第403話 ウォルター島沖海戦

 捕虜奪還艦隊はテキサス級戦艦が五隻、チャールストン級巡洋艦が八隻、シャハール級コルベットが十八隻というホクト艦隊を超える大艦隊だった。


 その大艦隊は問題なくウォルター島の近くまで航海し、待ち構えるホクト艦隊と海戦する事になった。


「評議衆の一人であるソウマ提督が、前線に出て来る必要はなかったのでは?」

 ソウマ提督の旗艦である戦艦アカバネの艦長として参加しているソウリンが声を掛けた。

「いや、今回の海戦こそが、アマト国の命運を賭ける一戦になると考えている。ここは是が非でも勝たねばならんのだ」


 それを聞いたソウリンは頷いた。

「ならば、作戦通り戦艦の砲撃から始めましょう」

 ホタカ型戦艦の光学照準装置は新型になっていた。それは命中率が上がるという事を意味しており、有効射程は十一キロである。


 四十五度の角度で発射した時の最大射程はもっと長いのだが、照準装置などの関係で命中を期待するのなら、十一キロまでという事になっている。


 敵艦隊との距離が十一キロを切った時点で、砲撃が始まった。敵艦隊も砲撃を開始したが、全く照準が合っていなかった。敵戦艦の有効射程はもっと短いのかもしれない。


 主砲の三十五センチ連装砲三基が一斉に火を吹くと、艦に衝撃が走った。ソウマ提督は厳しい顔をして敵艦隊を見詰める。


「全弾外れました」

 その報告を聞いたソウリンが頷いた。一撃目から命中するとは思っていなかった。砲撃手たちは各諸元を修正し、次弾の発射の準備を行う。


 そうした中で、駆逐艦たちが敵巡洋艦を狙って前に出る。それに気付いた敵のコルベットが駆逐艦の進路を塞ぐような形で前に出てきた。


 これがユナーツの魚雷対策らしい。コルベットが邪魔をしてベストなタイミングで魚雷を投下できなかった。それでも二隻の巡洋艦に魚雷が命中して中破のダメージを負わせる。


 その代わりにコルベットと駆逐艦が衝突して一隻の駆逐艦が戦力外となった。一方、砲撃戦はやっとホタカ型戦艦が放った砲弾が命中し、テキサス級戦艦の中の一隻が爆発炎上し船速が止まった。


 指揮官たちの努力にも関わらず、海戦は乱戦状態となった。その混沌とした戦況の中で一隻の戦艦と二隻の巡洋艦が乱戦から抜け出し、ウォルター島へ向かう。


 それに気付いたソウマ提督は、航空爆撃部隊に連絡した。このままではウォルター島が攻撃される。ソウマ提督はドウセツに連絡し、航空爆撃部隊の出撃を要請した。


 その要請を受けた航空爆撃部隊は、出撃準備を始める。

「もたもたするな! 離陸した機は、島の西側上空で旋回して待て」

 ドウセツが指示を出しながら自身も出撃準備を行う。モクレン型陸上爆撃機に乗り込んだドウセツは、操縦士に命じて離陸する。


 空へ舞い上がった爆撃機の中で、離陸した爆撃機の数を数える。

「まだ半分ほどか。訓練の時より時間が掛る」

 訓練時には爆弾を積まない状態で行うので、仕方のない事かもしれない。ドウセツは全機が離陸するのを待ってから、敵艦に向かうように命じた。


 編隊を組んで飛行した爆撃機部隊は、すぐに敵艦を発見した。戦艦一隻と巡洋艦二隻が湊に近付こうとしている。ドウセツは攻撃命令を出した。


 先頭を飛ぶ爆撃機が戦艦の後ろに回り込んで爆撃体勢に入る。そして、爆撃照準器で狙いを定めて百二十キロ爆弾を投下した。


 爆弾は戦艦の傍に落下して大きな水飛沫を上げる。その後は次々に爆撃機が爆弾を投下した。そして、四機目の爆撃機が敵戦艦を狙って爆弾を投下。


 その様子をドウセツは見ていた。上空から投下された爆弾が加速しながら戦艦へ向かって落ちて行き、機関室の上辺りに命中した。


 戦艦の装甲を突き破り、艦内に入ると爆発。炎を吹き上げてから黒い煙が上がり始める。敵艦は爆撃機の攻撃に対し、どうしたらいいのか分からないようだ。ただ逃げ回り、上空の爆撃機を睨みながら神に祈っていた。


 だが、その祈りは通じなかったらしい。命中弾が切っ掛けになって、次々に爆撃機から投下した爆弾が敵艦に命中し始める。その結果、巡洋艦二隻は沈み、戦艦は停止して煙を上げる。


 その時点で爆弾を投下したのは三十機ほどだった。ドウセツは残りの爆撃機をホクト艦隊と戦っている敵艦に向けた。そして、投下済みの爆撃機は基地に返し、もう一度爆弾を積んで戻ってくるように命じる。


 二十機ほどの爆撃機が新たな敵艦を探して飛び、ホクト艦隊と交戦している敵艦に爆弾を落とし始めた。その結果、敵戦艦一隻中破、敵巡洋艦二隻が大破となる。


 ユナーツの捕虜奪還艦隊は、戦力の半分以上を失ったので撤退を決断した。逃げる敵艦隊に爆弾を積んで引き返してきた爆撃機が攻撃を仕掛けた。


 その攻撃で沈めた敵艦は、巡洋艦一隻だけだった。だが、戦艦にも命中弾があり、中破のダメージを与えた。海戦はアマト国海軍の大勝利に終わった。


 海戦が終了したと判断したソウマ提督は、ホッとした表情を浮かべてからホクトへ報告した。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ウォルター島沖の海戦で勝利したという報告を受けた。その数日後、ホクト城の会議室に評議衆を集めた俺は、次の一手を考えながら地図を見る。


「ユナーツに何か動きがあったか?」

 ホシカゲに確認した。

「いえ、ユナーツ政府は混乱しているようで、具体的な対策は決まっていないようでございます」


「上様、ここは一気に戦力を投入し、ユナーツ本土を叩くべきだと思います」

 トウゴウが声を上げた。すると、評議衆の中から賛同する声が上がる。

「だが、ユナーツ本土を攻めるには、戦力が足りぬ。分かっているはず」


「恐れながら、上様が以前に話をされていた爆撃機による攻撃は、如何でしょう?」

「それにはユナーツ本土、もしくは近くの島に航空基地が必要だ」


「でしたら、チェサピーク湾の東側にあるデルマーバ半島の一部を占領し、基地化するのがよろしいと思います」


 俺は頷きながら試すように反論した。

「だが、ユナーツはすぐに大艦隊を編成し、取り返しに来るだろう」

「承知しております。一度か二度ほど東海岸にある大都市に攻撃を加える事ができれば、よろしいのです」


 それを聞いて、俺はユナーツ本土を攻撃する決意を固めた。


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