時間制限があるのは納得していたが……それでも……この世界の未来これからが観測出来ないというのは非常に残念だ。」


リムゥニアはそう言いながら、悲しげな表情を浮かべていた。


「……湿っぽいのは嫌いなんだが。」


そう言うと、リムゥニアは無理矢理に笑顔を作る。イザベルはそれを見ると、同じ様な笑顔を作った。

そして炎の中から五柱の神々が現れた。

ヒストリアイは眼鏡を掛けた白衣の優男の姿。バランは黒き鎧を纏った男の姿。トゥルカウダックは汚れ一つ無い純白の羽を持つ鳥の姿。クババは煌びやかな宝石類に彩られた女の姿。イシュタムはどこか古さを感じる真紅の民族衣装を着た老婆の姿。


「皆、仲良くね。」


リムゥニアはそう言うと、それぞれの神々の顔を見て満足そうな表情を浮かべた。ヒストリアイは微笑みながら片手を上げた。バランは特に表情を変えずに軽く会釈した。トゥカウラダックは翼を広げて大きく一礼した。クババは宝石類が擦れ合う音を立てながら手を振って応える。イシュタムは深くお辞儀をした後で杖を振るい、その先端から溢れ出る深緑の光を振り撒いた。

其れに対してイザベルは特に興味無さげにその様子を見ていた。こうして、後にアヌンナキと呼ばれる者達は確かに揃った。

同時期にある辺境の銀河群にて、とある惑星が超新星爆発を起こした。これが後にある恒星と惑星が生まれる要因となるのだが、この時点においては誰も知る由は無かった。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル17

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル4)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『酸耐性(レベル5)』触れた酸を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。

『塩基耐性(レベル3)』触れた塩基を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。

『恐怖体制(レベル1)』迸る恐怖を和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。

『魔強酸粘液の加護』魔強酸粘液から異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。リザンテに呑まれ、そのまま取り込まれた。

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