雨虎は酸性雨を降らすのか

雨虎アメフラシ:軟体動物の一種。簡単に言えば貝の仲間、殻は板状であり背中の中に隠れている。身体に接触すると、紫の粘液を分泌する。一説には、分泌する液体が雨雲に似ているため、その名がつけられたという。】


「……雨、まだ強くなりそうだな。」


アベルさんの家で昼食を食べ終えた後、窓の外を見てそう言った。まだ昼過ぎだというのにも関わらず外は暗くなりつつある。まるで夜になったかのような暗さだ。


「明日は晴れるかしらね。」

「どうだろうな。」


俺はアリシアに曖昧な返事をした。数日は続きそうな雨の様にも見えるし、明日の朝には止んでいるかもしれない。俺がぼんやりと外の景色を眺めていると、アベルさんが口を開いた。


「おや……パンがもう無いようですね。」

「あ、俺買ってきますよ。」


俺は椅子から立ち上がる。雨が降っている中、外に出るのは億劫だが、まぁ仕方ないだろう。


「トモヤさんは安静にしていて下さい。私が行ってきましょう。」


そう言って、アベルさんは外套を着て外へ出て行った。アリシアは少し心配そうにしていたが、すぐに笑顔になって話しかけてきた。

リザンテは変わらず寝ている。アリシアに撫でられると気持ち良さげにしていた。最近は脱皮と睡眠、食事というサイクルを繰り返しており、更に成長するために蓄えているという感じがする。


「今は可愛いけど、成体になったらどうなるのかしら?」


学園にいた時は60cm程だったが、あれから更に成長して遂に1mを超えた。しかし、未だに可愛らしい印象は変わらない。このままではアリシアの身長も抜かしてしまいそうだ。


「流石にこれ以上大きくなったら、家の中で飼えないかもな。」


家の天井の高さを考える。流石に体長2mを超える魔物が入れるような広さは無いだろう。

そんなことを話していると、アベルさんが帰って来た。


「思ったより酷い雨ですので、家から出ないようにして下さい。」


アベルさんはそう言うと、棚の中にある皮袋に手を伸ばした。そして皮袋の中にパンを仕舞っていく。


「パパ、今日の雨はいつも降ってる雨と違う気がするんだけど気付いてる?」

アリシアが尋ねると、アベルさんは手を止めて考え込む。確たる証拠が無いのか、アリシアの質問に対する答えを口にしなかった。

確かに普段よりも雨量が多いように感じる。何かの前触れなのだろうか。嫌な予感が頭を過った。


――――――――――――――――――――――――――

アガレス領より北、大陸の北端ガリア平原。その地域一帯は常に猛吹雪が吹き荒れている。それはつまり、どれほど巨大な存在が現れたとしても、外側からは一切視認できないということである。


「んもう……数千年ぶりに復活したってのに。魔強酸粘液の塔スライムタワーは何処よおん!?ってゆうか、ここガリア平原じゃない!?肌が荒れるたらどうすんのよ!!」


野太い女性口調の声が突如、純白の雪原に響き渡る。現れたのは毒々しい桃色の粘液だった。その粘液の塊はくねくねと動きながら波打っている。すると、その声に引き寄せられる様にハウンドやタイタンが寄って来る。


「ちょっとぉ!ワタシに近づいてぇ、来ない、でよぉ!!」


粘液の一部分が紐状に変化していく。つまり粘液の一部分が触手になったということだ。触手の先端から透明な液体を噴出させ、周囲にいた魔物達を溶かしていく。溶けた魔物からはガスが噴出し、悪臭で周囲の空気を満たしていった。どうやらその液体は強酸性のようだ。


「もう!!邪魔よ!!」


魔物だけではなく、周囲の地形も溶かし尽くしていく。氷雪の地獄を別の地獄に変えてしまう。数分後、落ち着いたのか触手の動きは止まった。


「ふぅ、スッキリしたわ。でも、何でこんな場所で復活したのかしらねぇ……まぁいいわ。匂いを辿れば塔の位置なんてすぐ分かるもの。」


再び粘液の塊に戻った後、それは移動を開始した。ガリア平原から更に北、つまり粘液の塊は極寒の海に飛び込んだ。粘液の塊、魔強酸粘液スライムは海中を進んでいく。当然、強酸性の塊が海に入れば、海水は汚染されていく。


「海は何時の時代でも綺麗よねぇ……」


魔強酸粘液スライムは楽しげに呟いた。そう呟きながらも、魔強酸粘液スライムが活動すること自体が自然環境を一番汚染しているという事実には全く気付いていない。人間と魔物の倫理観が違うことなど良くあることなのだろうが、特に魔強酸粘液スライムという種族はそれが酷いようだ。


「あ!!見ぃつけちゃったわ!!」


海底に沈む建造物を見つけた。それは塔というよりは、神殿に近い形をしている。


「全く酷いわよねぇ……乙女の花園を勝手に海に沈めるだなんて。」


そう言いながら、魔強酸粘液スライムは魔法を発動した。すると、塔はゆっくりと浮上し始める。


「それじゃ精々怯えなさい!!人族のお子ちゃま達!!デイゴアモスちゃんが復活してあげたんだからぁ!!」


魔強酸粘液スライムはそう叫びながら、浮上する塔の中に消えて行った。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル15

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。

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