第330話 迫りくる戦雲

 ルブア島へ星型哨戒艇十隻が送られると、島に接近する外国船が減った。

 そして、刺し網がルブア島に持ち込まれ、シャコ漁が始まる。海底にシャコの巣穴が多数ある場所の上に刺し網を仕掛けて、海が荒れた翌日に網を引き上げに行くと様々な魚が掛かっているが、一番多いのがシャコだった。


 船に引き上げた網からシャコを外して木箱に入れていく。網には大量のシャコの他にタイの仲間やカレイなども掛かっている。


 それらをツルギの湊に運び下処理をする事になる。作業場に運ばれたシャコは水洗いしてから、塩茹でにして湊の労働者が働いている食堂へ運ばれる。


 食堂ではニンニクなどの香味野菜と一緒に油で炒められ、労働者の食事として出されるようになった。このシャコの炒めものは評判が良く、ツルギ湊の名物となりそうだ。


 ツルギ湊の整備が進み、ここに働きに来る人々が増え始める。アマト国から働きに来る者も多かったが、周辺国のアラビー王国などからやって来る者が一番多かった。


 評議衆であるナイトウは、ツルギ湊を訪れて発展の具合を調べる。

「どんどん賑やかになっておるな」

 ナイトウは供侍として連れて来たアオイ・シカノスケに声を掛けた。

「上様が石油産業で儲けた利益の一部を、この島に投資していますので、当然の事です」


 ここで採掘された石油は船でミケニ島へ運ばれ、石油精製工場でガソリン・灯油・軽油・重油などが生産される。灯油と軽油は周辺諸国や遠くの列強諸国にも輸出され、大きな利益を上げていた。


 湊ではミケニ島の工場で造られたポンポン自動車が走り回り、島の中央にある油田と湊を繋ぐ鉄道が建設中だった。秘密にしている油田に鉄道を造るなどしたくはなかったのだが、人の移動や機材の搬入など、どうしても大きな輸送力が必要だったのだ。


 それにユナーツ国や列強諸国が、ルブア島の秘密を探り出す事に力を注いでいるらしいという報告が上がったので、急遽防衛力を強化する事になったのだ。


 アマト国から四万の兵が派兵され、島の周囲と油田を警備する事になった。またツルギ湊にルブア総督府が設置され、初代総督にはナイトウが就く予定になっている。


「上様はどうして、各総督府を設置しようと考えられたのでしょう?」

 アオイが尋ねた。アマト国ではルブア総督府の他に、バイヤル総督府・バナオ総督府・ハチマン総督府を設置して、それぞれに軍を配備しようとしていた。


「ユナーツや列強諸国が、軍備の増強を始めたからだ」

「しかし、イングド国やフラニス国は、敗戦して間もないというのに、よくそれだけの資金があるものですね」


「植民地から搾り取った富の蓄積が有るのだろう。羨ましい事だ」

 ユナーツは元から着々と軍備増強をしていたが、イングド国とフラニス国もサナダ型戦艦に匹敵する軍艦を建造しているという情報が報告された。


 アマト国の最新艦はドウゲン型戦艦だが、この戦艦は徹底的に秘匿しており国民のほとんども知らなかった。だから、諸外国はサナダ型戦艦を基準に海軍戦力を拡張しているのである。


「ナイトウ様、島の西側に奇妙なものが見えるという報告が有りました」

 ナイトウの部下の一人が報告する。ナイトウは奇妙なものというのを確かめるために、湊にある見張り塔に上った。


 上から西側を見ると、空に何かが浮かんでいる。

「望遠鏡を」

 ナイトウが見張り兵に望遠鏡を要求すると、見張り兵が渡した。それを使って空に浮かぶものを確かめる。


「チッ、ユナーツの連中だな。こんなところで飛行船を飛ばすとは」

 アオイが意味が分からないという顔をする。

「飛行船とは何でございますか?」

「空を飛ぶ乗り物だ。ホクトで熱気球を飛ばした事があったであろう。あれに近いものだ」


「なんと、そんなものを持ち込んだのですか。すると、油田の存在を知られたという事でございますか?」

 ナイトウが眉間にシワを寄せる。

「そう言う事になる。ホクトに至急知らさねば」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ルブア島に現れた飛行船の存在を知った俺は、溜息を吐いた。

「石油を採掘する施設は、独特のものだからな。何を掘り出しているのか、分からなくとも、アマト国が貴重な資源を地中から掘り出しているのは理解したはず」


 俺が考え込んでいると、トウゴウが声を掛ける。

「上様、ルブア島の油田を守るために、四万の兵を送る事にしたのです。十分な防衛力だと思いますが?」

「そうなのだが、確実に資源があると分かった今なら、ユナーツが本気で攻め取ろうとするかもしれない」


 ユナーツの本気の度合いが心配だったのだ。こうなったら、こちらも本気で戦の準備をする必要がある。銃弾や火薬などの備蓄を増やし、小銃も最新式のものと交換させるべきだろう。


 現在のアマト国陸軍では、回転式連発銃を制式装備として採用している。だが、新型のボルトアクション式五連発銃が完成しており、量産しようとしていた。この銃は直径が七.六ミリの銃弾を使うもので、かなり強力だった。


「上様、まだ戦になると決まった訳では有りませんぞ」

 トウゴウに注意されて、思考が止まった。

「そうだが、ユナーツが黙って我慢しているだろうか?」

「報告では、一番にならなければ我慢できないというところも有るようです。今回はどうするか、分かりませんな」


 やはり最悪の事態を想定して動くほかないようだ。この際、甘い考えは捨てるべきだろう。

「極東同盟の同盟国にも協力を要請してはどうでございますか?」

 トウゴウが提案した。


「協力か、どのような協力が可能だ?」

島嶼とうしょ防衛のために、兵を送ってもらうのです。各同盟国から一万ほど送ってもらえば、防衛には十分でしょう」


 極東同盟で実際に協力して戦ったという実績ができれば、将来は極東同盟に手を出す国は少なくなるだろう。良い考えだと思った。


「上様、第一に行うべきは、敵の動きを探る事だと思いますぞ」

「分かっている。影舞に命じて、ユナーツの政府を探らせよう」


 時間は掛かるだろうが、ユナーツに居る忍びたちにユナーツ政府の中枢に居る人物の動きを調べるように命じた。


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