彼岸の薔薇と壊れた妖精の霊
【楽園帰り、黄泉帰り:グランベードなどの一部魔物が保有するスキル。死亡した生物は楽園もしくは黄泉国に魂が運ばれる。だが、これらのスキルを保有するものは一定時間後、蘇生することができる。蘇生する時間は完全に個体差があり、数秒から数千年にも及ぶ。グランベードの場合は強制的に弱体化させられ、封印までされる。次に復活できるのは七十年先である。】
「……なあミヅキ、これ逃げれると思うか?」
「無理かな……」
「だよなぁ……」
グランベードがいなくなってもバンシィと呼ばれた妖精族の怨霊は脅威だ。それは当然、人族にとってだ。
「ただここ以外の戦線は終戦してるみたいだし、援軍は期待できるかも……」
「……そうだといいんだけどな。」
俺とミヅキは互いに顔を見合わせてため息をついた。度々言うが学園の中庭はアガレス領がすっぽり入る程の大きさなのだ。そんな中庭の東西南北のある地点に怨霊が配置されてる為、その各地点から即座に合流することは絶望的だろう。
「フフフフフフフフフ……そう言えば惨めで愚者達がまだいたんだったわね。」
俺達の事を嘲笑うように怨霊はこちらを見ている。
「キュイ……」
今まで黙っていたリザンテがあらぬ方向を見て鳴く。その視線の先は……
「……え?」
そこには当然何も無い。しかし、リザンテが見ている方角から熱を感じる。
「まさか……」
「え?なに!?」
確かあの怨霊は幻影魔法で作った偽物の身体だと言っていた。なら本物の身体がどこかに存在する筈だ。俺とリザンテだけが気付けた理由……それは熱感知のスキルを持っているからだ!!
「……そこだ!!火球!!」
俺が放った炎の塊は寒冷化したこの場との温度差に大量の水蒸気を発生させながら、何かに命中した。
《熟練度が一定に達しました。スキル『火魔法(レベル3)』が『火魔法(レベル4)』に上昇しました。》
「フフフフフ……まさか私の居場所が見つかるなんて思いもしなかったわ。」
水蒸気消えて、姿を現したのは、血の様な紅い髪と瞳を持つ美しい少女。そして幻影と同じ蝶の羽。幻影が持っていた杖や初めて見る槍などの武器が宙に浮く。
今までの行動や言動を振り返ってみると、そもそも一番の目的はグランベードの討伐だったのかもしれない。そしてそれが終わった今、人族への復讐の為に動き出した。
「さようならさようなら……死した薔薇は三度目の死を迎えた。詐欺師は墓場を愛せ…」
やばい、怨霊が詠唱を始めてしまっている。先程のグランベードとの戦闘を見た感じだと、詠唱を終えれば魔法の威力は確実に上昇する……
怨霊の周りに巨大な氷柱が立ち昇り、それが弾けると無数の水の刃となって襲いかかってきた。しかも本体が現れた事により、威力も範囲も段違いになっている。
「……ッ!!」
ミヅキが結界魔法を張り巡らせ、俺達を守るが、怨霊の攻撃は止むことを知らない。
「……クソッ!!何か無いのかよ!!」
俺は脳をフル回転させて打開策を考える。ここまで追い詰められたのは、初めてタイタンと戦った時、あるいは初めてオークと戦った時以来だろうか。
過去の出来事に思いを馳せると、一つの可能性が浮上する。対抗策は既に出ている、気づいてしまえば簡単な事だ。タイタン戦は毒を弱体化させる花を飲んだ。オーク戦は自分のルーツ、ガリア平原という場所で自分にあったスキルを見つけ、オークロード戦に活かした。
ならば今回の戦い方はどうすればいい?簡単じゃないか。バンシィは言った『封印』と。この場で討伐しなくても、封印してしまえばいい。そうすればこの場の脅威は消える。だが封印の方法は分からない……
「ミヅキ、結界魔法は障壁を作り出すことしかできないのか?」
「え?いや、障壁を作り出すのはレベル1で使える初歩的な技だけど……」
「それで相手を封印するみたいな事はできるか?」
「……私は高度なことは出来ないけど。この学園には私より結界魔法が得意な人がいるよ。」
確か四体の怨霊を東西南北に配置したのは副学長だったはず……正直状況は変わっていない。だが俺達が生き残るには結局、増援が来るまで耐えきるしかない。
「答えは出た。なら……」
「トモヤ君、今から私の結界魔法で君を包み込む。その状態で怨霊に向かって攻撃してみて。」
「でも……そしたらミヅキは……」
「大丈夫だよ。私、三人の中で一番強いもん!!リゼちゃんの結界に集中するからそっちは任せたよ!!」
ミヅキが胸を張って自慢げに話す。
「キュイ!!」
リザンテも怯えた様子から一転して、やる気満々といった表情をしている。
「分かった……頼む。」
ミヅキは俺の返事を聞くと同時に、俺を中心に魔法陣を展開していく。そして俺がバンシィに向けて走り出す。
「……炎風ッ!!」
火魔法レベル4の炎の旋風を放つと、急激な温度上昇から発生した水蒸気により視界が悪化する。それだけではなく、場所によっては水蒸気爆発が起こり、ハインライン杉の大木が倒れてくる。息を吐けば白くなる寒さだったが、現在、周囲は炎上している。これで寒さによる悪影響は無くなっただろう。
「……」
バンシィは何も言わずにこちらに手をかざす。すると火によって生まれた影が鋭利な刃物のように変形していく。そしてそのまま俺に襲ってくる。
「……くッ!!」
幻影魔法はこんな使い方もできたのかと驚きつつも、冷静に対応する。
「火盾ッ!!」
影の刃が火盾にぶつかると音もなく消えていった。影である以上、直接光に当たれば消滅させられるのではと考えたが、正解だったようだ。
だが、時間稼ぎは始まったばかりだ。幸いバンシィは俺しか見ていない。二人を狙う気配もない。だからといって油断はできない。いつどんな状況で何をされるかなんてわからない。常に最善の行動を取り続ける必要がある。
