第383話 爆撃機
アマト国としては、航空戦力を充実させる事にした。その上で使うかどうかを決めようと考えたのである。
航空機開発部隊は、タビール湖の近くにあるタカマル工場で爆撃機の開発に取り組む事になる。そのタビール湖の
「航空参謀、会議の時間です」
部下のニシザキ・ハヤテから声を掛けられたドウセツは、頷いて航空機戦術研究班の建物へと向かう。小規模なチームだった航空機戦術研究班も、今では百人を超える組織になっている。
ドウセツは戦術研究棟へ入り、大広間へ向かった。
「クロダ大尉、上様から指示が届いたと聞きますが、どういうものなのです?」
航空機開発部隊の設計技師であるイマバヤシ・ナリミチが質問した。
「今から説明する。上様から水上機を開発するように、という指示が届いた」
イマバヤシが『水上機とは何だ?』という顔をする。
「水上機というのは、湖や海から飛び上がり、また水上に着水する航空機の事である」
大広間に集まった研究員たちがざわっとする。
「それは小舟に翼を付けろという事でございますか?」
「そうではない。上様がスケッチを書いてくださった。それを参考にして欲しい」
そのスケッチには、胴体の下に大きなフロートがあり、両方の翼の下に小さなフロートが有る航空機の姿が描かれていた。
スケッチが回されて、全員が見た。
「但し、それは一つの例である。大きなフロートを二つ持つ水上機というのも考えられるし、航空機の胴体をフロートの代わりにするという構造もある」
イマバヤシが頷いた。
「そういう構造なら、水に浮くでしょう。ですが、機体が重くなるので、航続距離が短くなると思います」
「その対策として、上様はアルミニウムの活用を提言されている」
「アルミというと、南洋の島で採掘された金属ですな。確か、電気を使って精錬すると聞いておりますが」
「その通り、そのアルミに銅とマグネシウムを加えた合金にすると、ジュラルミンというものになるのですが、軽く丈夫な金属なので、航空機には最適だそうです」
「なるほど、そのジュラルミンを使って、機体を軽くするのですな」
「それだけではない。エンジンの馬力を上げるようにという指示もある。これは重い爆弾を運ぶためだと思われる」
「爆弾を運ぶと申しますと、空から爆弾を落とすのですか?」
「そうです。今回開発する機体は、水上爆撃機という事になります」
その機体の開発が、どれほど困難か理解した設計技師たちは、溜息を漏らした。
「しかし、なぜ水上爆撃機なのです?」
「船で運んで、海上から飛ばすためです」
「そうなると、大きさも考えねばなりませんな」
設計技師たちがガヤガヤと話し合いを始めた。
もちろん、水上爆撃機だけを開発するのではない。普通の爆撃機も開発予定である。これは海軍基地に配備して、敵の艦隊が攻めてきたら攻撃するためである。
これらの爆撃機を動かすエンジンは、最近開発された空冷星型九気筒エンジンになる。このエンジンは百二十馬力ほどで、爆撃機は二基を搭載する事になるだろう。
二種類の爆撃機を開発すると同時に、爆弾の開発も行わなければならない。
「大尉、上空から爆弾を落としたとして、上手く海上の敵艦に命中するものでしょうか?」
イマバヤシは 爆撃機を開発しても役に立つのかを心配しているらしい。
「その心配は分かりますが、そのための爆撃照準器を開発する予定です」
「そんなものを……なるほど、上様は確かな考えがあって爆撃機の開発を命じられたのですな」
「もちろんです。但し、それに応えられるかどうかは、我々の頑張りに掛かっています」
「分かりました。頑張ります」
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
その一方で、アマト国の各地で造船所の建設が始まった。それらの新しい造船所では、ホタカ型戦艦やタジマ型巡洋艦を建造する事になっている。
ホタカ型戦艦というのは、ドウゲン型戦艦の次の戦艦である。現在は設計中であるが、一万トン級の戦艦となる予定だった。
またタジマ型巡洋艦は、三千トン級の巡洋艦でユナーツのチャールストン級巡洋艦に匹敵する。だが、ユナーツが三十六隻も建造する予定なのに、タジマ型巡洋艦は十二隻だけだった。
ホタカ型戦艦も四隻だけという予定である。ユナーツのテキサス級戦艦を十二隻建造という計画に比べれば、ずいぶんと見劣りがする。
「ユナーツに潜入している忍びに命じて、我が国では戦艦や巡洋艦の建造を慌てて進めているという噂を流してくれ」
ホシカゲが俺の顔を見てから頷いた。
「ですが、よろしいのですか? 建造を急いでいるのは、事実なのでは?」
「いいのだ。ユナーツの計画を知ったのに、何も動かないのでは、不審に思われる」
「なるほど、爆撃機の開発を隠すために、ホタカ型戦艦とタジマ型巡洋艦の建造を知らせて、ユナーツを安心させようと言うのですな」
「安心させるだけではいかん。不安にさせるほど、建造数を水増しして情報を流すのだ」
「しかし、それを知ったユナーツが、戦艦や巡洋艦の建造数を増やそうとするのでは?」
俺はニヤッと笑った。
「ユナーツの国力を考えると、今の建造計画が限界なのは分かっている。そこを無理に増やそうとすれば、何らかの悪い影響が出るはずだ。俺はそれを期待している」
「これはまた……上様も人が悪い」
「そのくらいせねば、ユナーツに勝つ事はできぬのだ。それに隠し玉は、爆撃機だけではないぞ」
「と言いますと?」
「魚雷だ。魚雷の性能を大幅に上げる事に成功した。その魚雷を搭載した駆逐艦を多数建造する予定になっている。巡洋艦くらいなら、その駆逐艦が撃沈するだろう」
「しかし、魚雷を当てるには接近せねばならない、と聞いております。被害も大きいのではありませんか?」
「分かっている。そのために被弾時の対応を、どうすればいいか、考えさせている」
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