絹糸が声を繋げるまで

【絹糸︰蚕の繭からとった糸のこと。】


この護衛団に参加した理由は図書館で別世界に行くことができるという扉の情報を学園の図書館で探す為である。怨霊騒ぎで、うやむやになってはいたが。

俺は図書館の目録である水晶に手をかざしながら、目的の項目を探す。


「多分これかな……」


キーワードは、そしての三つ。全てのキーワードを含む書物は一つあった。


「ゲヘナの扉……この星に二つしか無い別世界へと通じる扉……か。」


本のタイトルはそのままゲヘナの扉となっている。著者は……


「……ん?」


エトラ。著者名にはそう書かれていた。目録で他の著作を確認する。


「蓬莱の樹海、魔強酸粘液スライムが居座る塔タワー、千年赤城に生きた砂漠……実在する場所、あるいはかつて存在した土地や建物がタイトルになっている……」


本を実際に開いてみる。中は手書きの文字がびっしりと書き込まれていた。


「……生きた砂漠は53万haの広大な砂地を指す。何と摩訶不思議なことにこの砂漠は移動する。移動する行動パターンは長年謎だったが私は古の河川、地層に残った地下水脈の跡を巡っているのだと仮定した。その説を裏付ける証拠として……」


この著者は冒険家なのか?それとも学者なのだろうか。どちらにしてもエトラという人物が書いた著作はどれも面白かったし、興味深かった。


「とりあえずゲヘナの扉を貸し出し……って俺、生徒じゃないから借りれないじゃん!!」

「おや?どうされました?」


後ろを振り向くと、そこにはミネルさんがいた。俺は状況の説明をする。


「なるほど。それでしたら……」


ミネルさんがゲヘナの扉を手に取り、魔法陣で包み込み複製した。


「こちらの写本を差し上げますよ。」

「いいんですか!?」

「ええ。今回の事件のお礼ということで。」


穏やかな笑顔を見せながらミネルさんは言った。


「ありがとうございます!!」


こうして俺はリゼの部屋に戻ってきた。部屋にはミヅキやアキオ、アイリの三人も来ている。


「まさか私達の庭とも言っていい学園に手がかりがあったなんてね……灯台下暗しって奴だね。」

「で、その本には何が書いてあるんだ?」


俺は簡単にまとめた内容を伝える。


「ゲヘナの扉がある可能性が高い場所はこの大陸だとガリア平原とエイハブ山脈、そして古代文明の遺跡だな。」

「あるいは二つとも隣の大陸にしか無いかもしれないけどね。」

「……確かにそうだよな。」


俺達は意見を交換し合うが、答えが見つからないまま時間だけが過ぎていく。


「よし。二手に別れようか。トモヤ君とリゼちゃんはこの大陸に残って各所の調査。私達は隣の大陸に殴り込みに行くよ。」

「ミヅキ……物騒な言い方はよせ。」

「でも間違った表現では無いよね。あっちは絶賛戦争中で大陸に上陸しようとする船は警告無しに撃沈して良いって言われてるんだから無理矢理突破しないと。」

「まあそうなんだけどなぁ……」

「それにあっちの大陸はまだ冒険してないし。」


絶対そっちが目当てだろ……


「という訳で、トモヤ君達は引き続き調査をお願いするよ。何か分かったらすぐに連絡ちょうだい。こっちも何か分かったらすぐ伝えるからさ!」

と言ってミヅキは蚕の繭の様な糸の塊を取り出した。

「これは?」

「デモカイガっていう魔物の繭だよ。デモカイガの卵からは二体の幼虫が生まれるんだけど、その二体が作った繭は空間をリンクさせて音声を共有することができるんだよ。」

「これ、もしかしてすごい高価なんじゃ?」

「そりゃ高いぞ。これ使らしいからな。」

「私達の凄さが分かったでしょ!!」


ミヅキのセリフに合わせて、アイリも「うんうん。」と相槌を打っていた。


「……でもこれ一回しか使えないんだよね……」

「うぇ!?」


俺は渡された繭の希少さに震えながら、この日を終えたのであった。


――――――――――――――――――――――――――

現在、エウテルベ達がいる大陸の情勢は混乱を極めていていた。


「てぇぇ!!」


髭の濃い軍人の掛け声と共に大砲から砲弾が発射される。

三年前の市民革命により誕生した共和国。それから戦争が始まったのはその革命から一年半後のことであった。共和国を沈める為、周辺諸国から当て馬として差し向けられたイリゾニア王国との戦争である。開戦当初は王国が優勢だったが、共和国は言うならば商人や技術者の集合体であり、ここ数ヶ月で一気に戦力を強化した。


「くっ……やはり砲撃では歯が立たないか!!仕方ない、白兵戦に移るぞ!!」

「はっ!!」


王国軍は武器を構え、共和国軍に向けて突撃を開始した。だがその時だった。


「敵襲だァ!!!」


突如、森の奥の方から爆発が聞こえてきた。


「……何事だ!?」

「報告します!!」


伝令の兵士が駆け寄ってくる。


「先程、海岸付近に軍船が一隻現れました!!」

「軍船だと?何処の馬鹿共だ!!」

「それが……全く見たことの無い船で……」

「そもそも海岸を監視していた兵達はどうした!!警告無しに沈めろと命令したはずだが!!」

「……全滅です……一瞬で……跡形も無く……」

「何!?そんなことがあっ……」


その瞬間、戦場は爆発に呑まれた。共和国軍も王国軍も関係無い。ただ、そこには圧倒的なまでの暴力が振るわれた。


「ごごごごごごごめんなさい……でも……。」


ウラニアの爆発は薄い桃色の閃光を放ちながら辺り一面を焼き払った。


「紅梅……こりゃどう足掻いても生き残りは居ねぇだろうなぁ。」


テルプシエラが冷静に呟く。その言葉の通り、先程まで戦場だった風景はスプーンで掬い取ったかのように何もかもが無くなっていた。瓦礫すらも存在しない。ただ地面が赤黒く染まっているだけ。


「旦那、こんな派手なことして良かったんですかい?」

「俺も同意見だな。」


荒くれの男と船長と呼ばれた男が、エウテルベに話しかける。エウテルベは爆発の範囲内にいたのだが、当然無傷であった。


「遅かれ早かれ、我々がこの大陸に上陸することはバレます。ならばここで両軍とも攻撃して混乱を広げる方が得策でしょう。」


そう言ってエウテルベは微笑む。


「はははは早く行きましょう……その、他の皆さんも待っていますし。」

「タレイヤ、メルポルネ、エトラにポニムヒムニアとカリオペラか。最後に会ったのは何時だったかなぁ。」


クレイオが懐かしげに言う。

この後、エウテルベの発言通り、共和国と王国は一時的に停戦状態となり、両国だけでは無く周辺諸国も混乱状態に陥った。だが共和国は負けることも、引き分けることすらも許され無い。半月後、再び両者は激突する事になる。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル13

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル1)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル1)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル1)』時を操る魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。←new

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。

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