旧き支配者の棲み処 デイゴアモスの塔

雨露霜雪

【雨露霜雪:さまざまな気象状態の変化のこと。また人生での様々な苦しみや悩みのこと。】


結局、翌日も晴れることは無く、一日中雨が音を奏でていた。だがその次の日は前日の大雨が嘘の様に晴れ渡っていた。太陽の光が眩しい。俺はベッドの上で伸びをする。


「とりあえず、ギルドに行くか。」


街は二日続いた雨の影響か、いつもよりも数倍賑やかだった。雨の日の鬱憤を晴らすかのように人々は笑い合っている。俺はそんな人々を横目に通り過ぎて行く。

ギルドに着くと、中は人で溢れかえっており受付にも列が出来ているほどだった。この調子だと今日も依頼を探すのは無理かもしれない。そう思いながら俺はギルドの空いていた席に座った。


「ん?この匂いは……」


麦酒の香りが鼻腔をくすぐる。恐らくルシエドさんが数時間前にここにいたのだろう。テーブルを見てみれば、まだ水滴が付いていた。慌てて席を離れたと想像出来る。


「……あれ?」


よく見ると受付には受付嬢、ウサリアも居ない。代わりに別の女性が立っていた。

ギルドの中でも上位の実力者である二人が同時に居ないということは何かあったのだろうか。明らかに異常だと感じた降雨と関係があるような気がしてならない。


「……帰るか。」


もし、また厄介な魔物が復活していたらと戦闘は避けられない。今は自分の身体を治すのが先決だろう。


――――――――――――――――――――――――――

「……なんだありゃ?」


トモヤがギルドから出るのと同時刻、大陸の北東部にある名も無き漁村にてルシエドが呟いた。彼の視線の先には大海原から突き出る塔がある。

その塔の頂上からは、触手が伸び周囲の魔物を塔に引き摺り込んでいた。魔物達の中にはガリアン・アトラストのような強力な魔物や、フィッシュゴブリンなどの発見が困難な希少な魔物までいる。


「パターン赤……魔強酸粘液スライムです。」


ウサリアが報告する。彼女はルシエドの隣に立ち、目の前の光景を眺めている。


「何年振りだ?あの粘液の化物が現れたのは。」

「最後の発見記録は数百年前ですね。当時の記録によると、大きさは3m程。目の前の個体が上位の魔強酸粘液スライムであるのは間違い無いでしょう。」

「じゃあどうする?ウサ子。」

「……知っての通り、魔強酸粘液スライムは全魔法攻撃を半減させる特性を持っています。そして大抵の武器は強酸性の粘液によって腐食、あるいは溶解します。」

「……まあ、俺の剣が通用しないのは分かってたが……」

「……もう一つ。魔強酸粘液スライムは粘液だけで構成された身体、そして精神、霊魂だけの存在です。それはつまり人族における心臓や脳、脊髄などに相当する部分が無いため、死ぬという概念がありません。簡単に言えば殺せません。」


ルシエドは舌打ちをした。分かっていたことではあるが、魔強酸粘液スライムは討伐出来ない相手ということだ。だが、有効打が一つも無い訳では無い。


「確か、呪殺と祝殺なら効くんだよな。」


呪殺とは、呪いにより対象を浄化し黄泉国に落とす方法である。祝殺は、神または神に近い存在が対象を祝福することにより浄化し、楽園に落とす方法だ。どちらも魔法の一種ではあるが、攻撃魔法ではなく、相手を浄化し転移させる魔法だからこそ魔強酸粘液スライムは半減することができないのだ。

ただし、この二つの方法は非常に難易度が高い。呪殺であれば上位のマイナスエネルギーの使い手でなければ行使できない上、制御が厳しい。祝殺に至っては、神もしくは神に近い者しか扱えない。今現在において、祝殺が行える程の神官は確認されていない。


「……一旦撤退だ。奴さんはどうやらあの塔から出てこないみたいだしな。だが、時間制限はある。あの塔から出てくる紫色のガスが雨雲に混じれば……まぁ、分かるよな?」


ルシエドはそう言いながらウサリアとその後ろにいるギルド職員達を見た。


「ウサ子、仮に強酸性の雨がアガレス領まで降るとしたら、どれくらいの猶予がある?」


ウサリアは少し考え込む。


「……三ヶ月後には降り始めると思われます。そのまま放置すれば、大陸全体を酸性雨の雲が覆うことになるかもしれません。」


ルシエドは溜息をつく。既に漁村の村人達は避難を終えたが、この他の問題の解決にはまだまだ大掛かりな準備が必要になるだろう。彼はもう一度塔の方を見る。


「あら?もう帰っちゃうのぉ?」


突如、塔から声が聞こえた。漁村と塔は海で隔てられているため、声が届くはずがないのだが。ルシエドは咄嵯に剣を構える。ウサリアも何時でも魔法を放てる様に身構える。


「……酷いじゃない!!ワタシを人族に襲いかかる様な凶暴な魔物扱いするなんてぇ!!」


再び聞こえる女性口調の男声。その瞬間、ルシエドは理解した。この声の主こそが魔強酸粘液スライムなのだと。


「お前にどんな目的があって塔に棲み着いているのかは知らんが、とっとと出て行ってくれねぇかな?」

「ふぅん……人族のお子ちゃまにしてはイイオトコじゃないのぉ!!でもお断りよ!!ここはワタシの家だもの!」

「……そいつは残念だ。」


ルシエドはそう言うと、剣を振って合図を出す。すると、ギルドの職員達が一斉に撤退を始めた。まさかの事態に困惑していた魔強酸粘液スライムだったが、特に追う様子も無かったため、職員達は全員無傷でその場から脱出することができた。


「……まあいいわぁ。オヤツタイムだしねぇ。」


魔強酸粘液スライムは塔の下層に触手を伸ばす。下層にあったのは、魔強酸粘液スライムが魔法で作った檻だった。その中に居たのは数十匹のオーク達。


「や、やめるブゥ!!」

「僕達は美味しく無いブゥ!!」

「何でもするブヒィ!!」


魔強酸粘液スライムはその叫びを聞くと、嬉しそうな笑みを浮かべる。顔など存在しないが、その声色から歓喜していることが分かる。


「だぁめぇ。いただきまーす!!」


魔強酸粘液スライムは、まるでケーキを食べるかの様に、檻ごとオーク達を捕食していった。オーク達の死因のほとんどは毒ガスによる中毒死、また発狂死であった。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル15

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。

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