第283話 ユナーツの大統領

 エルドレッド船長は、世界が丸いと言われても困惑するだけだった。

「まあ、それはいいだろう。帰国したら偉い学者にでも伝えて、詳しく聞けば良い。それより、ユナーツは太平洋のどの辺りまで調査したのだ?」


「それは国家機密になっているので、教える事はできません」

 俺はなるほどと頷いた。

「ただ言っておこう。我が国が最初に発見し自国の領土だと宣言した島には、国柱碑というものを立てている」


 国柱碑は大理石に発見した日付とアマト国の領土である事を刻み込んだものだ。その国柱碑がある島には無断で上陸しないように伝えた。


 エルドレッド船長の顔が不機嫌なものに変わる。

「私の船が到着した島は、アマト国の島なのですか?」

「そうだ。あれは『サバガシラ島』というアマト国の島である」

 どうやら新発見の島で、ユナーツの領土にできると考えていたようだ。たぶん新しい島を発見すると報奨金がもらえるのだろう。


「我々の船は故障しており、このままでは帰国できません」

「船は我が国の造船所で修理してやろう。食料や水も提供する」

「ありがとうございます」


 その後、グロリア号は修理され、エルドレッド船長たちは帰国した。それを追うように探検船を東に向けて出発させる。ユナーツへの航路を見付けたかったのだ。


 時間は掛かったが、ユナーツへの航路は発見された。その探索の過程で、太平洋に浮かぶ無人島が発見されアマト国に組み込まれた。


 アマト国は新発見した島々を中継地としてユナーツへ行く事が可能になった。そこでユナーツのギネス大統領に使者を送る事にする。


 その使者として選ばれたのが、外交方のロクゴウ・アキムネである。ロクゴウは大型探検船シモウサに乗って東に向かう。いくつかの島を中継してユナーツの国が見えるところまで到着したのは、二ヶ月後の事だった。


 その地に住むユナーツ人たちと交渉し、ヌーヨークの場所を聞き出したロクゴウは、ギネス大統領に会うために船を進める。


 ヌーヨークの湊に到着したロクゴウは、湊の役人にアマト国の使者である事を伝え、ギネス大統領に会いたいと訴えた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ユナーツのトップであるクリフォード・ギネス大統領が、アマト国の使者が現れた事を知ったのは、冬の寒さが収まり春になったばかりの頃だった。


 国務省のスペンサー長官は厳しい顔をして、ギネス大統領にアマト国から使者が来た事を伝える。

「こちらから正式な使者を出そうと思っておったのに、先を越されたか」

「大統領、如何いたしますか?」


「会わねばならんだろう。大統領官邸に案内してくれ」

 大統領官邸に案内されたロクゴウは、白く大きな建物に感銘を受けた。三階の部屋に案内されたロクゴウは、アマト人で初めてユナーツ大統領を目にする。


「大統領にお会いできて光栄でございます」

 ロクゴウが流暢なユナーツ語で挨拶すると、少し戸惑った表情で大統領が挨拶を返し、それから椅子を勧める。それを聞いたロクゴウは座り心地の良さそうな椅子に座った。


「遥か彼方のアマト国から、ユナーツに来られたとは、苦労されたのでしょうな」

 そう言われたロクゴウは笑顔を見せる。

「長旅だったので疲れましたが、こうして大統領にお会いできて、疲れも消えました」


 ロクゴウは主から預かった書状を大統領へ手渡した。その書状には正式に国交を結びたいという事が書かれていた。


「ほほう、これは国交を結び交易をしたいという事ですかな」

「交易はもちろんですが、アマト国とユナーツの間に広がる海、我が国では『太平洋』と呼んでいますが、その太平洋に面した国々の平和を維持する『太平洋同盟連合』というような組織を作り、お互いに助け合いながら発展していこうと考えております」


「平和と秩序を維持して発展しようというのは、本当に素晴らしい。ただ『太平洋同盟連合』というのは時期尚早でしょう。まずは交易からという事でよろしいでしょうか?」


「ええ、もちろんです」

 ロクゴウは笑顔で答える。それから細かい事を話し合いアマト国とユナーツの国交を正式に結ぶ事になった。


 会談を終えたロクゴウが去ると、難しい顔になったギネス大統領が国防総省のウィンストン・スコットを呼んだ。


「スコット長官、アマト国から使者が来た。我が国と国交を結びたいそうだ」

「それは喜ばしい事ではないのですか?」

 大統領が不機嫌そうな顔をしていたので、スコット長官が尋ねた。


「そうかもしれんが、西の海に面した国々と同盟を結び、平和な地域にしたいと言っていた」

 それを聞いて、スコット長官は大統領が何を問題にしているのか分かった。


「それはまずいですね。我々は孤立主義のせいでほとんど植民地を持っていません。これから西にある国々を制圧し、植民地化しようと考えていたのですが」


「我が海軍は、アマト国海軍に勝てるか?」

「まだ無理です。海軍では鋼鉄製軍艦の試作船を建造し始めたばかりなのです」


「ならば、しばらくはアマト国に付き合って、友好国のフリをしておこう。……しかし、分からんな。アマト国ほどの強国なら、植民地を確保して覇権を求めるはずだ」


 国務省長官であるスペンサーが、

「アマト国の人口は、我が国の八分の一ほどです。人的資源が不足しているのではありませんか。その証拠に弱体化している桾国にも手を出そうとしていません」


「なるほど、アマト国の弱点は人口か、その点を学者どもに研究させよう」


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