第401話 無線通信機
初めてアマト国海軍の戦力が多い状況で海戦が始まろうとしていた。湊から出て来たミッドウェー駐留艦隊に、ミッドウェー島奪還艦隊が襲い掛かる。
戦艦サリナスの艦橋で指揮を執るマクドネル提督は、アマト国海軍の二隻の戦艦を見て顔を青褪めさせた。
その視線の先には、テキサス級戦艦であるサリナスよりも大型のホタカ型戦艦があった。
「あ、あれはアマト国海軍の新型戦艦なのか?」
戦艦サリナスの艦長であるランバートは、強張った顔で頷いた。
まずホタカ型戦艦二隻の砲撃から海戦が始まった。戦艦サリナスも撃ち返したのだが、命中率と威力はホタカ型戦艦が上回っており、戦艦サリナスは集中砲火を浴びてミッドウェー島の沖で沈んだ。
その後、ミッドウェー駐留艦隊は数を減らしてユナーツに逃げ帰る事になった。
問題なのは、ミッドウェー島に残された陸兵たちである。ミッドウェー島奪還艦隊は島を取り囲み、何も反撃できない陸兵を砲撃した。そして、生き残ったユナーツ陸軍の兵たちは、降伏した。その数は七千人ほどになる。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ユナーツの首都アトランタで、ギネス大統領はドノヴァン国防長官から報告を受けた。
「国防長官、なぜミッドウェー駐留艦隊の規模を、そのままにしておいたのかね?」
「軍は、ミッドウェー島を重要視していなかったからです」
「ならば、戦艦を配置せずに、小型艦だけで良かったのではないか? それに地上部隊も配置するべきではなかった」
「近くにあるウォルター諸島に、アマト国海軍の艦隊が駐留しているので小型艦だけでは不安だと、マクドネル提督が言い出したのです」
マクドネル提督の主張も理解できるが、だからと言って戦艦をバラバラに配置するやり方は、納得できるものではなかった。
「しかし、結果は戦艦を始めとする多くの軍艦が沈み、それに乗っていた将兵が死んだ」
「申し訳ありません」
大統領は溜息を吐いた。
「もういい、それでミッドウェー島で発見したアマト国の装置を、我が国で製造できそうなのか?」
「ばらばらに壊されており、調査するのに時間が掛かりましたが、あの無線通信機を製造する事は可能だそうです」
「しかし、未だに理解できない。なぜ通信ケーブルがないのに、信号を送れるのだ?」
大統領が理解できないという顔をする。
「それは電波を使います」
ドノヴァン国防長官は、電波について説明した。
「……空間を伝わる電気エネルギーの波? よく分からんが、それが使えるなら画期的だ」
「はい、我々の軍艦や基地に、無線通信機を設置すれば、効率的な軍の運用ができます」
それを聞いた大統領が鋭い目になった。
「軍だけではない。それを商業に応用すれば、世界が変わる」
「その無線通信機を開発し、実用化しているアマト国に戦争を仕掛けたのは、間違いだったのでは?」
ギネス大統領が国防長官を睨む。
「君が、それを言うのかね。今、戦いを仕掛けなければ、勝つチャンスを逃してしまう、と言ったのは軍なのだぞ」
「造船所が止まってしまった時は、そう考えたのです。現に造船所は以前のような生産能力を発揮できずにいます。勝つチャンスは今しかないのです」
国防長官個人は戦争に疑問を持っているが、軍の総意は今しかチャンスがないという事なのだ。
「優秀な技師を育てるのには、時間が掛かるのだ」
ドノヴァン国防長官は静かに頷いた。
「大統領、もし我が国が最初に無線通信機を開発していたら、どうしますか?」
「それは頭の体操かね?」
「まあ、そうです」
「そうだね。まず、世界の各地に中継基地を建設し、世界中から公表されている情報を集めるだろう」
「アマト国は、それを実行しているでしょう。次に何をしますか?」
「嫌な質問だね。次に敵対国に諜報員を送り込み、政府の動きを探り出して報告させる」
国防長官が頷いた。
「我々の国は、監視されているでしょう」
「私も戦争をやめて、和睦したくなったよ」
「ですが、和睦は国民が納得しません。敗北したままで、戦争を終わらせたくないのです」
「少数だが、戦争を終わらせて、捕虜になった将兵の返還を交渉しろという国民も居る」
ドノヴァン国防長官が不機嫌そうな顔になる。
「軍では、ウォルター島に移された捕虜たちの奪還作戦を考えています。その作戦が成功したら、戦争に反対している国民も気が変わるでしょう」
「君は戦争を続けたいのかね?」
「軍は敗北したまま戦争が終わる事を、望んではいません」
列強諸国との戦いで勝利した軍は、敗北を受け入れる事ができないようだ。相手が極東の島国だというのも、納得できない事の一つだろう。
アマト国は最近になって文明国の仲間入りをしたばかりの国だ。そんな国に敗北したというのは、ユナーツ人のプライドが許さない。
「それは犠牲者を増やす事になるのだぞ」
「それでも軍は戦いを望むでしょう。我が国に敗北はありません」
大統領は渋い顔をしながらも頷いた。
だが、この時のギネス大統領とドノヴァン国防長官は、戦争が本国から遠い場所で起きるものだと考えていた。本国が戦場になると考えていたら、戦争をやめる事も選択肢に入れたはずである。
ユナーツ軍はウォルター島に居る捕虜の奪還作戦に向けて動き始め、多くの精鋭部隊を集め始めた。一方、ウォルター島では軍用滑走路の建設が始まっており、ユナーツ軍は滑走路には気付かなかった。
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