第294話 同盟強化
ミケニ島とハジリ島に挟まった海は二つある。北アマト海と南アマト海である。ミケニ島のオオツキ郡・カイバラ郡・ミハマ郡とハジリ島のウツイ府・ヤグモ府・タナクラ郡・イナ郡に囲まれた南アマト海は、外国船を進入禁止にしている。
それは南アマト海で、海軍艦艇の試運転や艦載砲のテストをしているからである。その南アマト海にユナーツの船が南から入ろうとしていた。
それを発見したアマト海軍の巡視艇が近付いて停止させた。巡視艇は全長二十六メートルほどの小型船であるが、魚雷発射管二基と手回し式多砲身機関砲二門を搭載しており、輸送船なら簡単に沈められるだけの戦力を持っていた。
「ここは南アマト海だ。侵入禁止になっている」
ミケニ語で艇長のミゾクラが注意すると、ユナーツの商船から船長らしい男が船縁に近寄り声を上げる。
「私たちは北アマト海に抜けたいだけだ。通してくれ」
ミケニ語で声を上げるユナーツ人。
「ダメだ。引き返せ」
商船の船長は、すぐに引き返そうとはしなかった。ぐずぐずと居座り、何かが通るのを待つ。その時、遠くにサナダ型戦艦が見え、すぐに遠のいて行く。
巡視艇が外国商船と揉めているのを見て、引き返したのである。サナダ型戦艦をチラリと見た船長は、満足したように引き返した。
その報告は俺のところまで上がってきた。
「ユナーツの情報収集が、露骨になってきたな。なぜだ?」
俺はホシカゲに尋ねた。
「ユナーツ本国において、新軍備の生産が軌道に乗ったからでございます」
ユナーツでは、サナダ型戦艦を真似た鋼鉄製戦艦を開発していた。その開発が終わり、猛烈な勢いで建造を始めているらしい。
但し、砲塔は開発できなかったので、サナダ型戦艦に搭載されているものより短い搭載砲が舷側に並べられるようだ。
アマト国海軍でもサナダ型戦艦に搭載されている旧式の艦載砲を取り除いて、新規に開発された砲塔を持つ二十センチ速射砲を設置した。大改造が必要だったが、それだけの手間と資金を掛けた甲斐はあった。
「ユナーツは、サナダ型戦艦に相当する『カンザス級戦艦』を十六隻も建造する予定なのです」
俺の顔が思わず渋いものとなった。
「十六隻も建造するのか。どれだけ戦力を上げるつもりなのだ」
俺としてはいい加減にしろと文句を言いたいほどだ。ユナーツが大国なのは分かっていたが、サナダ型戦艦のような先進的な戦艦を十六隻というのは、恐ろしいほどだ。
「まさか、その戦艦で我が国に攻めてくるつもりなのか?」
ホシカゲが首を振って否定する。
「いえ、狙いは列強国のようです」
「今更、列強国と戦って何を得るつもりだ。もしかして、列強国の植民地を奪い取るつもりなのか?」
「それもあるかもしれませんが、イングド国とフラニス国で管理しているジェンキンズ島を狙っているようでございます」
ジェンキンズ島は祖先の遺物が発見されたという島だ。その島から起爆薬の秘密も発見されている。ユナーツにとっては、何としても欲しい島だというのは理解できる。
ユナーツは桾国に手を出し、ジェンキンズ島にも手を伸ばしている。非常に強欲な国だというのが分かる。その強欲な大国に対抗するためには、アマト国だけではダメだろう。
「ふむ、そうなると極東同盟を強化せねばならんな」
「強化するとは、どのようにでございますか?」
「同盟各国の国力を上げるような提案をするのだ。例えば、各国の気候や耕作地に合った農業技術の導入だ」
ホシカゲが頷いた。
「なるほど。しかし、農業だけでは限界があります」
「農業だけではない。浄水技術やセメント製造技術も広めようと思う」
「セメント製造技術は分かりますが、なぜ浄水技術を?」
「同盟国の中には、綺麗な水が手に入らず、危険な水を飲んで大勢が死ぬようなところも有るのだ」
俺は専門の部署を創設し、同盟国が発展するように技術供与する事にした。但し、軍事技術や絶対に秘匿すべきだと思われる技術は、管理を厳重にする。
「さて、桾国のユナーツ軍はどうだ?」
「射杯省の西部を掌握したユナーツ軍は、オサに駐屯していた六千の兵を占領地へ移動させました」
「射杯省を起点として、植民地を広げるつもりだな。鄭将軍の方に何か動きは有るか?」
「夜間訓練を始めたようです」
「今頃になって、夜襲の用意か。たぶんユナーツ軍にバレているな」
「夜襲は失敗すると、御考えなのですか?」
「ユナーツ軍との戦いが終わった直後に、夜襲を仕掛けたら成功したかもしれないが、遅すぎる」
俺が予想した通り、三日後に行われた桾国軍による夜襲は、ユナーツ軍の待ち伏せに遭い酷い被害を出したようだ。桾国軍を監視していたユナーツ軍は、待ち構えていたのである。
桾国軍とユナーツ軍の戦いは桾国軍の負けが続き、ユナーツ軍の占領地がジリジリと広がった。
射杯省は桾国にとって重要な土地だ。首都に通じるフォー河の河口があり、射杯省を取られると船で首都ハイシャンまで遡る事ができるようになる。
それを心配した晨紀帝は、自分の右腕である孝賢大将を射杯省へ派遣した。戦線の立て直しをさせるためである。
射杯省へ到着した孝賢大将は、鄭将軍を呼び出した。
暗い顔をした鄭将軍が、孝賢大将が泊まる屋敷に到着し溜息を漏らす。
「新型鉄砲と大砲を装備するユナーツ軍をどうしろというのだ」
愚痴を零す鄭将軍が、屋敷に入り孝賢大将が待っているはずの部屋に向かう。その部屋に入った瞬間、鄭将軍は血の臭いを感じた。
「孝賢大将、どこに居られるのですか?」
部屋の中に進み出た鄭将軍は、血を流して床に倒れている孝賢大将を発見した。
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