第299話 ユナーツと極東同盟
アマト海軍との戦いにより大きな被害を受けたイングド国とフラニス国の海軍だったが、まだ多くの軍艦が残っている。それらの軍艦の多くが、海賊などに対応するために植民地の海を監視していた。その任務を放棄させて、本国に戻す命令が出された。
フラニス国の元老院議長であるフォルチエは、主要な議員と海軍提督を集めて協議した。
「ユナーツに勝てると思うか?」
フォルチエ議長は、海軍の実力者であるデュトワ提督に尋ねた。
「イングド国海軍と協力すれば、軍艦の数は列強側が多いでしょう。ですが、ユナーツの新戦艦の実力が不明のままでは、勝てると断言できません」
「新戦艦について、情報部門は何か掴んでいないのか?」
ラングロワ議員が、眉間にシワを寄せて返答する。
「ユナーツ側が、厳しく管理しており、新戦艦の情報は取れませんでした。ただカンザス級戦艦というのは、アマト国海軍のサナダ型戦艦を見本として開発されたようです」
アマト国海軍と聞いて、不快そうに顔を歪める議員が多かった。
「まさか、我軍が敗れるのではないだろうね?」
デュトワ提督は唇を噛みしめてから、
「今回の戦いは、イングド国海軍との協力が鍵となります。単独で戦うには戦力が不足しているのです」
と言ったデュトワ提督の顔を、海軍長官であるルクレールが軽く睨む。
イングド国と話し合いをしているのは、ルクレール海軍長官だった。その話し合いは順調だとは言えない。どこを重点的に防衛するかで意見が合わなかったのだ。
そうこうしているうちに戦いが始まる。ユナーツの艦隊がイングド国に襲い掛かったのである。アマト国海軍との戦いで被害が大きかったイングド国を、先に叩くというのは戦いの常道である。
フラニス国海軍の全面的協力を得られなかったイングド国海軍は、命懸けで戦った。だが、カンザス級戦艦は予想以上に頑丈で、大きな攻撃力を持っていた。
集められたイングド国海軍の軍艦が数多く沈み、イングド国は敗退する。その結果、イングド国は極東に持つ占領地をユナーツに渡す事になった。
チュリ国・黒虎省・江順省は、ユナーツの植民地となったのだ。
続いてユナーツ海軍とフラニス国海軍との戦いが始まったが、最初からユナーツ海軍が圧倒しフラニス国海軍は敗れる。
海戦で負けたフラニス国は、領土が攻撃される前に敗北を認めた。イングド国と同じように中東のアラビー王国の西にあるアフジャリアをユナーツに差し出した。アフジャリアはアフリカ大陸にある小国である。
イングド国とフラニス国が敗北した事で、ジェンキンズ島はユナーツの管理下に置かれる事になった。そして、発見されたばかりの飛行船の情報がユナーツに渡る。
この事によりユナーツは自国の戦力に自信を深め、アマト国と積極的な外交を始めた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺は列強諸国とユナーツの戦いに、ユナーツがあっさりと勝利した事に違和感を覚えた。
「軍艦の数は、列強国側が多かったはずなのに、なぜ簡単に負けたのだ?」
ホシカゲは首を捻った。分からないようだ。
「両国の協力体制が噛み合っていなかった、という報告があります」
「ふむ、よく分からんな。列強国同士が争っているのは知っているが、強大な外敵が現れたら協力して戦うと思っていた」
「それを妨害する何かが、有ったのでしょうか?」
「ユナーツの忍びが、離間工作をしたのかもしれんな」
それを聞いたホシカゲの目が丸くなる。
「ユナーツの忍びが、列強諸国に大勢潜り込んでいるのでございますか?」
「列強国の捕虜から聞き出した事だが、ユナーツから来た諜報員や工作員が列強国でも捕らえられているらしい」
「アマト国でも警戒を強めた方が、よろしいでしょうか?」
「ホクト城や軍関係の工場や基地、造船所だけは、警戒を厳重にするべきだろう」
俺が人の出入りを厳重にするように命じた二日後、ユナーツの諜報員が造船所に忍び込もうとして逮捕された。明らかにユナーツの諜報員なのだが、交易区に滞在するユナーツの代表は、ユナーツ人ではないと言い張った。
俺は見せしめのために、そのユナーツ人の諜報員を処刑した。その直後、交易区におけるユナーツの商人代表ジョンソンが、一人のユナーツ人を連れて会談したいと申し入れた。
俺は了承し、時間を調整して会う事にした。
登城したジョンソンと一緒に来たのは、大統領補佐官のレジナルド・ソマーズという男だった。テーブルと椅子を並べた大広間で会談が始まる。
「ミナヅキ将帝にお会いできて光栄に存じます。本日はユナーツのクリフォード・ギネス大統領からメッセージを伝えるために来訪いたしました」
ソマーズ補佐官が流暢なミケニ語を喋り始めた。
この言葉には驚いた。大統領がメッセージをくれるとは思っていなかったのだ。
「ほう、そのメッセージというのが気になる。聞かせてくれないだろうか」
「我がユナーツは、チュリ国・黒虎省・江順省を領土に組み込みました。これで極東地域の一員となったのですから、極東同盟に参加させて欲しいとの事でございます」
また奇妙な事を申し出てきた。ユナーツのギネス大統領は何を考えているのだ。俺は極東同盟について考え、一つ落とし穴が有る事に気付いた。極東同盟の中で戦争が始まった場合、他の同盟国がどう動くか決まりがないのだ。
このままでは見守る事になる。
「貴国が極東同盟に入るのは、難しいのではないかな」
「どうしてでしょう?」
「極東地域にある領土と言っても、占領地であり植民地だからです」
「それはおかしい。同盟憲章を読みましたが、同盟となる条件は極東地域に領土を持っているかどうかだったはず」
「その通りです。ですが、同盟に参加する場合、同盟国全ての同意が必要だとあったはず。極東地域の国や地方を植民地化するような国を、同盟に入れる事はできませんな」
ソマーズ補佐官が俺を睨んだ。俺も睨み返す。変な絡み方をしてくるのは、遠慮して欲しいものだ。
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