2. それは、始まりの鐘
かくして、『DAG』発売日当日。
この日を迎えるまでに紆余曲折があった。
例えば
他にも "先手必勝!
今の私は無敵だ!
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「きっきっっ、来たあぁぁーーー!」
「この時を……私が何年待ったと思ってんのよ……ばかっ」
まあ、一週間なんですけどね。
涙を拭いながら、背丈より少し小さいくらいの、それでも巨大なパッケージに目をやる。
人間の体を包み込めるだけの椅子が入っているのだ。妥当な大きさだが、それでも真っ白な箱を撫で回すと口元が緩んでしまう。
「おおぅ……雄大じゃないの……」
いけないいけない、とっとと開封しなければ。
頼んだのも届くのも私が一番早いはずなのに、先に彼女(あいつ)らにログイン自慢されたら目も当てられない。
白い外箱の中には黒色の皮……合成革かな、で出来た椅子が一セット、プラスで電源コード、各所の調整用のサイズ違いクッションが入っていた。案外部品が少ないのね。装置が椅子と一体化してるから?
このケーブルを頭部装置のどこかに差し込めばいいはずなんだけど、どこだ……。
そうだ説明書。ポンと手を打つ。
箱を裏返してみると、ボタンのような形状のものが転がり落ちてきた。
「これ、小さいけどもしや
ボタンを押すと、果たして駆動音がした。間をおかずに、ボタン上部の空間に説明書が投影される。
こんなに小さいのにめっちゃ分厚いじゃん。挿すとこだけ見よっと、他はいつか……ね。
「よしっ、起動っと」
その瞬間、黒椅子の側面に青いラインが走る。
正直こういうのは実用性ないって分かってても惹かれちゃうよね!
『
はぇー、
ヴーーーーッ、ヴヴーーーーーッ!!
気を抜いたところに携帯の振動音が鳴り響く。
「うわびっくりしたしかも咲読じゃん、心読まれたかな……。えと、なに?」
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「心読まれたって何です? もしかして、私の悪口でも言ってたりしましたか? そうですね……ダジャレセンス悪いとか」
『あーー!!すみませんすみません』
「いいですもん別に。いつものことだし」
その様子を見た
「で、本題。私たちも準備出来ましたよ、DAG」
『早い! 頼んだの私の方が1日早かったんだけど!』
「ちなみにオプションでカラー変更できました。私のは髪色と同じ白、透空のは赤です」
目の前の装置二台を見やる。なかなか壮観だ。
電源も既に入れてあるが、白には水色、赤には黄色のラインが走っている。オリジナルの黒もよかったが、カラーバリエーションごとに細かくデザインされているとは恐れ入る。
『知らない知らない! 後の方が素敵仕様とかそんなのなし!』
「どうせはしゃいでて
『うう……無念……』
いえ、黒も相当素敵ですよ? と思ったが言ってはやらない。あーとかうーとか悔しがってる礼を見るのは結構楽しいからだ。
間を置かず、
『咲読さん? 丁寧にご教示頂きありがとう。あたしも準備できたわ』
「そう、それはよかったです。
ゴフッとかなんとか通話越しに聞こえた気がする。
命に別状はない? それならよし。
それよりこれでみんな準備できた事になるわけだ。透空は……まだ読んでる。
「
「なに言ってんだかにゃ。はいはい、準備しますよーだ」
『庇をかけて、なんと言えば良いのかしら』
『レッツ・ダグイン とかじゃなかった? CMでも言ってたし』
そうだったろうか。ちょっと長ったらしい気もするけど、まあでも大方そんなとこだろう。
白の椅子に深く腰掛け、シェードを下ろす。
シェード内部は下ろした時に内側がライト発光するようになっていて、さながら戦闘機のコックピット、あるいは無人駅の灯光(ライト)のよう。外界から隔絶された感がある。
「はい、じゃあ行けそうですかね。行きますよ!」
「『『
刹那、重厚な鐘の音が鳴り響く。
音は小さくはないが、不快になるほどではない。
その音を聞きながら、皆の意識はDAGの中に向かうのであった――。
「ちょ、ちょっと! 説明書読んだ!? 『DAG内に入る際は、シェードを下ろし "イン" と発音してください』ってあるってば! あーーもう!」
透空の響きは虚空に消えていく。
なんだかんだ律儀な彼女は、繋がり続けていた咲読の通話をきちんとオフにしてから、赤の装置に身を委ねるのだった。
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