第372話 晨紀帝と成王

 アマト国が列強諸国から領土の一部を奪い、その国民がヌンバス地方で暮らし始めた事でアマト国民が蛮族などではないと知られ始めた。


 極東にある国だが、アマト国は文明国であり列強諸国にも劣らぬ文明を築いていると気付き始めたのである。


「当分の間、列強国が極東同盟に手を出す事はないだろう。ただ極東にも問題がある」

 俺が言うと、評議衆たちが渋い顔をする。


「上様、桾国の事を言われておられるのですか?」

 トウゴウが確認し、俺が頷いた。

「そうだ。晨紀帝と蘇采省の成王が、また戦を始めたようだ」

「成王の背後に、誰か居るのでございますか?」

「ユナーツが、単発銃と銃弾を売っているらしい。これは純粋な商売のようだ」


「商売だったとしても、問題でございます」

「だが、我が国が禁止する事はできん。そうであろう?」

「それは、そうでございますが、新兵器である単発銃を売るというのは……」


「そうだ。新兵器でなくなったから、売り始めたのかもしれない」

 クガヌマがこちらへ鋭い視線を向ける。

「ユナーツで連発銃が量産され始めたという事でございますな」

 連発銃の量産が始まったので、不要となった単発銃を他国へ売り始めたのである。


 我が国とギルマン王国との戦いの様子は、知られているだろう。そうなると、必ず多銃身式連発銃は開発するだろう。


「ユナーツは油断のできん国だ。多銃身式連発銃を真似て開発するだろう。そうなった時、戦場が変わるぞ」

 ギルマン王国との戦いで、多銃身式連発銃が大勢の兵を殺した事は評議衆にも報告されている。これからは突撃などという戦法が通用しない事は分かっているはず。


「上様、連発銃を持つ敵を倒すには、どう戦えば良いのでしょう?」

 コウリキが素直に尋ねた。

「優秀な火砲を開発して、遠方から敵を攻撃し、弱ったところを制圧するという事になるだろう」

「そうなりますと、野戦砲の開発に力を注ぐのですな?」


「野戦砲だけではない。ギルマン王国が開発した擲弾や擲弾発射器、それに精度の良い迫撃砲も開発せねばならんだろう。後、ロケット砲というのも有るが、これは急がなくとも良い」


「ロケット砲というのは?」

「円筒形の筒に火薬を詰めて、後ろに火を付けると、火とガスを噴き出しながら飛んでいくのだ。それをロケットと呼ぶ」

 トウゴウの質問に、俺はロケットの説明をした。


「ほう、火薬にそのような使い方があったとは……しかし、その筒が飛んだだけでは敵を倒せません」

「筒の先端には、爆発する火薬を仕込んでおく」


「それなら、大砲と変わらないと思いますが」

「大砲は砲身の内部で、爆発が起きるので、砲身を頑丈に作らねばならん。一方、ロケット砲は爆発しないので、発射機は軽く簡単なもので良いのだ」


 クガヌマが納得したように頷いた。

「持ち運びやすくなるのでございますな」

 射程などが迫撃砲と同じなので、迫撃砲に統一したい。だが、ロケット砲はミサイルの開発にも繋がるので、研究だけは進めたい。


 フナバシが鋭い視線をこちらに向けた。

「上様、話が逸れていますぞ。桾国の話ではなかったのですか?」

「そうであった。晨紀帝と成王の戦が始まりそうだ。戦場は南竜省になるだろう」


「南竜省には、大きな湊町であるウーチャンがありますからな。成王は手に入れたいのでしょう」

 フナバシが頷いて言った。

「桾国側は、誰が指揮を執るのでございますか?」

ヂャオ将軍だ。孝賢大将の孫だと聞いている」


「名字が違うという事は、娘の子供という事ですな。優秀なのでしょうか?」

「それはまだ分からん」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 桾国の首都ハイシャンでは、ゲンサイが周尚書であった頃に多くの忍びが、宮殿に入り込んでいた。その中の一人であるケンゾウは、二百人ほどの兵を率いるソン校尉として働いていた。


「宋校尉、君の部隊は南竜省へ行く事になった」

 直属の上司であるツァオ少将から言われて、ケンゾウは驚いた。ケンゾウが率いる部隊は槍兵の部隊なのだ。敵の成王の部隊は銃兵が中心なので、役に立たないのではないかと思った。


 その事を曹少将に言うと、構わないという。

「趙将軍の命令で、私の配下から二千の兵を送らねばならない」

 要は数合わせである。抗議しても無駄だと分かったケンゾウは、南竜省へ行く事になった。自分の部隊に戻ったケンゾウは、曹少将の命令を伝えると部下たちが暗い表情になる。


「我々に弾除けになれと言っているのですか?」

「そうは思いたくないが、趙将軍に槍兵だと知られると、本当に弾除けにされる恐れがある」

「どうするんです?」

「槍兵をやめる」


 部下たちが呆気に取られた。

「おれたちは、槍しか使えませんよ」

「槍しか使えないのは、槍しか使った事がないからだ。別の武器を用意する」


「今から新しい武器をもらっても、使い熟せる自信がありません」

 そう言った部下を、ケンゾウが睨んだ。

「まさか、新しい武器を使い熟して、手柄を立てようと思っているんじゃないだろうな?」


「い、いや、そういう訳じゃ……」

「我々は生き残るために、新しい武器を持つんだ。手柄を立てるためじゃない」

「それで、新しい武器というのは、何です? もしかして、鉄砲ですか?」


「鉄砲なんて、高価なものが手に入れられるはずがないだろ。十字弓だ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る