第382話 ユナーツ対策

 ホシカゲの報告でユナーツ海軍の建艦五年計画を知った時、ユナーツの国力に驚いた。

「その数字は間違いないのか?」

「残念ながら間違いありません」


 テキサス級戦艦を十二隻、チャールストン級巡洋艦を三十六隻も建造するというのだ。その規模に驚くしかなかった。


 大広間に集まった評議衆を見回す。その中のツツイ船奉行に顔を向ける。

「我が国の五年間の建艦計画は?」

「ご存知とは思いますが、ドウゲン型戦艦三隻、アケチ型巡洋艦六隻と変わっておりません」


 アマト国海軍の建艦計画が、ユナーツ海軍と比べて酷く劣っているのは、次期戦艦・巡洋艦の設計が遅れているからである。


「新戦艦は諦めて、ドウゲン型戦艦の建造を増やすべきなのではございませんか?」

 クガヌマが進言した。それを聞いて頷く評議衆も何人かいる。数は力であるという事実を知っている男たちなのである。


「建艦計画を変更しても、五年後には海軍力で逆転されるだろう。ユナーツに匹敵するだけの戦艦や巡洋艦を造れる造船所がない」


 俺が指摘すると、クガヌマが悔しそうな顔をする。

「では、造船所を増やすという事はできませぬか?」

 海軍のソウマ提督が言い出した。ソウマも数には数で対抗するしかないと、考えているようだ。それは無理もない考えだった。


 トウゴウが鋭い視線を俺に向ける。

「上様には、何か考えが御有りになるのでございますね。それを聞かせてください」


「いいだろう。今、ホクト造船所の設計部に、設計を依頼している戦艦の事は聞いているであろう」

 ツツイ船奉行が頷いた。

「一万トン級の高速戦艦だと聞いております」

「そうだ。時速四十六キロほどを目指している」


 ソウマ提督が首を傾げた。

「戦艦に、それほどの速度が必要なのでございますか?」

 戦艦は海上の砲台だと考えているソウマ提督には、速度など必要ないと思えたのである。


「陸上を攻撃する場合なら、速度は必要ないだろう。だが、戦艦対戦艦の戦いとなった場合、速度は重要になる。どうしてだか分かるか?」


 そう質問されて、ソウマ提督が気付いた。

「主砲の有効射程でございますね」

「そうだ。新しい戦艦の主砲は、口径こそほぼ同じ三十五センチ連装砲だが、ユナーツより有効射程が長くなるように設計されている」


「速度を使って、長い有効射程を活かす戦い方をせよ、という事でございますね?」

「その通り。但し、これは難しいぞ。そこでもう一つ考えている。航空機の利用だ」


「上様、領土に近い海で海戦が起きたのなら、航空機を利用する事もできますが、遠海で海戦が起きた場合、航空機を利用するなど無理でございます」


「ならば、船に飛行機を積めばどうだ?」

「しかし、発進できなければ、ただの荷物でございます」

「本当は大型船を建造し、その甲板に滑走路を作って、船上滑走路から航空機を飛ばす事を考えておったのだが、今の技術では難しい。そこで水上機を積んで、海面に降ろして発進させるという事を考えている」


 俺は水上機母艦の建造を考えていたのである。

「しかし、水上機の機銃くらいでは、戦艦はどうにもなりませんぞ」

 クガヌマが疑問を口にした。

「水上機には、爆弾を積もうと思っている。それを上空から敵艦に落とすのだ」


 それを聞いた評議衆の間に沈黙が広がった。新しい攻撃手段である『爆撃』が、戦争をどのように変えるか想像して、沈黙が広がったのである。


 厳しい顔をしたトウゴウが俺に顔を向けた。

「それは敵艦だけでなく、地上の町も攻撃できるのではございませんか?」

「もちろん、地上も攻撃可能だ。戦争が変わるだろう」


「上様、その攻撃方法をユナーツに教えて良いのでしょうか?」

「ユナーツが真似をするというのか?」

「そうでございます。今のアマト国には防ぐ方法がございません」


 防ぐ方法か? レーダーと迎撃部隊が必要になる。迎撃部隊は用意できても、レーダーの開発は難航しそうだ。俺が生きている間に開発できるか分からない。


「だが、それはユナーツも同じだ。両方ともが防げない攻撃手段を持っていれば、戦争が起きる事を避けるのではないかと思っている」


 それにユナーツとの戦が起きた場合、必ず勝ちユナーツの首都アトランタの近くにある島を割譲させようと考えている。


 大異変の時、アメリカの東海岸も海に沈み、首都はアトランタに移ったようだ。そして、東海岸の海には多数の島が出来た。その中で軍事基地化できる島を割譲させ、ユナーツの首に突き付けられたナイフにしようと考えたのだ。


「上様の御考えは分かりました。ですが、爆撃の他に何かないのでございますか?」

 トウゴウはユナーツが爆撃の真似をするというのが、気に入らないようだ。


「そうだな。ウォル島のセイダラ湾に建設した海軍基地を、チガラ湾の海軍基地並みに拡張して、そこに駆逐艦部隊を配備するというのは、どうだ?」


 ウォル島はハワイがあった場所の近くにできた島である。太平洋の中心に近い場所にあるので、アマト国を攻撃する場合、その近くを航海する事になる。


 戦艦や巡洋艦を攻撃すれば返り討ちになるが、輸送船などを攻撃して補給を断つという作戦を実行できる。そう説明すると、トウゴウは気に入ったようだ。


 だが、クガヌマは不満なようだ。

「ユナーツ軍なら、ウォル島を攻撃するでしょう。その場合はどうするのです?」

「航空戦力を配備して、返り討ちにするしかない」


 結局、航空戦力が重要である事をユナーツに教える事になる。厄介な敵だ。


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