第396話 両国の状況

 俺とソウマ提督の話を聞いていた評議衆の中で、トウゴウが俺に鋭い目を向けた。

「戦略と申しますと?」

「ユナーツとの戦争を考えると、海洋勢力と海洋勢力の戦いになっている。その力の源は強大な艦隊とそれを生み出す造船所などの施設にある」


「我々が勝利するためには、その二つを潰せという事でしょうか?」

「そうなる。そして、それを可能とする軍事力を構築しなければならん」


「上様は、どういう軍事力を構築しようと考えられたのですか?」

 それを問われると、俺も困った。いろいろと研究させていたのだが、一つに絞る事ができなかったのだ。


 ドウセツなどが研究している航空戦力、魚雷などに代表される小型戦闘艦による集団攻撃、新しいホタカ型戦艦に代表される大艦巨砲による攻撃。


 いずれにもメリットとデメリットがあり、資源を集中できない間にユナーツが戦艦と巡洋艦の大規模建造を目指して強大な艦隊戦力を築いてしまった。


 ユナーツではテキサス級戦艦九隻、チャールストン級巡洋艦二十六隻が建造された。但し、その直後から造船所の技師や職人が過労死するなどの問題が起こり、造船所の建造作業が止まっている。


 それに比べてアマト国海軍では、ホタカ型戦艦四隻、タジマ型巡洋艦十二隻が建造予定になっていた。絶対的な数が少ないアマト国海軍だったが、新型の魚雷発射管を装備したカワチ型駆逐艦は、七十二隻が建造される予定になっており、現在五十二隻が完成している。


「上様、ユナーツと本格的な戦になるのですか?」

 勘定奉行のフナバシが尋ねた。俺は顔をしかめて頷いた。

「今回の戦いで、敵味方とも大勢の兵が死んだ。ユナーツも戦を望んでいるようだ。我々だけが停戦を望んだら、一方的に譲歩する事になる」


 ここでユナーツに譲歩する事はできなかった。そんな事をしたら際限なく付け込まれるだろう。


「この先の戦いは、どういう形になるのでございましょうか?」

 クガヌマが首を傾げながら尋ねた。

「そうだな。島の取り合いになると考えている。ユナーツが狙いそうなのは、ウォルター諸島か、ミッドウェー諸島だろう」


「我が国とユナーツの中間にあるウォルター諸島は分かりますが、ミッドウェー諸島は基地として使うには小さすぎませんか?」


「確かに小さいが、湊を造れるだけの広さはある。それにアマト国海軍の戦力がほとんど存在しない」


 ミッドウェー島は小さな島なので、アマト国としては開発する気がなかったのだ。ただ領土として組み入れて、十数人のアマト人が暮らしている。


「それでは急いで、ミッドウェー島に海軍基地を建設せねばなりませんな」

 ソウマ提督が言う。

「そういう事だ。だが、間に合わないかもしれん」


「敵が先手を打つという事ですか?」

「ユナーツの連中が、戦艦と巡洋艦に乗って押し寄せてくれば、間違いなく奪われるだろう。その時は、ミッドウェー島の者たちに無駄に抵抗せず、ミッドウェー島を放棄して逃げるように命じてくれ」


 俺の予測は当たった。ユナーツの艦隊がミッドウェー島に押し寄せ占領した。アマト国海軍は間に合わなかったのだ。


 その報告を受けた俺は、評議衆を大広間に集め軍議を始めた。

「上様、ミッドウェー島が敵に奪われた事により、ウォルター諸島の危険度が増しました。増援部隊を送るべきだと思います」


 ソウマ提督の言葉に頷いた。ハワイ諸島が沈み、そこから南西に二百キロほど離れた場所に隆起した島がウォルター諸島である。ミッドウェー島から近く、何か切っ掛けがあれば海戦が始まるだろう。


 そのウォルター諸島の防備だが、ウォルター島にある海軍基地に戦艦一隻、巡洋艦三隻、駆逐艦十二隻が配備されており、ウォルター諸島を守っていた。


「どれほど増強すればいいと思う?」

「今の倍は必要かと思います」

 それを聞いた俺は、渋い顔になる。ウォルター諸島とミケニ島の中間に、クワチル島という小さな島があった。この島にも海軍基地を置き、艦隊を配備しなければならないと考えていたからだ。


「この分では、駆逐艦と巡洋艦が足りなくなる。建造計画を変更して増やさなければ」

 船奉行のツツイが疲れたような声で言う。

「フナバシ、資金繰りは大丈夫なのか?」

 俺は国の資金を心配して確認した。


「財政に関しましては、問題ありません。極東同盟の経済規模が拡大し、アマト政府として行っている国家事業が大幅な利益を上げるようになったのです」


 ルブア島で行っている石油採掘やブルム島の金鉱山から莫大な利益が上がっているのだ。それだけではなく、鉄道事業や海運業でも儲かっていた。


 アマト政府とは別に、カイドウ家としても事業を行っており、俺個人も国家事業の三割くらい儲かっている。しかも、儲かっているのはカイドウ家だけでなく、国民のほとんどが景気が良いと感じているのだ。


 税収も大きくなり、少し無理をすれば艦隊も建造できるほどの国家になっていた。

「ユナーツの財政はどうだろう?」

 フナバシは真剣な顔で考え答える。


「ユナーツは、植民地経営に乗り出したばかりでございます。今の時期なら出費が大きく収益はまだまだでしょう。財政的には苦しいと思います」


 ユナーツは戦に勝ってアマト国の一部を割譲させると同時に、膨大な賠償金を手に入れる気だろう。割譲させる候補地として、油田のあるルブア島や金鉱山があるブルム島を考えているのではないか。


「ユナーツは軍艦建造の資金をどうやって工面したのです?」

 クガヌマがフナバシに尋ねた。

「ユナーツ政府は、国債というものを発行して、銀行や個人に買わせたようです」


「ん? 理解できん。国債とは何でござろう?」

「銀行や国民からの借金のようなものです。国が返済を約束しているものですから、リスクが少ないと言われています」


 俺はアマト国でも国債を発行しようかと考えている。道路や湊の整備に使う建設国債というものである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る