第371話 多銃身式連発銃の威力

 陸軍少尉のロベルトは、周りの叫び声に押し動かされるように走り出した。部下たちもロベルトを追い掛けるように走っている。


 ロベルトが周りを見ると、二万の兵がアマト国の陣地に突撃している。それは凄まじい勢いだった。それを見たロベルトは、これならアマト国の陣地を蹂躙できると考えた。


 敵陣地の防護壁が目に入り、アマト国の兵が兵器らしいものから、被せていた布を剥ぎ取った。布の下から出てきたのは、銃身を何本も束ねたような武器だった。


 アマト国がそんな武器を作ったのを不思議に思った。連続して撃てると言っても、銃身の数だけ撃てば弾込めしなければならないと考えたのだ。


 ロベルトは本格的な連発銃という存在を知らなかったのである。もう少しでギルマン王国兵の先頭集団が、射程に入る時、アマト国の陣地から攻撃が始まった。


 陣地に並べられた多銃身式連発銃が凄まじい発射音を響かせながら、銃弾をばら撒き始めたのである。


 その銃弾を受けたギルマン王国兵は、弾き飛ばされて倒れた。そして、途切れる事もなく銃弾を吐き出し続ける。ロベルトが思っていたような弾込めをする事がなかったのだ。


 アマト国の新しい武器は、桁違いの死者を製造し始めた。バタバタと倒れ動かなくなる味方兵を見たロベルトが突撃の速度を緩める。


 そして、ロベルトの足が止まった。そこに部下たちが近付いて来る。

「少尉、あれは何なのです?」

「初めて見るんだ。私にだって分からない」

 多銃身式連発銃がロベルトたちが居る方角に向けられた。ロベルトの周りで銃弾が飛び交い、部下の何人かが銃弾を受けて血を流し倒れた。


「ヒッ」

 ロベルトは部下の死を見て恐怖する。そして、じりじりと後退すると逃げ出した。この日、臆病者と多銃身式連発銃の威力を正確に判断した者たちだけが生き残った。


 ギルマン王国のシュトルム将軍は逃げ帰る兵が多い事に激怒した。

「臆病者め! 逃げるなど許さんぞ!」

 その命令に素直に従った兵は死んだ。


 シュトルム将軍は自分の命令で死んでいく兵たちを見て恐怖した。これは自分が知っている戦争ではない。別の何かだと感じた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ヌンバス地方を制圧したヌンバス派兵部隊の指揮官ナイトウ・サダナガは、突撃してくるギルマン王国兵たちを見詰めていた。


「あれだけ死んでおるのに、粘りおるな」

 副官のシノノメ・トウヤが不安そうな顔をする。

「まずいですな。そろそろ弾詰まりを起こす銃や熱で撃てなくなる銃も出て来るはずです」


 その時、ギルマン王国軍に撤退命令が出された。

「ふう、何とか乗り切ったようだ」

 ナイトウが安堵する。ギルマン王国軍は負傷者を運び出し、後方へ逃げて行った。残ったのは敵の死体だけである。もちろん、アマト国側にも死傷者は出たが、ギルマン王国軍に比べれば少数だった。


「多銃身式連発銃を整備させねばなりません」

 シノノメの言葉を聞いて、ナイトウは頷き任せる事にした。そして、敵兵をどれほど倒したか調べさせた。


 その結果、ギルマン王国兵の八千人ほどが戦死した事が判明した。これはあまりにも大きな損害であり、通常なら敗北を意味していた。


 だが、戦った場所がギルマン王国の内部であり、アマト国軍が追撃しなかったので敗北を認めなかった。


「ナイトウ将軍、ギルマン王国軍は、どのような手を打ってくるでしょう?」

 シノノメの質問を聞いたナイトウは、ホクトで開いた軍議を思い出した。


「たぶん、大砲を運んで来るだろう。その前に本格的な防御陣地を構築せねばならん」

 もちろん、防御陣地だけでなく野戦砲も船から運んで来なければならない。今回の遠征艦隊は半分以上が輸送艦か兵員揚陸艦であり、一万の兵を運んできていた。


 その一万の兵を使って、アマト国軍は直径七メートルほどのドーム状のコンクリート製トーチカの建設を始めた。一定の間隔でトーチカを建設し、それを塹壕で繋いで陣地としたのである。


 トーチカの構造はシンプルであり、銃眼の役割を持つ開口部以外は強固に守られていた。そして、トーチカの内部には多銃身式連発銃が設置され、近付く敵兵を撃ち殺すように設計されている。


 ナイトウの読み通り、ギルマン王国軍は大砲を運んできた。その大砲が揃った時には、アマト国側の防御陣地がほとんど完成していた。


 等間隔で並んでいるトーチカと塹壕。それらを守る多銃身式連発銃と野戦砲が並べられていたのである。その様子を見た敵の指揮官は攻撃するかどうかで迷ったはずだ。


 だが、攻撃命令が出されてギルマン王国側から砲弾が撃ち込まれた。それに対してアマト国側も撃ち返す。大砲の撃ち合いは、アマト国軍が勝利した。


 ギルマン王国軍は何度も攻撃を仕掛けてきたが、アマト国軍は尽く撃退する。それによりギルマン王国軍は膨大な死傷者を出した。


 その事により、国民の中からヨーゼフ国王を非難する者が現れ、国王は無能なのではないかという声が上がり始める。


 このまま戦争を続けていれば、国内で反乱が起きてしまうという危機感を持った国王は、アマト国との戦争を終らせる決断をした。


 その条件は、ヌンバス地方とオルソ島の東半分をアマト国に割譲するというものだったが、ヨーゼフ国王は渋々承諾した。こうして、アマト国は列強諸国の地に領土を得たのである。


 アマト国はバイヤル島ほどの広さがあるヌンバス地方を要塞化し、湊も整備した。そして、アマト国から運んできた商品をヌンバス地方で降ろし、列強諸国と商売するようになる。


 この事で様々なアマト国の商品が列強諸国に出回るようになり、アマト国の商人や政府は膨大な利益や税収を手に入れた。その税収はヌンバス地方の開発に使われる事になり、ヌンバス地方は列強諸国の中でもずば抜けた発展を遂げる事になる。


 それと同時に極東同盟の各国も発展を開始し、列強諸国を中心とする経済圏と極東同盟を中心とする経済圏が刺激しながら発展するという良い環境が出来上がった。


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