第395話 海戦の結末

 この時点で両軍の戦力を比べると、まだユナーツの南太平洋艦隊が優勢だった。旗艦である戦艦ボルチモアは、四本の魚雷を受けて戦える状態ではなくなっていた。だが、巡洋艦四隻、駆逐艦五隻、支援艦八隻という艦隊戦力は強力なものだった。


 一方、ソウリンが率いる南洋支援艦隊は、巡洋艦三隻、駆逐艦五隻、支援艦三隻という戦力で劣勢だ。


 まだ両艦隊は距離があるので砲撃を開始していない。南太平洋艦隊もアマト国海軍の本隊が現れたので、無闇に駆逐艦三隻を追撃するという事はしなかった。


 ブライトマン提督は迷った末に巡洋艦エルパソに移乗した。いつ沈むかもしれない戦艦に乗っていては指揮を執れないと判断したのだ。


「敵駆逐艦は強力な魚雷を装備している。絶対近付けさせるな」

 巡洋艦エルパソの艦長であるイーデン艦長に命じた。その事は指揮下の各艦にも伝えられる。


 そこにまたアマト国海軍の駆逐艦三隻が近付いてきた。ブライトマン提督は攻撃命令を出した。駆逐艦と巡洋艦が一斉に砲撃を開始して近付く駆逐艦を沈めようとする。


 近付いたアマト国海軍の駆逐艦が魚雷を発射した瞬間、ユナーツの巡洋艦が発射した砲弾が駆逐艦に命中して爆発した。


 被弾した駆逐艦ナンザンは足を止め、海面を漂うだけの存在となった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 駆逐艦ナンザンのクワナ艦長は、被弾した時に頭を打って気絶した。気付いて床から起き上がると、衛生兵が頭に包帯を巻いているところだった。


「艦長、大丈夫ですか?」

 シラセ副長が声を掛ける。

「大丈夫だ。被害状況を教えてくれ」


「スクリュープロペラに繋がっている軸が破損して、今は動けない状態です」

「敵はどうした?」

「我々が発射した魚雷の中で、三発が駆逐艦に命中して一隻沈没確実、二隻は大破です」


「なぜ駆逐艦だけなんだ?」

 クワナ艦長は巡洋艦を狙うように命じていたのだ。

「最後の瞬間、駆逐艦が巡洋艦を守るように前に出てきたのです」

 それを聞いたクワナ艦長は、納得したように頷いた。


 艦長が艦橋から外を見ると、南太平洋艦隊と南洋支援艦隊が激しい砲撃戦を繰り広げていた。その御蔭で駆逐艦ナンザンは放置されているようだ。


「艦を修理できないのか?」

「機関室で修理をしていますが、まだ修理できるかどうかは分かりません」

「そうか」

 クワナ艦長は無念そうに言うと、砲撃戦の様子を見詰めた。


 砲撃戦は次第に味方艦隊が押され始めていた。見ている間にアケチ型巡洋艦の一隻に命中弾が続き、大破となった。


 その頃から風が強くなり、海が荒れ始める。海戦はアケチ型巡洋艦の二隻目が沈んだのを境に終わった。南洋支援艦隊が敗北を認め、敗走を始めたのである。


 だが、ユナーツの南太平洋艦隊は追撃しなかった。多くの艦艇が魚雷と砲撃により損傷していたからだ。しかも、戦艦ボルチモアが沈んでしまい、その乗組員を救助するために人手が必要だった。


 駆逐艦ナンザンは味方の船に曳航されてグアム島へ向かう。そして、水上機母艦イワキに乗るソウリンは、怖い顔をして後方を見ていた。


「敗北か。大勢の味方を死なせてしまった」

 二隻の巡洋艦に乗っていた者はほとんど助からなかった。大勢の味方が死んだ事実を指揮官であるソウリンは噛み締めていた。


「提督、そんな顔をしていないで、命令を出してください」

 ドウセツがソウリンに声を掛けた。

「分かっているが、どうしても心が鎮まらんのだ」

「気持ちは分かりますが、それが指揮官の務めです」


 頷いたソウリンは詳しい被害状況を報告させ、負傷者を手当させた。グアム島へ戻ったソウリンとドウセツを含む南洋支援艦隊の幹部将校は、反省会を開いてなぜ負けたのか分析した。


 その結果、最初の魚雷攻撃で戦艦を狙わせたのが間違いだったのではないかという話になった。

「戦艦を狙わずに、巡洋艦や駆逐艦を狙うべきだったと、クワナ艦長は主張するのだな」


 ソウリンが確認すると、クワナ艦長が肯定する。

「戦艦は、敵の戦艦と戦うために造られた戦闘艦です。戦艦がない我々は、戦艦ではなく巡洋艦や駆逐艦を初めに沈めるべきだったのです」


 敵の戦艦が主砲を使っていなかったのを思い出したソウリンは、砲弾を出し惜しみしたのだろうと考えていたのだが、本当は主砲で小さな駆逐艦を仕留める自信がなかったのかもしれない。


 ソウリンは詳細な戦闘記録と反省会で話が出た事を纏めて報告書にすると、ドウセツに託した。無線電信で結果だけは報告してあるのだが、ホクトから詳細な報告書が早急に欲しいと連絡してきたのだ。


 ドウセツは報告書を受け取り、水上偵察機に乗った。途中の島々にある味方基地を経由してチガラ湾の海軍本部へ向かう。かなり無理をして海軍本部に到着した時は、ヘトヘトになっていた。


 それでも海軍本部から列車に乗ってホクトへ行く。ホクト城へ登城したドウセツは報告書をソウマ提督に渡すと、医務室へ行って気絶するように寝た。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 俺はドウセツが持って来た報告書を読んだ。顔が険しくなったのに気付いたソウマ提督が、声を上げる。


「上様、ソウリンたちが失敗したのですか?」

 俺はゆっくりと首を振って否定する。

「いや、そうではない。失敗したのは、俺だ」

「どういう事です?」


「ユナーツの軍艦が、予想以上に性能がいい。ユナーツの力を見誤ったようだ」

 俺は報告書をソウマ提督に渡した。それを読んで唇を噛み締める提督。

「鍛え上げた海軍兵が、五百人以上も……」

 ソウマ提督は戦死者の数に心を痛めたようだ。


「戦に死者は付きものだ。問題はユナーツに対する戦略や戦術が、不完全な状態で戦いを始めてしまったのが、問題なのだ」


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