第397話 新しい国造り

 俺はドウセツを呼んだ。ドウセツが来ると、会議室の末席に座る。

「ドウセツ、ユナーツとの戦いをどう思った?」

「はい。ユナーツの技術が、我が国に追い付いてきていると感じました」


 それを聞いた俺は頷いた。俺自身も感じている事だったからだ。

「今回は、魚雷攻撃が成功したそうだな。それについて何か気付いたか?」

「魚雷攻撃は、後一回か二回なら成功するでしょうが、それ以上は対策を取られて通用しなくなるのではないか、と考えております」


「ふむ。ユナーツの学習能力が高いという事だな」

「それだけではなく、敵の軍備を研究する優秀な人材や資金が豊富なのだと思います」

 俺は外交奉行のコニシに目を向ける。

「ユナーツの主な産業はなんだ?」


「食料とタバコです」

 ユナーツでは、喫煙という習慣が復活していた。その習慣を世界に広げようと考えているらしい。

「その次は海運業になっております」

 大規模な造船能力は軍艦だけでなく商船の分野にも発揮され、世界最大の輸送船所有国となっていた。但し、その船の多くが列強諸国に貸し出されており、海運業で大儲けしているという訳でもない。


「海運業で大きな利益を上げるには、高い利益が得られる商品を作る植民地が必要です。それらの土地は、列強国が先に植民地化しているので、ユナーツはオーストラリアと極東を狙っているのでしょう」


 大異変が起こる以前、アフリカ、中東、西アジア、南アメリカと呼ばれていた地域は、列強諸国がほとんどを植民地にしている。


 列強諸国はその植民地で大規模なプランテーションを運営し、高く売れる商品作物を栽培して大儲けしている。列強国が戦争に負けても、復活してくる源泉はその植民地にある。


 植民地から上がる利益が途絶えない限り、列強国は列強国のままだろう。

「上様は、以前に植民地主義は廃れると言われておりましたが、廃れるような傾向はありません。本当にそうなるのでしょうか?」


「間違いなく植民地主義は廃れる。但し、国家間の競争は続くだろう」

「それはどういう競争でしょう?」

「経済と軍事力だ。我々が極東同盟で行っている事だ」


 アマト国は経済で極東同盟を結び付け、ゆっくりと発展させている。このまま発展すれば、極東同盟国は先進国の集まりとなり、その軍事力を結集すればユナーツにも負けない存在となるだろう。


 但し、それは未来の話だ。今の極東同盟は、それほどの力を持っていない。

「上様、話が逸れているようです。ドウセツを呼んだのは、どうしてでございますか?」

 トウゴウが鋭く指摘した。


「そうだった。ユナーツの海運業に、これ以上儲けさせたくないので、オーストラリアをユナーツに渡したくない。そこでオーストラリアの現状を聞きたかったのだ」


 ドウセツが頷いた。

「承知いたしました。オーストラリアの現状ですが、東部の端をユナーツ、西部の端を列強国が押さえ、その他の原住民が抵抗しているところです」


「我が国の銃器を提供し、支援しているのだったな?」

「そうです。原住民からは感謝されておりますが、ユナーツ人からは怒りを買っています」


「それが、今回の海戦の原因にもなっているだろう。原住民がユナーツ人に対抗できそうか?」

「このままではダメでしょう。国家としての体制が整っておらず、部族単位で反抗している状態なのでユナーツ軍を押し返すのは難しいです」


「なるほど、国家体制か。誰かを国王か大統領にして国としての形を整えねばならんな」

「う、上様、新しい国を作るのですか?」

 フナバシが驚いて声を上げた。

「それくらいできねば、ユナーツに対抗できんだろう。まずは敗走した南洋支援艦隊を建て直さねばならない。ソウマ、検討してくれ。そして、コニシ。どうすればオーストラリアに国が作れるのかを研究してくれ」


 二人は頭を下げて命令を受けた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ドウセツを送り出したソウリンは、グアム島基地で軍議を行っていた。

「ロクゴウ少将、ニュージーランドとニューカレドニアの様子はどうですか?」

 ソウリンが質問した。


「意外にも静かなものです。ユナーツの南太平洋艦隊も相当な被害があったようで、艦艇を修理しなければ動けないのでしょう」


 ロクゴウ少将の言葉を聞いたソウリンは、ホッとした表情を見せる。

「ここでニュージーランドとニューカレドニアを攻められていたら、その二つを奪われていたかもしれませんな?」


「そうだな。そうなったら、腹を切らねばならぬところだった」

 ソウリンはロクゴウ少将の厳しい顔を見て、本気だと分かった。

「上様は援軍を送ってくださるはずです。それで二つの新領地は守れるでしょう。問題は、また南太平洋艦隊と海戦する事になるかもしれないという点です」


 その時は南太平洋艦隊も増強されているだろう。ソウリンは同じ敵に二度も負けたくなかった。

「だが、敵も魚雷攻撃を予想している。簡単に成功しないぞ」


 それはソウリンも承知していた。

「我々が戦場を選ぶ事ができたら、劣勢を挽回できるのですが」

「その戦場というのは?」


 ソウリンが海図を取り出して、ニューカレドニアの北東にある島々が点在している場所を指した。


「ふむ、デスブリ諸島か。ここに何があるのだ?」

「ここを大型船が通過するには、デスブリ水道を使うしかありません。そこを狙えば逃げられずに仕留められるはずです」


 海の水道というのは、海において陸地が両側に迫って狭くなった通路状の箇所の事で、船の通り道となっている。


「しかし、攻撃する側もデスブリ水道を使うしかないのだろう。激しい砲撃を受けるぞ」

「この攻撃には、魚雷艇を使います。それならデスブリ水道でない海域でも通れます」

 ロクゴウ少将は検討する価値があると判断し、研究させる事にした。


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