第384話 新しい脅威
『ダメージコントロール』というユナーツの言葉がある。戦闘時に関して言えば、爆発等が発生した艦船において、浸水を防ぎ、予備浮力と復原力を維持し、可燃物の除去や火災の鎮火などの活動、負傷者の処置などを行うものだ。
略してダメコンと呼ばれるものは、アマト国海軍にはなかった。そこでダメコン協議会を設立し、考えさせる事にした。
このダメコンの優劣により死者数がかなり変わるようだと分かると、ダメコン協議会に参加している者たちは真剣に取り組むようになる。
その中に現在の重臣たちの孫や息子が大勢参加していた。
「モロス殿は、どう思われますか?」
議事進行役のコニシ・タネヤスが、家老であったモロス・ミチナオの孫を指名する。
「被弾した場合に、一番に行う事ならば、負傷者を助け出し治療を受けさせる事だと思う」
「そうだろうか?」
疑問を呈したのは、カイドウ家の長男であるフミヅキだった。
「フミヅキ様はどう思われるのです?」
「救助も大切ですが、第一は被害の大きさを把握する事だと考えています」
被害の大きさを把握するために必要な事は何が有るかという話に移り、被害を数値化するという事に決着した。
船の区画ごとに破孔の大きさと浸水量を報告させ、場合によっては負傷者が残っていても浸水区画を封鎖する作業を優先する判断も必要になると結論する。
そんな結論を出した会議の参加者たちは、顔を強張らせていた。自分たちの決論が現場で実行されれば、味方を殺す事になると理解したからだ。
しかし、封鎖作業が遅れて船が沈めば、それ以上の犠牲者が発生する。それらの状況を見極め判断するのは副長の役目だった。
「なぜダメコンは副長の役目なんだ?」
モロスが進行役のコニシに質問する。
「艦長は戦闘の指揮がありますから、副長の役目なのです」
「なるほど」
「他に問題にすべき事はありますか?」
コニシが皆を見回し質問した。フミヅキが手を挙げる。
「船に入った水を外に出すポンプが必要ではありませんか?」
「そうなると、艦の設計を変更する必要があります」
「我が国の艦船が沈み難くなるなら、設計を変えるべきなのです。ただ建造を始めている艦船は、無理かもしれません」
ダメコン協議会の結論は評議衆へ上げられ、海軍の艦船を設計変更する事になった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ギネス大統領は、スペンサー国務長官から報告を受けた。
「ふむ。アマト国が戦艦と巡洋艦の建艦計画を変更したというのか?」
「はい、戦艦や巡洋艦を造る造船所の建設を始めたようです」
「それで、その造船所が完成すれば、どれほどの戦力を建造できるのだ?」
「噂ですが、新しい造船所で戦艦を五隻、巡洋艦を十二隻ほど建造する予定だとの事です」
「それは元々の建艦計画に上乗せするという事か?」
「そのようです」
元々が戦艦四隻、巡洋艦十二隻の建艦計画だったので、それに加えると戦艦九隻、巡洋艦二十四隻という事になる。
「それでも我が海軍の戦力が、五年後には勝つように思うが、どうなのだ?」
スペンサー国務長官が渋い顔をする。
「新しい造船所で建造される戦艦や巡洋艦は、新型だという情報です」
それを聞いた大統領が顔を歪める。
「その新型の性能が分かっているの?」
「いえ、我が国の諜報員が、懸命に手に入れようとしておりますが、ガードが堅く入手は難しいようです」
大統領が不機嫌な顔になる。
「追い付いたと思ったら、また突き放されるのか。面白くないな。どうしたらいいと思う?」
「我が国独自の戦術や戦略を構築するしかないと思います」
「簡単に言うが、難しい事だ。アマト国が採用した砲塔という技術、あれを見るまで我々は考えもしなかった」
「ですが、すぐに研究し同じものを開発しました。これは我が国の国力が、アマト国と同等か上回っているからできたのだと思います」
「真似はできても、新しいものを創り出すのでなければ、ナンバーワンにはなれん。そうじゃないか?」
「今すぐには無理でございます。ですから、戦艦や巡洋艦の量産計画を立てたのです。ですが、もう少し増やす必要があるかもしれません」
「無理を言うな。これ以上は人材が足りん。金を出せば、職人や技術者が湧いてくるというものではないのだぞ」
「それでは職人や技術者の睡眠時間を削るしかありません」
それを聞いた大統領が溜息を漏らす。
「こんな事では、歴史上最低の大統領だと言われそうだ。我が国だけの戦術や戦略を探した方がいいのではないか?」
「いつ探し出せるのか分からないのです。現状では造船所で働く者たちに、頑張ってもらうしかありません。……そうだ。新しい戦術というと、参考になるものを思い出しました」
その言葉を聞いた大統領は、ジェンキンズ島の遺跡を思い出した。
「そう言えば、何か大きな発見が有りそうだと聞いたが、どういう事なのだ?」
「ジェンキンズ島の発掘調査隊が、新しい部屋を発見したのです」
大統領が身を乗り出して、詳しく報告するように命じる。
「新しい部屋にあったのは、ロケット砲と呼ばれる兵器の展示品でした」
「それはどういうものなのだ?」
「火薬のようなものを推進剤として使い、爆発物を飛ばす兵器のようです」
大統領が頷いてから、首を傾げる。
「しかし、あの遺跡から大量の兵器が出て来るのは、なぜなのだろう?」
「たぶん戦争と科学技術の関係をテーマにした博物館のようなものだったのではないか、と学者連中が言っておりました」
「戦争と科学技術か。そう言えば、『戦争が、科学技術の発展を加速させる』という言葉を聞いた事がある」
「その言葉は、真理なのでしょう」
「それで、そのロケットを使えば、敵艦隊にダメージを与えられるのかね?」
「できるようです」
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