第284話 ユナーツの戦略

 アマト国がユナーツへ行く航路を開発したと知ったユナーツの大統領は、自国独自の航路を開発しようと多くの探検船を太平洋に派遣して調べさせた。


 その御蔭で航路が開発されたらしく、夏の頃にはユナーツから太平洋を横断してアマト国へ来航するようになる。そのほとんどが商船で、ホクトの交易区を訪れ始めたようだ。


 交易区にはユナーツの商館も建設される事になった。ただユナーツの探検船は太平洋の調査を続行しており、太平洋を支配したいという野望が感じられる。


 俺は評議衆を集めて、ユナーツについて話し合う事にした。

「ユナーツが太平洋の航路を開発して、アマト国や極東地域の各国を頻繁に訪れるようになった。その影響で各地の商業活動が活発になっている」


 勘定奉行のフナバシが頷いた。

「良い事ではありませんか」

「そうだな。だが、ユナーツ人が各国の人口や産業、兵力などを調べているという情報が、影舞と草魔から報告されている」


 それを聞いた武将たちが嫌な顔をする。クガヌマが身を乗り出した。

「ユナーツは極東地域に手を出そうと考えているのでございましょうか?」


「少し前まで、ユナーツは孤立主義と称して自国に引き籠もり、積極的に世界に出て行こうとしなかった。ところが、その間に列強諸国が発展途上国を襲い植民地化した」


 列強諸国は植民地から利益を吸い上げ自国を発展させるという仕組みを世界に広げたのだ。それに気付いたユナーツは、慌てて自分たちも植民地を持たねばならないと考え、世界各地に探検船を派遣し始めたのである。


「気に入りませんな。ユナーツの者どもが、我らの国を調べるのなら、我らもユナーツを調べる必要が有ると思われます」

 武将であるナイトウが言う。その言葉に俺も賛成だ。


「ナイトウ、その方がユナーツの大統領であったら、どこに食い込む」

「そうでございますな……私なら桾国の射杯省でしょうか」


 理由を問うと、射杯省は現在無防備に近い状況になっているという。

「まずは、桾国の晨紀帝に協力を申し出て、射杯省の湊に停泊する権利を手に入れ、じわじわと支配力を伸ばすという方法を取ります」


 ナイトウは堅実な戦略を説明した。ナイトウのやり方で動かれたら、アマト国は手を出せないだろう。ただユナーツが時間の掛かりそうな手段を取るとは思えない。



 ユナーツはチュリ国のオサに居るハン王に協力を申し出た。オサの湊にユナーツの船が停泊できるように交渉し、膨大な貢物を贈る代わりに許可を得る。


「上様、チュリ国を支配下に置くべきではなかったのですか?」

 トウゴウが諫言した。それを聞いて苦笑いする。


「トウゴウ、列強諸国の植民地政策だが、永遠に続くと思うか?」

「……人は栄枯盛衰と申します。国も永遠に栄えるという事はないはず。植民地を持つ大国もいつかは衰えるはずでございます」


「そうだ。植民地の人々も独立しようと戦い続け、最後には独立するだろう。その時、アマト国の子孫が、非難されるような事はしたくない」


「ですが、それではユナーツなどの国が増長して、極東で好き勝手に暴れるかもしれませんぞ」

「極東同盟でない他国で暴れるくらいは構わん。だが、軍事基地化して、極東地域に覇権を伸ばそうとするなら、潰すしかない」


「しかし、ユナーツは大国でございます。簡単に潰せる相手ではないかと……」

 俺は溜息を漏らす。相手は人口が八倍もある国なので、トウゴウの言う通りなのだ。そんな相手に勝利するには、文明の進歩を加速して効率的な国家システムを構築し、ユナーツの手が届かない軍事技術を開発しなければならない。


「分かっている。まずはユナーツという国そのものを調査して、どこに弱点が有るか探る」

 それには評議衆も賛成のようだ。その調査を進めるためには、ユナーツとの交易を盛んにしてアマト人がユナーツに入り込める環境を作らねばならない。


 俺はユナーツに送り出す交易船の数を増やすように命じた。


 その数日後、俺が仕事部屋で報告書を読んでいると、小姓のマサシゲが入ってきた。

「上様、海軍工廠のナガツカ様が、お見えになりました」

「大広間に通せ」

「承知いたしました」


 大広間に行くと、海軍工廠で兵器を開発しているナガツカ・カズナリが平伏していた。

おもてを上げよ」

 ナガツカと挨拶を交わし、少し雑談した後に本題に入った。


「任せていた砲塔は、完成しそうか?」

「はい、ですが、あのような重い装置を軍艦に積めば、速度が遅くなります」

「仕方ないのだ。その代わり敵が右舷にいようが左舷にいようが、どちらも攻撃する事ができる」


 砲自体の性能も上がり、射程が六キロほどに伸びていた。砲塔と優秀な測距儀を開発した事で命中率も上がっている。


「これでドウゲン型戦艦を開発できるな」

 ドウゲン型戦艦はアマト国海軍の次の主力戦艦になる予定だった。昔、戦艦の基準となるドレッドノートという戦艦があり、これと同等の戦力を持つ戦艦を『弩級戦艦』と呼んだらしい。


 今回は、このドウゲン型戦艦が『弩級戦艦』と呼ばれるようになれば良いと考えていた。


 ドウゲン型戦艦の詳細をナガツカと打ち合わせした後、諮問委員会の長であるムラキ・ゲンサイを呼んだ。諮問委員会とは、国家の形を検討する会議で、基本法や法律などと必要な役所などを研究させている。


「ムラキ、ユナーツの政治形態を聞いたか?」

 どじょう髭を生やしたムラキが、

「はい、説明を受けております。ユナーツのような国を揺さぶるには、その国民に働きかけて動かすのがよろしいかもしれません」


 それを聞いて、ユナーツに新聞社でも設立するかと考えた。


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