第352話 ユナーツ海軍vsアマト国海軍
アマト国の第一艦隊を指揮するクゼ提督は、旗艦スオウから双眼鏡で海を見ていた。
「敵艦隊までの距離は?」
「三百海里ほどです」
一海里が千八百五十二メートルなので、五百六十キロほどになる。この距離なら明日には会敵する事になるだろう。
第一艦隊は追尾艦の報告を受けて、確実に敵艦隊へと近付いていた。そして、翌日の午前九時頃に会敵した。
両艦隊はほとんど同時に敵を発見し、戦闘準備に入った。ただ第一艦隊は会敵を予想していたので、素早く戦闘態勢に入ったが、ユナーツ艦隊はドタバタとしていた。
なので、最初の攻撃は第一艦隊から始まる。ドウゲン型戦艦三隻の主砲が炎を吐き出す。砲弾は敵艦隊の戦艦に向かって飛び、手前に落ちた。
次にサナダ型戦艦三隻が主砲を発射。だが、これも目標から外れ敵戦艦の右に落ちる。三回ほどアマト国側からだけの砲撃が続いた後、やっとユナーツ艦隊が反撃を開始した。
ユナーツ海軍のカンザス級戦艦にとって、アマト国海軍と戦う初めての機会だった。カンザス級戦艦はまだ砲塔が完成しておらず、舷側に設置された
なので、すれ違う時に初めて主砲が発射されたのである。二つの艦隊は自分たちが有利な形で砲撃しようと絡み合うように軌道を変えながら、最終的に並走する形となった。
「丁字戦法の形を取りたかったが、さすがに無理か」
クゼ提督が愚痴るように言う。それを聞いたドウセツが、
「単縦陣でもないユナーツ艦隊に、丁字戦法は無理です」
クゼ提督が苦笑する。
「そうなのだが、このままだと乱戦になりそうだ」
その言葉の通り、乱戦に持ち込まれてしまった。だが、これは第一艦隊にとってはチャンスだった。遅れてきたアワジ型駆逐艦も参戦して、魚雷を放ち始めたからだ。
ユナーツ海軍も魚雷艇を開発していたが、さすがに極東にまで持ち込めなかった。持ち込むには魚雷艇母艦や専用の運搬船が必要なのだ。
それにユナーツ海軍の駆逐艦には魚雷が搭載されておらず、純粋に魚雷艇を追い払うためだけに作られた艦だった。
それに比べてアマト国海軍のアワジ型駆逐艦には魚雷発射管が装備されており、その使用する魚雷は炸薬量を増やしたので威力が格段に上がっていた。
その魚雷がアラバマ級駆逐艦に命中すると一発で撃沈する事もあった。但し、アワジ型駆逐艦が魚雷で狙うのは、戦艦や巡洋艦なのだ。
戦艦を狙って魚雷を放ったのに、アラバマ級駆逐艦に邪魔されるとアワジ型駆逐艦の乗組員たちからは、溜息が漏れた。
一方、目の前でアラバマ級駆逐艦が撃沈したのを見たジャクソン提督は、額に大きな汗を浮かべた。
「なぜ駆逐艦に魚雷が搭載されているのだ。魚雷を積んでいるのは魚雷艇ではなかったのか?」
ユナーツ海軍はアマト国海軍の事を研究していた。だが、魚雷艇の活躍が目立ったので、アワジ型駆逐艦に魚雷が搭載されている事を見落としたのである。
「提督、あれを見てください」
部下の声で、ジャクソン提督は左舷の海を見た。三隻のアワジ型駆逐艦が並んで近付いてくる。
「何っ! あれは魚雷攻撃の形。艦長、魚雷攻撃だ。
提督の声で旗艦の船首が左に曲がり始めた時、三隻のアワジ型駆逐艦が六本の魚雷を発射した。それに気付いたユナーツ兵が、主砲以外のあらゆる兵器を使って、魚雷を迎撃しようとする。
六発の内三発は外れ、一発は迎撃されて途中で爆発した。残り二発が旗艦に突き刺さるように進んでくる。
「ダメだ。逃げろ!」
左舷で迎撃しようとしていた将兵が右舷の方へ逃げ出す。その瞬間、左舷で続けて二度の爆発が起きた。
旗艦の艦橋でも激しく揺れて何人かが怪我をする。左舷に大きな穴が開き、海水が艦内に侵入する。これはもう修理できる範囲を超えていた。
同じように魚雷攻撃を受け大破した戦艦が合計三隻になった。ジャクソン提督は別の戦艦に乗り移って指揮を取り始める。
その間にオリオン級巡洋艦が四隻も撃沈した。アケチ型巡洋艦と砲撃戦をしていたのだが、搭載砲の性能が違い過ぎて、一方的な戦いとなったのだ。
ジャクソン提督は拳を握り締め、歯を食いしばって沈んでいく味方の艦を見ていた。
「クソっ、アマト国海軍と戦うのが早すぎた」
ユナーツ海軍の幹部たちは、アマト国海軍と同等の戦力を用意できたと言ったが、それは間違だった。
「情報部の奴らめ。サナダ型戦艦より大きな戦艦が有るなど、全く聞いておらんぞ」
ジャクソン提督が味方の無能に激怒し、声を荒らげた。だが、その間も第一艦隊は容赦せず、攻撃を続けていた。
クゼ提督が勝ったと確信し、ジャクソン提督が撤退命令を出した。
「追撃だ。一隻もチュリ国へ戻すな」
それがクゼ提督が受けた命令だった。追撃によりカンザス級戦艦二隻が撃沈し、二隻が拿捕された。オリオン級巡洋艦は四隻撃沈である。
「残った戦力は、戦艦が一隻、巡洋艦が二隻、それに数隻の駆逐艦か」
ジャクソン提督がチュリ国のエナムに戻って、シーモア総督に報告すると、総督は頭を抱えた。
「ここの植民地はどうなると思う?」
シーモア総督が提督に尋ねた。
「アマト国に奪われるのは確実です」
総督は軍人たちに最後まで守るように命じてから、小型船で逃げ出した。
アマト国海軍が海戦の後始末をしている頃、アマト国陸軍は、チュリ国・黒虎省・江順省を奪い取る作戦を開始した。
大陸など欲していないアマト国だったが、ユナーツが大陸の一部を支配している状況は我慢できなくなっていた。大陸に海軍基地などの軍事拠点を作られると、アマト国だけでなく極東同盟の脅威になるからだ。
忍びたちはアマト国がチュリ国・黒虎省・江順省を奪いに来るという噂を流した。それと同時にアマト国の支配者である将帝は慈悲深い君子だという噂も流す。
ユナーツに支配されるより、アマト国に支配される方が幸せになれると、広めたのである。
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