石画之臣

【石画之臣︰失敗や危険が少ない計画を立てる臣下。または、壮大な計画を立てる臣下。】


本校舎に辿り着いた俺達は、まずリゼやリザンテの手当を行った。俺は移動途中のレベルアップ分の回復で全快していた。この回復、場合によっては切断された腕や足も生やすことが出来るらしい。普通に恐怖なのだが……


「キュイ……」


リザンテの損傷した鱗を丁寧に治療していく。その最中、リザンテは申し訳なさそうな表情をしていた。


「気にしないでいいぞ、リザンテ。お前はよく頑張ってくれたんだからな。」


リザンテは目を閉じたまま小さく鳴いた。


「ハガヤさん。」


副学長だ。


「あぁ、はい。なんでしょう?」

「これ。差し上げます。」


手渡されたのは小さな結晶だった。透き通るような透明感があり、少しだけ紫がかっている。


「これは?」

「グランベードが消滅した時に、残った結晶です。」

「え?どういうことですか!?」

「怨霊は死亡時に結晶が残ります。今回現れた五体の怨霊のうち、三体はグランベードに捕食されて消滅しました。言ってしまえば怨霊四体分の結晶です。」

「えっと……こういう物ってミネルさんが研究に使うんじゃないんですか?」

「はい。私も母に渡すつもりでしたが、貴方に差し上げます。」

「良いんですか?」

「構いません。僕の鑑定で調べてみた限りハガヤさんを選んだ様です。」

「そ、そうですか。」


グランベードの死に際を思い出す。

『またね。人族の青年。バンシィは強敵だよ。あ、怨霊に興味は無いかな?また僕が復活したら残さず食べてあげ……』

うん。何故か異様に好感度が高そうだなとは思っていたが……


「キュ……シャァ!!」


リザンテに至っては威嚇し出した。


「まぁ、リザンテの気持ちは分かるけど……」

「それでは僕はこれで失礼します。」

「えぇ、本当にありがとうございました。」


副学長はカツカツと足音を立てて去っていった。


「とりあえずリゼの調子を見に行こう。」


リゼの部屋に入るとベッドの上で眠っていた。部屋のドアには治療済みと書かれた札があったが、実際に顔色も良いみたいだ。


「ん……トモヤ……くん?」

「おう、おはよう。」

「怨霊は……どうなったの?」

「何とかなったみたいだ。」

「そっか……良かった……でもごめんね……全然役に立たなくて……」

「そんなこと無いよ。」

「ううん。竜魔法が寒冷地ではあまり使えない事は分かっていたの……それでも何か役に立ちたかった……」

「いや俺とリザンテ、そしてミヅキだけだったら絶対に長時間の戦闘なんて出来なかったよ。だからさ、あんまり気にするなよ。」

「……ありがとう……本当にありがとう……」

「それにあの場が寒冷地になってたのも偶然だしな。」

「キュイ!!」


リザンテも同意するように鳴いた。


「ふふっ……リザンテもありがとう。」


すると部屋の外からドッドッドッと走る音が聞こえてきた。バタン!! 勢いよく扉が開かれる。そこには息を切らせたエレノアさんと暗い表情のミーシャさんがいた。


「二人共大丈夫!?」


エレノアさんは泣きながら俺とリゼを抱きしめる。


「生きててよかった……ごめんね……私の護衛団になんて加わらなければこんなことにはならなかったのに……」

「皮肉な事です。対人の護衛ばかり集めたばかりに対魔物への警戒を怠った結果が何も出なかったという事実のみ……」


ミーシャさんが悔しそうな声を出す。


「でも……だからこそエレノアさんや他の学生達が迅速な避難ができたんですよ。」

とは言ってみるが……場の雰囲気はとても重い。本当に結果だけみるなら、今回死者は出ずに終わった。だが、そんな数字は誰も求めていないのだ。俺もあの時、副学長が間に合わなかったらと考えるだけで背筋が凍りつく。


「うん。うじうじするのは終わり!!私は護衛団全員が傷一つ無く戻って来れるように頑張るから!!」


エレノアさんは涙を拭いて笑顔を見せた。

こうして俺達は改めて決意を固めたのだった。


――――――――――――――――――――――――――

「グヘヘ……嬉しい挨拶じゃねぇか。」

「そんなこと言ってる場合ですか!?」


荒くれの男と船員の目の先には、こちらを狙う大砲の砲口があった。


「……予想はしていましたが、上陸など到底できる状況ではありませんでしたね。」


エウテルベがため息をつく。強化された鉄の砲弾が轟音をたてて撃ち出された。砲弾は軍船に直撃……したはずだった。


「……全く俺が撃ち落とさなければどうするつもりだったんだ?」

「助かりました。隊長。」


紅い槍を構えた騎士が一人。彼の周りだけは時間が止まったかのように静止していた。その槍が振り下ろされると同時に、空を切り裂くような甲高い音と共に砲弾が真っ二つに割れた。


「隊長はよせ。今はただの傭兵だ。」


そう言ってクレイオと呼ばれた男は笑みを浮かべた。


「テメェみたいに非凡な傭兵がこの世界に何人いるんだろうなぁ?」

「なんだ、テルプシエラもいたのか。」


金髪オールバックに白い軍服。地味とは正反対の容姿を持つ男が甲板に立っていた。


「ウラニアもいますよ。」


軍船を狙っていた大砲、沿岸砲と呼ばれる兵器がエウテルベの言葉と共に爆散した。ドォン!!という爆発音の後にパラパラと破片が舞う。数秒後にはその破片が更に大きな爆発をおこし、周囲にいた砲手や兵士を吹き飛ばした。


「ふえぇ……ごごごごごごごめんなさい!!でもお父さんの復活の為に死んでください!!」


宙に浮かんだ黒髪ショートの小柄な少女、ウラニアが両手を前に突き出している姿が軍船から見える。


「相変わらず容赦無い威力だな……連鎖爆発に加えて、爆破範囲拡張まで……過剰爆破の名は伊達じゃないってことか。」


「さて、ウラニアが一掃してくれたことですし、お茶でも飲みながら上陸といきましょう。船長もよろしいですね?」

「あいよ。」


眼帯をした如何にも海賊といった風貌の大柄な男が舵輪を握っていた。


ヨーソローォ全速前進!!」


船長が掛け声を上げる。


「……グヘヘ帰ってきたぞォ!!」


荒くれの男もまた高らかに叫ぶのだが、この後エウテルベから「五月蝿い。」と一蹴されたのであった。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル13

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル1)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル1)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル1)』時を操る魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。←new

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