「火球!風刃!水球!」
俺が出せる魔法を次々と放つ。しかし氷の刃と硬化させた影の壁に阻まれてしまう。
「……」
バンシィは何かを呟く。そして地面から無数の氷柱が飛び出してきた。俺は咄嵯にジャンプをして回避するが、足下には鋭い氷柱が無数に迫っていた。
「……クソッ!!」
待ってましたと言わんばかりにバンシィはニヤリと笑う。今まで使用していなかった宙に浮いた片手剣や槍などの武器が一斉に飛んでくる。
「キュイ!!」
リザンテが叫ぶと共に紫色の液体を口から吐き出した。タイタンの猛毒だ。バンシィは一瞬だけ怯むが、直ぐに態勢を立て直し、迫り来る毒を氷の壁で防いだ。同時に俺に飛んで来た武器達は勢いを失い地面に落ちた。
「(怯えた?いや、あの反応は何か思い出したのか?)」
怨霊は一度死んでいる。ならば最初の死因となったモノに対して恐怖を抱く可能性はある。今まで武器や炎などには一切反応しなかった。
バンシィの最初の死因は毒殺!!
《熟練度が一定に達しました。スキル『仮説組立(レベル4)』が『仮説組立(レベル5)』に上昇しました。》
リザンテが吐き出した猛毒により少し考える余裕ができた。だがバンシィの顔は酷く歪み始めている。
「よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも……思い出した……フフフフフフフフフフフフフフフ……冷やす冷やす冷やす……凍らせてあげる。」
……完全に口調に一貫性が無くなったな。数秒毎に何かに喜び、何かに怒って、何かに哀しんで、何かを楽しんでる。感情がルーレットの様に回っている。
その姿はまるで……
――――――――――――――――――――――――――
現在のステータス
生命力:B
魔 力:C
体 力:C
攻撃力:B
防御力:C
魔力攻:D
魔力防:D
走 力:B
現在使用可能なスキル
●身体、精神、霊魂に影響するスキル
『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。
『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。
『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。
『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。
『解読』文や言語を理解するスキル。
『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。
『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。
『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。
『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある
●技術
『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。
『加工技術』加工の技術を高めるスキル。
『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。
『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。
●耐性
『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。
『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。
『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。
『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。
『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。
●魔法
『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。
『水魔法(レベル1)』水を操る魔法。
『風魔法(レベル1)』風を操る魔法。
『時魔法(レベル1)』時を操る魔法。
『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。
●加護
『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。
『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。
『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。
現在の持ち物
銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。
冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。
毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。
黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます