第290話 マジョール平原の開拓地とユナーツ
サウカァン大陸のペパスへ渡ったクガヌマは、まず湊の建設を始めた。
「ムラサワ、この地形をどう思う?」
配下のムラサワに尋ねた。ムラサワ・モリツネは土木に詳しく築城などを得意とする武人だった。
「そうでございますね。軍の湊にするには少し小さいですが、商用の湊ならば十分でしょう」
クガヌマは周りの景色を見回す。湊の奥には広大な平原が広がっている。
「広大な平原でござる。ここを開拓するのに、どれほどの年月が必要なのだろう?」
「少なくとも二十年は必要でしょう。これから何度もペパスとアマト国を往復する事になります」
まず人集めだった。マジョール平原に住むペパス人は三万人ほどである。その中で貧困に苦しんでいる者たちが八割以上になる。
クガヌマたちは、一日に二度の食事を条件に作業員を募集した。すると、最初は少数の人数しか集まらなかった。それも今にも死んでしまいそうなほど痩せこけた者たちだけである。
クガヌマは仕方なく無償で食事を与え、軽い仕事だけさせた。それが何日かすると、痩せてはいるが働けるようになり、その噂を聞いた者たちが集まり始める。
クガヌマは二千の兵を率いてきたので、その兵たちにも工事の手伝いをさせた。
急速にマジョール平原の開拓現場の人数が増え、千人を超えた辺りから本格的な開拓が始まった。湊の桟橋が完成し、道路が平原の奥へと伸び始める。
その道に沿って柵で囲った土地が出来ると、その中に牛が放された。その牛が百頭ほどに増えた時、数人の男たちがマジョール平原に訪れた。
「我らはデパラ・ファミリーの者だ。ここの頭に会わせろ」
左目の上に傷がある男だった。クガヌマはそのガリンドという男に会った。ガリンドは三白眼でクガヌマを睨み、ゆっくりと喋り始める。
「ここはデパラ・ファミリーの縄張りだ。商売をするなら、毎月五頭の牛をデパラ・ファミリーに差し出せ」
クガヌマは、こいつ馬鹿ではないのかと思った。牛は百頭ほどしか居ないのに、月に五頭も牛を差し出せば二年目には牛が居なくなる。
「なぜ我々がデパラ・ファミリーに牛を差し出さねばならない。ここの土地はアレハンドロ王から借りているものだ。賃料もきちんと払っている」
ガリンドがクガヌマを睨む。
「デパラ・ファミリーを舐めているんじゃねえか?」
「そんな事はござらぬ。舐めているのは、お主らであろう」
「後悔しても知らねえぞ」
ガリンドはクガヌマを脅して去って行った。それから五日後、ガリンドが百人ほどの男たちを引き連れて戻ってきた。その男たちの手には、マシェットと呼ばれる山刀が握られていた。
それを見た住民たちは悲鳴を上げて逃げ始める。クガヌマは戦闘準備を命じた。兵たちが単発銃を持って、ガリンドたちに狙いを定める。
それを見たガリンドが突撃を命じ、叫びながら走り始めたファミリーの男たちに向かって、クガヌマが攻撃を命じた。その横には息子のタネヨリが不安そうな顔で見ている。
連続した銃声がマジョール平原に響き渡り、マシェットを振りかざした男たちが次々に弾丸に貫かれて死ぬ。
ほんの数秒で百人ほどの男たちが死んだ。それを見ていた住民たちは青い顔でアマト軍の兵たちを見ている。
「心配ない。我々はお前たちを守ったのだ。これからはファミリーに怯える事なく暮らせるようになるだろう」
その言葉で住民たちの顔から不安が薄れた。それを見てクガヌマが遺体を片付けるように命じる。
兵たちは慣れた様子で穴を掘り、死んだファミリーの男たちを投げ入れる。マシェットは回収して、倉庫に仕舞った。
その日以降、住民たちが今まで以上に真面目に働くようになった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ユナーツのギネス大統領は、国務省のスペンサー長官からアマト国の動きを聞いて顔をしかめた。
「アマト国は何を考えているのだ?」
「我々が植民地化を諦めたペパスの一部を開拓して、大農園にしようとしているようです」
「そんな事をして採算が合うのか?」
スペンサー長官は首を傾げた。
「どうでしょう。我々は採算が合わないと判断して、手を出さなかった土地です」
ギネス大統領の顔が曇った。
「この状況はまずいのではないか?」
「まだ、大農園を開拓しようとしている段階でございます」
「だが、アマト国には強大な海軍がある。その海軍が我が国の弱点である南に軍事拠点を持てば、脅威となる」
「考え過ぎではございませんか。あそこに大きな湊を建設する事はできません」
「本当にそう思うか? ただの開拓だと考えて良いのか?」
「もう少し様子を見ましょう。たぶんファミリーが黙っていないはずでございます」
ギネス大統領が顔をしかめた。ユナーツが植民地化を諦めたもう一つの理由は、ファミリーの存在にあったからだ。ファミリーを排除する手間を掛けるくらいなら、放置した方が良いと思ったのである。
「我々はなぜファミリーなど排除すればいい、と考えなかったのだ?」
「強制的に植民地化した場合、ファミリーに住民が味方するだろうと予想したのです。その点、アマト国は上手く住民を味方にしました」
ユナーツは手っ取り早く植民地化した場合に、採算が合うかどうかだけしか考えなかったのだ。
「アマト国の動きを聞くと、なぜか不安になる。それだけ脅威だと思っているかもしれんな」
スペンサー長官が頷いた。
「本当に脅威なのです。人口や領土の広さを考えれば、我々が勝利するはずなのです。ですが、それらの条件を凌駕する新しいものがあります。まずは、それを明らかにするべきでしょう」
大統領は同意して、アマト国へ派遣する諜報員の数を増やした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます