第9章 文明の衝突編

第331話 ブルム島の総督

 極東同盟に加盟しているアラバル国の南西に、イングド国が支配しているブルム島がある。この島のブリュスという港の拡張工事を、イングド国が始めていた。


 影舞のゴノスケは、拡張される湊を観察して、大型の船舶が停泊できるように工事しているのに気付いた。

「なるほど、サナダ型戦艦より大きな軍艦も停泊できるな」


 中東地域に存在する植民地全体を管理しているギャロウェイ総督は、海軍と陸軍の将校を集めて会議を開いた。


「本国から、中東の地下資源を調査しろ、という命令が届いた」

 それを聞いた海軍のカーティス・プレスコット提督が、眉間にシワを寄せた。

「それは曖昧ですな。どんな地下資源を必要としておるのです?」


「軽油や灯油などの地下資源を探しているらしい」

「それはアマト国でしか発見されていない、と聞きましたが」

 総督が溜息を吐いた。

「だからと言って、アマト国にいきなり攻め込む訳にはいかんだろう。また本国が攻撃されるかもしれんのだぞ」


「では、なぜ中東で探せ、と命令が来たのです」

「アマト国に近い、中東や極東に存在するのではないかと、本国は考えているようだ」


「そうすると、アマト国が奪い取ったルブア島が、怪しいですな」

 イングド国は何の役にも立たない島だと思っていたが、そんな地下資源が有るのなら、膨大な資金を投入して開発しているのも頷けると、プレスコット提督は考えた。


「プレスコット提督、どうしたらルブア島を取り戻せると思う?」

「無理ですな。アマト国が手放すとは、思えません」

「アマト国に戦いで勝つしかない、と言う事だな。どれほどの戦力を用意すれば、アマト国に勝てるだろうか?」


 プレスコット提督は考え、答えを出した。

「アマト国のサナダ型戦艦を、参考に開発されたコパーフィールド級戦艦が、八隻ほど必要でしょう」

 それを聞いたギャロウェイ総督が難しい顔になる。コパーフィールド級戦艦は一隻建造するだけでも膨大な建造費を必要とするからだ。


「本当に、それだけの戦力が必要なのかね?」

「サナダ型戦艦は、六隻が建造されていると聞いています。アマト国の領土を攻めれば、必ずサナダ型戦艦六隻が出て来るはずです」


 イングド国は、アマト国の最新艦であるドウゲン型戦艦を知らなかった。知っていたら、コパーフィールド級戦艦が八隻では足りないと思ったはずだ。


「我が国だけでは、アマト国を倒せそうにないな。そうなると手は一つだけか」

 ギャロウェイ総督が言った。

「別の国と組もうと言うのですか?」

「一国で倒せないなら、連合して倒すしかない。そうであろう」


 プレスコット提督は気が進まない様子を見せた。

「どこの国と連合しようと、それは難しい戦いになるでしょうね。……その候補となる国は、フラニス国になるのでしょうか?」


「フラニス国もアマト国の攻撃を受けている。こちらが声を掛ければ、乗ってくるだろう」

「ユナーツはどうなのです?」

 ギャロウェイ総督が嫌悪の表情を見せて首を振った。

「あの国はダメだ。全く信用できないというのが、私の意見だ」


 残る候補となるとアムス王国や他の列強国になるが、アムス王国以外の国は海軍が強くないので、対象外になるだろう。


「アムス王国は、アマト国と上手くやっているようですから、結局フラニス国だけになるのでは?」

「確かにそうだが、アムス王国は、本当に満足しているのだろうか?」

「どういう意味でしょう?」


「アムス王国も、我々と同じく蛮族の地を植民地化して、国力を伸ばした列強国だ。極東の小国に頭を下げながら、利益を稼いでいる現状に満足しているとは思えない」


 ギャロウェイ総督がアマト国を小国と考えているのが間違いなのだが、この会議室に居る全員が間違っているとは考えていなかった。


「総督、本国はアマト国を攻め滅ぼそうと、考えているのでしょうか?」

「そう考えている。もちろん、一回の海戦で滅ぼせるとは考えていない。何度もアマト国を攻撃して疲弊させ、最後には植民地にするつもりなのだ」


「一つ障害があります」

 プレスコット提督が声を上げた。

「何かね?」

「ルブア島を奪い返すだけなら、ブルム島の海軍基地だけで十分ですが、ミケニ島やハジリ島を攻撃するなら、バイヤル島かバナオ島を奪って、海軍基地化する必要があるでしょう」


「海翁島ではダメなのか?」

 総督が極東地域で唯一残っている領土の海翁島を海軍基地化できないかと提案した。


「あの島は狭いので、大規模な海軍基地にはできません」

「バイヤル島とバナオ島か……どちらもアマト国の領土だ。キナバル島ではダメなのか?」

「少し遠くなりますが、ぎりぎり使えるでしょう。ただキナバル島には、マレス族という原住民が居て、強く抵抗すると聞いております」


「そんな原住民など、どうとでもなるだろう」

 過激な事を言い出したギャロウェイ総督に、プレスコット提督が冷静な目を向ける。

「キナバル島も、極東同盟に加盟しています。戦争という事になると、同盟が出て来ます」

「頭を使え、原住民を騙して、キナバル島東部の湊になりそうな土地を借りるか、奪えば良いのだ」


 ギャロウェイ総督は知り合いの商人を何人か集めて、キナバル島へ派遣した。そして、マレス族が有利になる条件で取引を始め、マレス族の中に入り込ませた。


 そして、キナバル島の東部に住み着いているクリュセという一族の者と親密となり、大きな取引をするようになる。


 但し、クリュセ一族には、それほど大きな商売をする資金がなかったので、イングー人の商人が土地を担保に資金を貸すようになった。


 大きな利益を上げるようになった取引に、クリュセ一族はのめり込み海岸線の広大な土地を担保にして、様々な商売を始めた。それがイングー人たちの罠だとは気付かなかったのだ。


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