薔薇は何度でも咲き誇る

巨人族ジャイアント:とある島に住んでいた人族に酷似する巨大な種族。基本的に仲間想いだが、同時に欲深い。それ故に彼らは島が沈んでいる最中でも財宝を抱えたまま逃げ出そうとはしなかった。そもそも島が沈む原因は財宝の分け前を巡って同族同士で争い続け、島の限界が来たというのは愚かな話である。】


「それで悪い報告もあるんだけど……聞く?」


ミヅキは苦い顔をしながら言う。しかも妖精族の怨霊の攻撃を捌きながら話すものだから器用なものだと思う。


「……勿論。」

「四体の怨霊は元々学園を徘徊する怨霊だったんだけど、もう一体別の個体がいるみたいなの。グランベードっていう植物系魔物の怨霊、しかも他四体とは別格の強さを持ってるみたいだね。あと他の怨霊を捕食する生態もあるみたい。」

「……そうか。」

「既に他の三体はもう捕食されたみたいだから……時期にここに来るね。」


ミヅキは言い終えると舌打ちをして、攻撃に力を入れる。

それに対して目の前の怨霊は特に動揺することも無く……


「アークパラ……ブレイア……ノースリア……逝ったのね。フフフフフフフフフフフフフ……特に思い入れも無い連中だったけど、少し寂しいわね……」

「お前……なんでそんなに落ち着いてられるんだ?お前のことを捕食しようとしている奴が来るんだぞ?」

「フフフフフフフフフフフフフフフフフフ……それが何?私は消えないし消滅しないし滅されない。悪意が言うの、私を消せるのは私だけ。憎悪が言うの、私を殺せるのは私だけだって。」


やはりまともな会話など成立はしなかった。

俺は寒さで限界のリゼを庇いながら、氷の刃を槍で弾く。


《熟練度が一定に達しました。スキル『寒冷耐性(レベル4)』が『寒冷耐性(レベル5)』に上昇しました。》


寒冷化されればされるほど、体力消費は激しくなる。それに対して怨霊の動きは更に機敏になっていた。恐らく気温が下がると身体機能や魔法の威力を底上げするスキルがあるのだろう。


《熟練度が一定に達しました。スキル『仮説組立(レベル3)』が『仮説組立(レベル4)』に上昇しました。》

《熟練度が一定に達しました。スキル『寒冷耐性(レベル5)』が『寒冷耐性(レベル6)』に上昇しました。》


「寒冷地で強くなるのはそっちの専売特許じゃねぇんだよ!!」


多重加速も発動させ、一気に距離を詰める。旋律の効果からか、通り抜ける音がいつもより鮮明に響き渡る。


「ハァッ!!」

「劇作者は語る……王の在り方を……演者はその惨い物語を血の涙を流しながら演じ続ける。私は死した妖精、対するは死した薔薇と生きる愚者。」

俺が放った槍の一撃は怨霊の前に現れた氷の城門に防がれてしまった。

「チィッ!!」

「トモヤ君……お出ましみたいだよ……」


俺達が後ろを振り向くとそこには……


「こんばんは。いい夜だね。」


グランベードと呼ばれる魔物の姿があった。その見た目は樹木が絡まり人型になったような姿で、頭には蟹の鋏の様な角が生えていた。背中には亀の甲羅の様に薔薇が咲いており、何よりグランベードの身体は非常に巨体だった。


「と言っても今日は雨。それにここは寒くて仕方がないね。」


どう足掻いても生物の形を保てない異形な姿でありながら、なんて流暢に喋るのか。


「そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前はグランベード。魔物としての名は乾き逝き続ける深緑樹。」


グランベードは俺達に向かって手を伸ばす。当然俺とミヅキは警戒する。


「大丈夫。まだ手は出さないよ。まずは最後のご馳走を堪能させて貰おうかな。」


グランベードの手からは大量の植物の蔦と茨が伸びてくる。それらが目指す場所は妖精族の怨霊である。


「なるほど、これは面白い。」


グランベードの態度や発言を信じるなら城門を壊せていたようだ。だがグランベードの攻撃は全て氷の城門に阻まれた。


「久しぶりね。死した薔薇、あるいは詐欺師とでも呼ぶべきかしら?」


は?今まで一切会話が成り立っていなかったのに……怨霊はスラスラと喋り始めた。


「詐欺師だなんて酷いなぁ。僕は君達の名前を思い出させてあげた。その対価に僕が復活した時は大人しくその身体を寄越すって約束したじゃないか。」

「そんな契約を馬鹿正直に信じてるのはノースリアくらいよ。」


向かい合いお互いに強い威圧感を放つ二体の怨霊。そして、その間に挟まれている俺達は……


「……寒いね。とりあえずリゼちゃんは私の結界魔法で囲ってるけど……いつまで持つか……」

「……そうだな。というか今聞くことじゃないだろうけど魔物には名前無いのか?」

「絶対今聞くことじゃないね!!」


どう考えてもそんな事聞いてる場合ではないだろうが、この緊迫感に耐えられなかったのだ。


「それはだねぇ人族の青年。大抵の魔物には名前というものは記憶から消えてしまってるんだ。そもそも魔物にとって名前は必要が無いものなんだ。脳と声帯が発達していない魔物が大多数だからね。」


グランベードは早口で喋りながら、着実に氷の城門を破壊しようと攻撃を続ける。


「確か人族のある程度脅威がある魔物には二つ名という名前を付けられる事があるらしいけど、それと忘れてしまった真実の名というのは天と地の差さ。真実の名というものは霊魂に深く刻まれるもので、それを思い出すということは……そう、異能カリスマにも繋がるものだからね。まあつまり、。」


グランベードが話を終えると、パリンと音を立てて、氷の城門は完全に破壊されてしまった。だが怨霊は一切焦った様子を見せない。


「フフフフフフフフフフ……城門が完成した時点で私以外の敗死は決まっていた。」


次の瞬間、グランベードの足元が凍らされ始める。


「……驚いた。本当に強くなったんだねバンシィ。僕の弱点が聖剣による攻撃ではなく寒冷属性だと見抜いたのかい。うん。それに、黒い靄に包まれているのかと思えば、。」

「私は詐欺師に騙されない。大人しく餌になんてならないの。」


グランベードという魔物の身体や気配が薄れていく。


「ふむ。また封印か……まあ三体の怨霊を食べれたんだ。この結果はいい塩梅だね。」


この場で明らかに一番の実力を秘めているのはグランベードだったのは間違いない……だが怨霊に対策を練られ、弱点で完封されてしまった。


「またね。人族の青年。バンシィは強敵だよ。あ、怨霊に興味は無いかな?また僕が復活したら残さず食べてあげ……」


グランベードは最後まで喋る前にハウンドの氷像に喰われていった。怨霊を捕食する怪物の最期がこれとは……何とも皮肉な話なもんだ。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル4)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル3)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル1)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル1)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル1)』時を操る魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

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