只々宗教歌が谷底から聞こえる
【フィッシュゴブリン:ゴブリンが海洋に適応した姿。二足歩行の魚類と言うに相応しい姿をしており、ゴブリン特有の緑色の体色に全身を覆うウロコと背ビレを持つ。フィッシュゴブリンは陸地から追い出された後に海へと逃げ込んだゴブリンがガリアン・ノアムーンやガリアン・アトラストなどの大型の魔物から身を守るために進化していった結果であると言われている。それ故に異常と言える程、臆病な性格をしており発見記録は極端に少ない。】
ようやく身体に残ったダメージは完治し、俺は軽く伸びをする。窓から外を見ると、雨雲が街を覆っていた。最近は晴れていることの方が珍しい気がする。
「久しぶりに街から出るか。」
冒険者にとって討伐依頼が無い生活はとても退屈だ。リザンテは俺よりも街から出ていなかったと思うが、それでも不満は無いらしい。呑気にあくびをしていた。
「……行くか。」
リザンテを連れて、俺達は久々にアガレス領を出た。目的地は緑雷が住処にしていた廃村。緑雷がいなくなったことで、他の魔物が新たに住み着き始めているかもしれない。
廃村に辿り着くと、ゴブリンやスケルトンなどの魔物が徘徊しており、お互いに争い合っていた。スケルトンの中には骨の色が変化している個体もいることから、スケルトン側が勢力としては優勢だと推測できる。
「こいつら……なんか強くなってないか?」
異常事態なのは間違いない。ここ数日で魔物の生態系が変化したようだ。心当たりとしては雨しか無い。
「ってか、この距離まで近づいてるのに気づかないとはな……」
俺達は廃村の入口にいるが、魔物達は未だに争い続けている。俺達に気づいていないということは、それだけ争うことに必死になっているということだ。俺とリザンテはゆっくりと廃村内を進む。そして、魔物達の争いの中心に辿り着いた。そこには、一際大きいゴブリンと骨が青いスケルトンがいた。
「カチカチ……カチャカチ……カチャャ……」
「グギャア!!ガァ!!」
スケルトンは全身から音を出して威嚇している様だが、対するゴブリンは怒り狂っている。むしろ、まだ争っていないことが奇跡だ。
「……単純な縄張り争いじゃないのか?こいつは……」
俺が呟くと、スケルトンとゴブリンは同時にこちらに気づいた。
「グギャア!?」
「キキキ……キキ!?」
二体の魔物は俺達を敵では無く、審判の様な存在だと認識し始めたのか戦いを始めた。まずはスケルトンが動く。カタカタと音を鳴らしながら走り出す。
流石に今回の出来事には困惑した。今まで遭遇した魔物は有無を言わずに襲い掛かってきたからだ。しかし、この二体はまるで違う。明らかに知性を持っている動き方だ。
「……鑑定。」
俺は鑑定を発動させる。結果はすぐに出た。
《
「カチカチ……」
スケルトンは満足げに骨の音を鳴らす。勝ったことを誇っているようだった。そしてゴブリンの死体を担いで廃村の奥へと消えていった。
「……何だったんだ一体?」
俺は思わず独り言を言う。廃村はあくまで一時的な決闘場であって、住処にする予定地では無かったようだ。
「キュイ?」
流石にリザンテも驚いている様子だった。
「ここに長居するのは必要も無さそうだし帰るか?」
あのスケルトンは人族に対して即座に攻撃して来なかった。つまり、人族に対する敵対心は薄いということだ。ならば、無理に討伐する必要も無いだろう。一応ギルドには報告するか……
「行くぞリザンテ。」
「キュイィ!!」
俺達は来た道を戻ることにした。
――――――――――――――――――――――――――
「……それが俺チャンを呼び出した理由ね。」
ギルドの客間には赤と黒を基調にした神官服に身を包む青年の姿があった。その顔は仮面で覆われており、表情は分からない。
「結論から言って、俺チャンでも祝殺は無理。」
「そうですか……まずは、この街までお越し頂きありがとうございます。」
ルシエドは頭を下げる。
「礼なんていい。そういや、ジャミノフの奴は元気かい?」
「現在は屋敷で領主の仕事に追われていますよ。」
ルシエドの言葉を聞いて、神官服の男は大きく笑う。
「……まあ後で俺チャンも顔を出すかな。」
「それにしても、身体は大丈夫なんですか?御歳108の老体でしょうに……」
「おいおい。年齢のことは言わないお約束だろ。」
二人は笑い合う。神官の青年の正体は、この大陸の神官達のトップに立つ教皇ディアンティス・ルクスその人だった。
「さてと話を戻すか。祝殺は出来ないが、それに近いことなら出来るぜ。そもそも呪殺や祝殺は魔法というよりは儀式だ。手順さえ踏めば、魔法を発動しなくても勝手に効果自体は発動するんだよ。」
ディアンティスは得意げに語る。
「魔法やら技術やらはゼーラント王国の学園で大いに発展したが、儀式一点に関してはプロイツ王国の方が遥かに上だからな。」
「それで……どのような儀式を行うんです?」
ルシエドは急かすように聞く。
「まあまあ落ち着け、チョビ髭チャンよぉ。今回は聖歌隊が演奏で行う。」
この世界においての神官は、思想家と演奏家を兼ねている者を指す。普段は教会などで神官同士で自らの思想について論争をしたり、劇場にて歌を歌っていたり、楽器を奏でていたりしている。その中に一部の実戦部隊が存在する。
聖歌隊とは、神官達の中でも全ての面に秀でた者達によって構成されており、エリート中のエリートである。
「ただ、聖歌隊だけじゃあ心許ないからな……楽器弾ける連中は全員集めてくれ。」
「……大規模クエストですかね?」
「ああ、頼むぞ。報酬はプロイツ王国からたっぷり出しておく。」
「分かりました。早速準備に取り掛かります。」
そう言うとルシエドは即座に客間を後にする。
「俺チャンもそろそろ帰るとするか……全く腰がいってぇな……」
いくら青年の姿であっても108年という時の流れには逆らえない。老体の節々にはガタがきており、歩く度に痛みを感じる。それでも動かないという選択肢は無い、事態の解決には一歩ずつでも前に進むしか無いのだから。
――――――――――――――――――――――――――
現在のステータス
生命力:B
魔 力:C
体 力:C
攻撃力:B
防御力:C
魔力攻:D
魔力防:D
走 力:B
現在使用可能なスキル
●身体、精神、霊魂に影響するスキル
『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。
『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。
『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。
『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。
『解読』文や言語を理解するスキル。
『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。
『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。
『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。
『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある
●技術
『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。
『加工技術』加工の技術を高めるスキル。
『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。
『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。
●耐性
『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。
『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。
『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。
『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。
『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。
●魔法
『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。
『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。
『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。
『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。
『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。
『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。
●加護
『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。
『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。
『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。
現在の持ち物
銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。
冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。
毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。
黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。
デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。
グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。
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