第289話 ペパスのマジョール平原

 アマト国の探索船がサウカァン大陸を訪れ調査するようになった。その結果分かったのが、サウカァン大陸を支配する貧困の原因である。


 これらの国にも政府が有るのだが、本当に支配しているのはファミリーと呼ばれる麻薬を売る組織犯罪集団だった。


 サウカァン大陸の商人の中にも成功した者が居る。だが、有名になるとファミリーの者たちが近付き他のファミリーから守ってやると言って金を脅し取って行くらしい。


 このファミリーの存在により、サウカァン大陸の人々は成功してもファミリーの連中に金を搾り取られるのなら、働くのは馬鹿らしいと思うようになった。


 ユナーツはファミリーの連中を排除してサウカァン大陸を支配しようとしたが、大きな抵抗に遭って中止したようだ。犠牲者と資金を考えて割に合わないと判断したという。


 アマト国はサウカァン大陸の中でペパスという国の政府と交渉を始める。ペパスは王制の国でアレハンドロ・ラライン王が統治している。


 だが、アレハンドロ王が本当に支配しているのは、首都イルマを中心とした一部だけで、他はファミリーが支配していた。そして、首都イルマにもファミリーが浸透し支配力を拡大している。


 外交方のアサギリ・ヨシナリは、初めての大仕事がペパスの国王との交渉という事で緊張していた。玉座の前に進み出たアサギリは、深々とお辞儀をして挨拶する。


 その挨拶を聞いたアレハンドロ王は、何かを思い出そうとする顔になる。

「アマト国の使者と申したな。極東にある国が何の用で、我が国に来たのだ?」


「我が国は国土が狭く、人口が増えた場合、食料に困ると危惧しております。そこで広大な領土を持つ貴国の土地を借りて、食料を生産する許可を頂きたいのです」


 アレハンドロ王の顔に怒りが浮かび上がる。

「それは領土を割譲しろ、と言う事か!」

 アサギリはゆっくりと首を振って否定する。


「全く違います。土地は借りますので、賃貸料を払います。しかも、その土地は南部の方でも構いません」

 ペパスの南部はファミリーの中でも最大の組織であるデパラ・ファミリーが支配する地域である。この凶悪なファミリーは、国王であるアレハンドロ王を全く無視して南部を支配していた。


 それを聞いたアレハンドロ王は興味を示した。

「ほう、デパラ・ファミリーと戦うというのか、面白い」

「我々に南部を任せてもらえれば、デパラ・ファミリーを壊滅させますぞ」


 アレハンドロ王は思案した上で、承諾する。国王はアマト国の実力を分かっていなかった。極東の小さな国だと思っているのだ。本気でデパラ・ファミリーが倒せるとは考えておらず、デパラ・ファミリーに少しでもダメージを与えられれば良いだろうと思ったようだ。


 アマト国はペパスの南部にあるミザフ郡に匹敵する広さの未開拓地を借り受けた。広い平野で中央に大きな川が流れている土地だ。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 俺はクガヌマからペパスの南部に広大な土地を借りた事を聞いて、二千名の兵と武器を送るように命じる。


「上様、借りたマジョール平原を如何するのでございますか?」

「まずは、牛の放牧地とする。これで安い牛肉が食べられるだろう」

 クガヌマが呆れた顔をする。


「上様、どれほどの牛を飼育させる気でございますか?」

「マジョール平原ならば、数万頭の牛を飼育できるのではないか。それから牧草・大麦・大豆・小麦を育て、大農園にするのも面白い」


 クガヌマが驚いた顔をする。

「数万頭の牛を飼育するのでございますか? ですが、アマト国までは運べませんぞ」

「運ぶためには冷凍設備が必要になるが、数万頭に増える前には完成させて見せる」


 俺はクガヌマに冷凍設備というものが、どんなものなのか説明した。

「百頭ほどから始めて、数万頭まで増やすのだ。そこまで牛肉が必要ないというのなら、大麦を増やして、ビール工場を建てるのもいい」


 クガヌマはビール工場と聞いてニヤリと笑う。

「ビール工場、いいですな。風呂上がりのビールは格別ですからな」

 なぜかやる気が漲り始めたクガヌマだった。


「クガヌマ、忘れてならぬのは、デパラ・ファミリーの壊滅だ。銃を持っていたとしても数は少ないと思うが、中々残忍な奴らだという噂だぞ」


「戦場で戦った経験のない連中など、皆殺しにしてみせます」

 クガヌマ自身がペパスへ行くような口ぶりだ。

「まさか、ペパスへ行くのか?」

「上様から任されたのです。新しく召し抱えた忍びたちと息子を連れて、マジョール平原へ行って参ります」


 クガヌマの息子であるタネヨリは、元服したばかりだったはずだ。アマト国では戦いがなくなったので、本当の戦いを見せようというのだろう。


「上様、牧場を開くにも人手が必要でございます。それは如何いたしますか?」

「牧畜の専門家や職人は、我が国から連れて行く必要があるだろう。ただ労働力は現地の人々を雇うのだ。但し、麻薬に手を出した者は使うな。信用できぬからな」


「承知いたしました」

 俺はペパスの住民の支持を得るために、現地の人々を雇うように指示した。飼育場や農園で働く現地人の人数は、最終的に数千人になるだろう。


 そして、商店や鍛冶屋、工房が集まれば町になる。そこでアマト国の貨幣を使うようにすれば、南部地方に大きな影響力を与えられるはずだ。


「ペパスに正式な貨幣はないそうだが、人々はどうやって商売をしているのだ?」

 俺はクガヌマに質問した。

「主に物々交換でございます。ただユナーツの貨幣も一部だけ使われているようです」


 俺とクガヌマは細かい部分を打ち合わせして計画を練った。

「ところで、冷凍設備の完成前は、育てた牛を現地の人々に売るのでございますか?」

「いや、最初は無理だろう。ユナーツへ運んで売る事になるだろう」


「しかし、我々がサウカァン大陸へ手を伸ばした事をユナーツが気付くでしょう。よろしいのでございますか?」

「構わん。そうなれば、ユナーツ人もイングド国とフラニス国の事を思い出して、自重するようになるだろう」


 ユナーツが自重するようになるというのは、希望的観測である。だが、その時点で気付かずにアマト国や極東同盟へちょっかいを出すのなら、痛い目に遭わせてやる。


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