第402話 航空爆撃部隊

 アマト国の造船所では、ホタカ型戦艦の建造が最終段階を迎えていた。これが完成すれば、ホタカ型戦艦が六隻になる。ユナーツの戦艦は、沈んだ分と新造した分を計算すると合計八隻になるので、その差は二隻だ。


 数の上ではアマト国が不利だが、戦艦の性能はアマト国が上なので互角だと俺は考えていた。但し、これに巡洋艦の数を入れるとアマト国が断然不利となる。


 ユナーツ海軍は、現時点で合計二十五隻の巡洋艦を保有している。それに比べてアマト国海軍は九隻である。


「上様、ユナーツはウォルター島に居る捕虜の奪還作戦を計画しているようでございます」

 新しく設けた会議室でホシカゲが報告した。それを聞いた俺は、地図を持ってくるように小姓に命じる。


 眼の前のテーブルに地図が広げられ、ウォルター島に注目が集まる。この軍議には評議衆と海軍のソウリン、航空機戦術研究班のドウセツが参加していた。


 奪還作戦の件を聞いたトウゴウが目尻を釣り上げる。

「ユナーツには、和睦する気がないという事でございますな」

 俺は頷いた。

「和睦する気があるのなら、ちょっとした条件で捕虜どもを返してやったのに」


 その言葉で皆の注目が俺に集まった。

「上様、その条件とは何でございますか?」

 勘定奉行のフナバシが問う。

「五年の相互不可侵条約だ」

「たったの五年でございますか?」


「ユナーツが我慢できるのが、五年だと考えたのだ」

 世界一の大国だと誇っているユナーツには、自分たちより進んだ国があるのが許せないと考えている国民が多い。


「五年もあれば、空軍を組織できたかもしれません」

 ドウセツが悔しそうに言った。俺はドウセツに目を向けた。

「爆撃機は、どうなった?」

「水上爆撃機を、陸上爆撃機に変更したモクレン型陸上爆撃機の試作機が完成し、試験飛行を終えております」


「なるほど、爆撃機として問題なかったのだな?」

「はい、大きな問題はありませんでした」

「ならば、試作機の量産を始めよ」


「量産型の開発はしないのでございますか?」

「無用だ。本格的な爆撃機は、新しいエンジンを積んだものにする。今回は試作機と同じものを九十機ほど製造するのだ」


「畏まりました。ですが、九十機というのは、多いのではありませんか?」

「ウォルター島に五十機ほど配備したい。万一ウォルター島を守る海戦で、敗れた時に空爆部隊に敵軍艦を攻撃させる」


 モクレン型陸上爆撃機の量産が始まると同時に、操縦士と爆撃手の訓練が始まった。二百五十名の訓練生が爆撃機乗りとしての訓練を受け、戦う準備を始める。


 その訓練は本当に厳しいものだったらしい。二百五十名の訓練生が最終的には、二百十名ほどまで減ったという。


 ちなみに、操縦士と爆撃手だけでは爆撃機を飛ばせない。その機体を整備する整備士も大勢必要になる。それらも養成したので、大きな戦闘集団となった。


 航空機戦術研究班は、航空機戦闘部隊と名称を変えた。これは空軍を誕生させる時の核となる部隊だ。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 モクレン型陸上爆撃機が五十機完成した段階で、航空爆撃部隊はウォルター島へ送られた。操縦士や爆撃手、整備士もウォルター島へ移動し、訓練を続ける事になる。


 ウォルター島は、以前存在したハワイ島の半分くらいの大きさである。島の中央には大きな湖があり、その畔に滑走路が建設されていた。


 この島には湊付近にもう一つ滑走路があり、これは表向き大型駐車場という事になっている。湖の近くの滑走路は基地滑走路と呼ばれている。滑走路の近くに航空基地が建設されているからだ。


 ドウセツは航空基地の司令官として赴任していた。

「司令官、敵は本当に来るのでしょうか?」

 参謀のガモウ・カネノリが尋ねた。


「影舞が調べ上げた情報だ。間違いないだろう。だから、我々だけでなくアマト国海軍の主力であるホクト艦隊も、来ているのだ」


 湊の近くに建設された海軍基地には、ホクト艦隊が停泊していた。ホタカ型戦艦三隻、タジマ型巡洋艦四隻、駆逐艦十二隻の大艦隊である。


「しかし、まだ訓練を始めたばかりの爆撃手が、敵艦に爆弾を命中させられるか心配です」

 その言葉を聞いて、ドウセツは顔をしかめる。訓練が足りないとドウセツ自身も考えていたのだ。


 ウォルター島に配属された爆撃機乗りたちに、爆撃訓練をするように命じた。内陸部の湖の上で訓練させたので、ユナーツには気付かれていないはずだ。


 訓練の御蔭で操縦士と爆撃手の技量が上がった。そして、ドウセツも満足できる技量に達した頃、ユナーツが動き出した。


 捕虜奪還艦隊を編成し、訓練を始めたのである。しかも、その艦隊の艦艇には無線通信機が設置されているという。使っている信号は、モールス信号のようなものらしい。


 影舞を中心とした情報局が、その信号の分析を始めたようだ。それに加えてアマト国海軍の信号は最新の暗号を使ったものに変えると決まった。


 アマト国とユナーツの両国が戦いの準備を始め、それに気付いた国民も不安を感じ始めた。ホクトでは戦いが近いのではないかという新聞記事が出て、大騒ぎとなる。


 そして、ユナーツの捕虜奪還艦隊が出陣した。目的はウォルター島を攻撃し、そこに捕まっているユナーツ人の捕虜を奪還する事にある。


 その事実はすぐにアマト国に知られた。ユナーツの無線を傍受し、その内容を解読する事に成功していたのである。


 それを迎え撃つホクト艦隊は、ウォルター島で待ち構える。爆撃機の部隊もあるので、ウォルター島沖で戦う事にしたのだ。


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