第314話 アマト国の援助
桾国の射杯省で行われているユナーツ軍と桾国軍の戦いが、小康状態となったという報告を聞いた俺は、評議衆を集めて相談する事にした。
大広間に評議衆が集まり、俺が入っていくと皆が頭を下げる。
「
クガヌマが頭を上げて発言する。
「桾国と言うと、ユナーツ軍との戦いでございますか?」
「そうだ。ゲンサイは待ち伏せや火攻めで、ユナーツ軍に大被害を与えて撃退するつもりであったようだが、ルオハイが危なくなったので、急遽中途半端な待ち伏せを行い、一時的にユナーツ軍を撃退した。これがまずかったようだ」
「なるほど、ユナーツ軍が待ち伏せを警戒するようになったのでございますな」
「そうだ。待ち伏せを警戒しているので、ユナーツ軍の攻撃も消極的になったようだが、桾国軍も攻められないようだ」
コウリキが俺に目を向ける。
「上様、ユナーツ軍を叩きたいと思われているのは承知しておりますが、いっそアマト軍が直接極東から叩き出す方が簡単ではありませんか?」
「開戦の理由はどうする。我が国とユナーツは戦争状態ではないのだぞ。それに桾国の皇帝を喜ばせるためだけに、アマト国の若者の血を流したくない」
コウリキが顔を歪めた。
「ですが、桾国は感謝するのではありませんか?」
「確かに最初のうちは感謝するだろうが、次には我軍をいいように利用できないか、と考え始めるだろう」
そこにトウゴウが口を挟む。
「できるなら、ゲンサイ殿の手柄としてやりたいですな」
それを聞いた評議衆が笑う。
「しかし、待ち伏せの警戒を始めたユナーツ軍は手強いですぞ」
コウリキの言葉に俺は頷いた。評議衆も同意のようだ。
「一番簡単なのは、アマト軍の単発銃を、桾国軍に与える事なのでございますが」
クガヌマが目を吊り上げた。
「そんな事はできぬ。桾国軍が単発銃で武装するような事になれば、大陸に強国が誕生する」
アマト国としては、桾国が分裂して小さな国がいくつか誕生するのが望ましい。
「桾国も、火縄銃を持っていたはずでございますが、それはどうしたのでございますか?」
ナイトウが尋ねた。
俺がホシカゲに視線を向けると、説明を始める。
「その火縄銃でございますが、宮殿の蔵に仕舞われております」
ナイトウが腑に落ちないという顔をする。
「なぜだ。こういう時こそ使うべきでござろう。まさか、火薬がないのでございますか?」
「その通りです。桾国はアラビー王国の商人から、硝石を手に入れていたのですが、アラビー王国が商売相手をユナーツに変えたのでございます」
ホシカゲが説明すると、ナイトウが苦笑いする。ユナーツは金払いが良いので、仕方ないという話になった。
「射杯省での戦いで、桾国軍は火縄銃を使っていないのだな」
俺はホシカゲに確認した。
「はい、使っておりません」
「ならば、我が国の火薬を桾国に売るか?」
「よろしいのですか? ユナーツ軍の問題が片付いた後も、購入したいと押し掛けてきますぞ」
ホシカゲが確認する。
「アムス王国からでも購入した事にしておけ。それよりゲンサイが桾国の中で、
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ゲンサイはホクト城からの指示を受け取り、火薬が手に入る事を知った。そこでハイシャンの晨紀帝と交渉して、蔵に眠る火縄銃を使用できるようにする。
驚いた事に、蔵には三千丁ほどの火縄銃が仕舞われていた。ゲンサイは火縄銃を射杯省に運び込み、鉛玉や火縄の用意をさせる。
そして、アマト国から火薬が届くと、兵に火縄銃の訓練をさせた。皇帝にはアムス王国の商人から火薬を安く手に入れたと報告した。
そうしているうちに、ユナーツ軍が動き始める。その報告をルオハイで聞いたゲンサイは、愚痴を漏らす。
「なぜ、陛下は新しい指揮官を送ってこられないのだ」
鬼影隊の趙隊長が苦笑いする。
「ここには周軍師が居るので、新しい指揮官は要らないと考えておられるのでしょう」
ゲンサイが顔をしかめる。
「誰もが勘違いしている。私は医者なのだ」
「ハイシャンでは、軍事の天才という事になっておりますぞ」
「はあっ、軍事の事など習った事はないというのに」
鬼影隊の兵が報告に来た。
「ユナーツ軍が、キョヤン平原に入りました」
ゲンサイは頷いた。
「ならば、作戦通りに火縄銃部隊を例の場所へ出陣させよ」
火縄銃部隊の指揮官が、大きな返事をして去って行った。
「やはり待ち伏せさせるのですか?」
「ああ、但し、今回は二重の待ち伏せをする。十字弓部隊の背後に火縄銃部隊を潜ませるのです」
「十字弓部隊を囮にするのですか?」
ゲンサイが渋い顔になる。
「敵は十字弓部隊に気付いて、攻撃するだろう。そうしたら、逃げるように指示してあるので、ユナーツ軍は追撃するはず。そこに隙ができる」
趙隊長の目が輝いた。ユナーツ軍は背後から三千丁の火縄銃で狙われる事になる。そうなれば、大打撃を受けるだろう。
ロッキンガム将軍が一万四千の兵を率いて、キョヤン平原を進んでいると、偵察隊から報告が入る。
「この先、三キロほどの場所で、桾国軍が待ち伏せをしております。数は五百ほどだと思われます」
「ふん、何度も同じ手で引っ掛かると思うなよ。ジャクソン中佐、二千の兵を率いて、その待ち伏せ部隊を始末しろ」
「了解です」
ジャクソン中佐が二千の兵を纏めると、本隊より先に進み始めた。
ユナーツ軍の先遣部隊二千と待ち伏せをしていた十字弓部隊の間で戦いが始まり、すぐに劣勢となった十字弓部隊は敗走を始める。それをユナーツ軍が追撃する。
遠くから、その様子を見ていたロッキンガム将軍はニヤッと笑って本隊に前進を命じた。
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